8話 闇商人の契約者 3
Side 近衛兵バルカン
その日はいつも道理の平和な日だった。
勇者を排出した【聖王国フィアメント】。大陸の西側を統治する国家であり東方のカゲツキ民主国、北方のヴァロネス軍事国と共に世界3大国家の1つだ。
かつて世界に災厄を振りまいた魔族は異世界から召喚された【勇者ジン】によって撃退され世界に散り散りになっているし、賢王と名高い【エッシェン国王】の治世によってフィアメントは平和を謳歌していた。
そんな平和なフィアメント王国の首都、フィアメント城の王の間。バルカンが近衛兵として配属されてから2年間、事件らしい事件もなく仕事をしているのかと疑問を抱くときもあるほどだった。
現在王の間には、国王様と謁見中の教会の司祭様、護衛騎士が2人と近衛兵が私をいれて6人、大臣と書記官という顔ぶれがいる。朝早く司祭様が慌てた様子で謁見にこられ国王様、大臣、書記官と共にかれこれ1時間も真面目な議論をしている。入り口の扉前で警備している私には会話の内容まではわからないが、ひときわ声の大きい大臣から「召喚」とか「お告げ」等の言葉が漏れ聞こえてくる。
何か重大なことが起きたのだろうかと疑問に思っていると、急に光の奔流が王の間を支配した。
光が収まった所には、王様や大臣を守るように前に出て槍を構える護衛騎士と動けなかった近衛兵、そして中央に突然現れた二人の男女。
いったい何が起こったんだ!?
Side 龍斗
えーと、此処は何処でしょう?
強烈な光が収まったと思ったら先程までいた会議室ではなくムーディーなbarにいた。
薄暗い照明でカウンター周辺しか照らされていないためどれぐらいの広さがあるのかわからない、出入口もわからない。誰もいない。
とりあえず落ち着くためにカウンターに1つだけ付いている椅子に座る。
「いらっしゃいませ。」
いきなりカウンターの向かいに人が現れてビビった。アビスさんもそうだが今日はおどかされる日なんだろうか?
「あ、すみません。此処って何処ですか?」
「此処は次元の狭間にあります【秘密の店】。契約者の方々との様々な取引を行っております。私はこの店の店主【メスト】と申します。神高龍斗様、以後よろしくお願いいたします。」
メストと名乗った男は落ち着いた雰囲気を持ったバーテンダー。
「なんで俺の名前を?」
「企業秘密って処です。まぁ、この店に来れる人自体が少ないんで神高さんには注目していたんですよ。」
そう答えてメストさんはカップをとりシェイクしていく。
シャカシャカとリズミカルな音の後にスッとカクテルが差し出される。
「あ、どうも。」
一口飲むと爽やかなカシスの薫りが感じられる。うん、うまい。
「えっと、すいません。帰りたいんですけど出口は何処ですか?」
「現在、出口はありません。」
はい?
「此処は本来契約者の資格を持った方々のみが入ってこれる場所です。契約者しか入ってこれないということは契約者しか出られないという事。資格を持つ者しか出口お作れません。」
What,s?
「あぁ、でも神高様のように偶発的に来てしまった方の為にこちらで資格の販売もしていますのでご安心を。」
タダでは返してくれないんですね。ぼったくりbarかよ。
「代金の方は、使用方法の受講料プラス資格証の発行代金を合わせまして。」
どっから取り出したのか算盤をパチパチと弾いていくメストさん。
「占めて日本円で64兆円となります。」
・
・
・
「あるかー!そんな金!?国家予算並みの金を一般人が出せるかー!!そもそもその算盤桁たりてんのかい!!!!」
「ご安心を。こちらでは質屋のように物品の借り入れもやっております。神高様の所持物を預かりまして64兆円をお貸しいたします。そのお金で資格を取得してください。利息等はかかりませんので後程お金を用意いただければご返還いたしますよ。」
んな事言っても、俺の持ち物で64兆もするもんなんかあるわけないし・・・。
「はっ!まさか、いただくのはお前の命だー!とかいう悪魔的な契約かっ。」
「そんな訳はございません。そもそも悪魔に強制的に命を奪う能力などございません。それは人間の想像の産物でございますよ。」
なんか随分悪魔に厳しい考えをお持ちで。
「そこは置いておいて、神高様は担保となる物をお持ちですよ。神高様の資格の認定証全てで64兆お貸しできます。」
・
・
・
背に腹は代えられないとはよくいったもんだ。どんなにごねても文句を言っても出してくれなかったメストさんに根負けした俺は宝物の認定証全てとひきかえに【闇商人の契約者】という資格を手にいれた。
「以上が【闇商人の契約者】及び、秘密の部屋の使い方でございます。詳しい事はこちらのマニュアルをお読みください。ついでに出口はそこですのでお帰りください。」
メストさんが指差したのは俺の足下。
ヒュン
すると、急に地面に穴が開き声をあげる暇もなく、ブラックホールのような黒い闇の中に落ちていったのだった。