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「で、なんやかんやで、この木像だけは直せないのよね?」
「そういうことになるな。すまん。」
「い、いや、私が壊したんだし。別にいいよ。悪、王子・・・さん?だっけ。」
「呼び方は、赤穂寺でいい。そっちの方が呼びやすいしな。あ、後、木像のほうは代えので何とかしよう。では、あの木端とかで」
と言いながら、不意に、赤穂寺は居間のガラス戸から庭に出て、手頃な木片を拾い、
「これで何とかできるだろ。」
と言って手を翳した。すると、みるみる木片がさっき壊れた筈の木像に変わった。
「とりあえず、これで誤魔化そう。」
出来上がった木像を朱音に手渡す。どう見てもさっきあった木像に見える。
「あ、ありがと・・・助かったわ。」
「礼には及ばん、というより、全然何も解決してないけどな。それは単なる模造品だ。」
素人目にもとても良く出来た木像なのだが、
「この像ではだめだ」
「どうして?よく出来てるじゃない!」
「いや、駄目だ。こんなの単なる贋作だ。」
な、なに?コイツ、こんなに職人気質なの?
「駄目だって言う理由、聞いてもいい?」
「コイツにゃ俺を封印できん。」
ハァ?まだ与太話みたいなこと言ってる。
でもまあ、話し合わせとくか。
「えっ、アンタとしては封印解かれたんだから、喜んでいいことなんじゃないの?」
「いや、俺はもう一度、封印されたい。」
もしかして、コイツ、下界に出てきたらとんでもない事になったりするとか・・・厨二っぽいが、聞いてみるか。
「なんか、アンタの封印が解けることに下界に問題があるの?」
「別に、特に問題ないが・・・」
意外にも回答はシンプルであった
「では、何か問題でも?」
「いや、ただ、もう一度封印されて食っちゃ寝して、ネットしながら隠遁生活に戻りたい。」
「ハァ?なんて?」
「いや、だから、もう一度封印されて、あ○にゃんやル○ズたんとキュンキュンしたい。」
神と名乗る青年の事なのだ。よほど世界の危機に関わる程の
理由があるのだろうと思って深刻に聞いた自分が馬鹿だった、真剣に聞く方が愚かなのだ。なんとなく感じていたではないか。コイツがとんでもなく馬鹿な事くらい・・・。この程度の事も見抜けないだなんて・・・。
そして、とうとう朱音の心の怒りのゲージは赤く燃え上がり頂点へと達した。
「アンタは、なんでそういう発想になるのかな・・・?」
「そりゃ、楽な方に靡くのは世の常であろう、って、朱音・・・さん?」
次の瞬間、残像を纏い、朱音が動いたと思うと、一瞬の刹那に千もの撃を喰らわせる十五発の連続秘技を繰り出し、気付いた時には、既に赤穂寺は床に仰向けで倒れていた。
「働け、神。」
「・・・ぁぃ。」
薄れ行く意識の中、背景に天の文字が浮かび上がった様な気がするのを余所に、赤穂寺は「この娘を怒らせてはいけない。」そう心に誓うのであった。