02
今から十年前の事。レーノ達一家はレーノが生まれる以前から、此処をよく訪れていたらしい。やはり近くの町だからって言うのもあるかもしれない。
その頃のレーノはやんちゃで元気な男の子だった。(今もやんちゃで元気だとは思うけれどね)
そんなレーノを彼のお父さんはたいそう可愛がっていたみたい。当時レーノにはお気に入りの場所があった。
それがこの場所にあった大木。そこの天辺から見る景色は、小さなレーノからすれば迫力のある壮大な景色だったと思う。当時のレーノはツキシロさんが止めるのも聞かずに、何度も何度も登っていたみたい。そしてその衝撃な事件は起こる。
また同じようにレーノはその木へと登って行った。そこにはツキシロさんも一緒。やっぱりツキシロさんは止めたみたいで。
レーノはきっと落ちても怪我なんてしないって思っていたんだろうね。そんな軽い考えが、この後レーノの身に起こる不幸な出来事を招く事になるなんて。
枝が古かったからなのか、レーノが何時ものようにそこに足を引っ掛けたら、枝はバキッと言う大きな音を立てて折れる。瞬間にレーノの体は地面へと真っ逆さま。
ツキシロさんも受け止めようとしたけれど、受け止められず。レーノは右腕の骨を折ってしまうという大怪我を負ってしまったのだった。聞いているだけでも本当に痛々しい。
ちなみにツキシロさんの行動についての真偽は不明。直接見た訳ではなく、その後ツキシロさんから聞いたものだとカンゾウさんが言っていたから。
そしてそれを知ったお父さんは最初にツキシロさんを責める。ツキシロさんもカンゾウさんも、そしてカンゾウさんの息子さんも一緒になって謝って。
それでもお父さんの怒りは収まらなくて。クビになる事がほぼ決まりかけたそうだ。
でも数日後に痛みから来る熱から解放されたレーノの言葉によって、ツキシロさんやカンゾウさん達はクビを免れる事が出来た。
話はこれだけでは終わらない。お父さんの怒りの矛先は、別の物へと向いていたのだ。
それが、レーノが登った大木の存在。
それがなければレーノは大怪我をしなかったと言い出したらしい。お父さんは権力を使い強引に木の伐採を決定させ、木はすぐに切り倒された。この場所はそんな悲劇の場所なんだと、カンゾウさんは教えてくれた。
「そんなのって……!」
「ワタクシにはどうする事も出来ませんでした」
本当にひどい話だと思う。この事故は誰かが悪くて起きたものじゃないのに。切り倒されてしまった木が本当に可哀相に思える。
「その後、それを知ったレーノ様は深く傷付きました。自分の所為で木は切り倒されてしまったのだと、自身を責められたりもしていました。なので、そんなレーノ様からすれば辛い思い出のある場所へ来るなんて、思ってもいませんでした……」
“ワタクシは執事失格ですね”と、更に小声でカンゾウさんは付け足した。
「カンゾウさんは、とってもとっても素敵な人です! 失格なんかじゃ……」
「トキイロさんのそのお優しい気持ち、いたく心に沁みます」
今の私に出来るのはカンゾウさんを元気にしてあげる事。何時ものような少し余裕のある優しいカンゾウさんが、少し戻った気がする。
「どうせあいつらなんじゃねえの?」
すると私達と同じような野次馬の中で、そうぼやく二人組の男の人がいた。もしレーノの居場所に繋がる手掛かりならば、この二人に聞かない訳にはいかない。
「カンゾウさんっ!」
「そうですね。あのお二人から聞きましょうか。警察の方からは後程」
ほんの少し離れた場所にいる男の人達の元へ駆け寄り、私達は犯人の心当たりを聞き出し始めた。
「あの、犯人の心当たりあるなら教えて下さい!」
「なんだよ唐突に……お前達、この町の人間じゃないのか?」
男の人達はそんな事も知らないのか? と言わんばかりの様子。何? この辺りじゃ有名な犯人達なの? あいつ“ら”って言っていたしね。
私はこくりと頷けば“仕方ねえ”と片方の白いTシャツの人が教えてくれた。
「アイネズにはな、半年くらい前から変な集団が住み着いているらしいんだ」
白いTシャツの人は事細かにそれを教えてくれて、隣にいた黒髪の男の人は簡単な補足を入れてくれる。その話を要約すると……。
半年前からそれまで滅多になかった犯罪が急増。殺人と放火、誘拐以外の犯罪はほぼ全て起こったんじゃないかってくらい。
それが一連の集団による物だと分かったのは、犯罪が立て続けに起こり始めて一ヶ月後の事。犯人も分かり、住処も分かったところで確保に踏み切ったお巡りさん達。
だけどその度に犯人集団も勘が鋭いのか、そういう予知が出来る魔法を持った人間がいるからなのか、何度も何度も逃げられているらしい。
現行犯逮捕して芋づる式に……という方法もあったみたいだけど、これはまたテレポートが使える人間がいるらしく、すぐに逃げられてしまうとか。
常に単独で行動しているわけではないみたい。でなければテレポートは使えないしね。
「だから今回もそいつらじゃねえか、って思っただけだ」
「誘拐は初めてかな。だってアイネズにはそんな富豪はいないし。って事は、誘拐された子富豪だったのかな?」
黒髪の人、正にレーノはお金持ちの息子さんで大正解です。だなんて言えない。
居所が分かれば一番良いかもしれないけれど、分かった所でバレたらきっと犯人達はレーノを連れて逃げてしまう。それにこの人達が居所を知っている訳もない。
やっぱりふりだしに戻っちゃう事になるのかな? レーノの魔法がそういう居所を知らせるような物なら、一番良かったのに。
どうやらそういう物でもなさそうなんだよね。もしそうならすぐに見付かる筈だし。
「有難う、ございました……」
「ああ、どうも……っていうか誘拐された奴、知り合いなのか?」
「そんなものです」