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そして、その後、他愛ない世間話をもう少ししてから、二人と別れ、赤穂寺が居る筈の工房にやってきた。
「赤穂寺、いる?」
「おっ、お嬢じゃないか。久しぶり。」
と呼ぶのは、赤穂寺の兄弟子の新田と安東である。
「最近工房にも顔出さないから、親父さん、心配してたぜ?」
「え、ホント? イヤ、ごめんごめん。心配かけるつもりはなかったんですよ。お父さんにはよろしく言っといて!」
ゴメンゴメンとペロッと舌を出して謝る朱音。
「それで、赤穂寺は?」
「ん?あいつなら、2階でテレビでも見てるんじゃないか?」
「ありがと。じゃ、また後で。」
「おう!」
工房の2階は住居スペースになっており、そこに弟子達が寝泊りしていて、弟子一人に当たり8畳程度の個室が割り当てられている。
「赤穂寺!」
「うわっと! 朱音、ノックもせずに入ってくるとは、もし、ここが戦場なら即死だぞ!」
「残念、生憎ここは戦場じゃないの。指向性地雷なんてないから、ここでは当てはまらないわ」
「ふむ、ということは、ここの国はホニャララスタンとかではないということか。勉強になったわ。」
「日本の神が何言ってんのさ。ところでなんだけどさ、ちょっと聞いてくれないかな?」
「どうした?愛の告白なら受け付けてないぞ?我は十二歳以下しか興味がないからな。」
「何ロリコン宣言してんのよ、このド嘘つきが何を言ってんのさ。実は・・・。」
そして、さっき葵から聞いた話を話した。
「って事なんだけどさ、何か知ってることない?」
一通り、今日あった話を話したとたん、赤穂寺は黙りこくってしまった。
そして神妙な顔立ちで語りだした。
「そうか。今言った事に間違いはないのだな?」
「う、うん。おかしい事だって解ってるけどさ、あんたはそこらへんのオカルトに詳しいからさ、もしかして何か知ってるかなってさ。」
「その前にだ、そのクラスで欠席者は出ておらんか?」
「いや、ちょっと聞いていないからわかんないけど。」
「もしいたら、そいつは仮死状態になっているだろうな。」
えっ?思わず、絶句する朱音。なぜなら、彼の顔が余りの真剣さを物語っていたのだから。
「ちょっと待ってよ。たかだかオカルトで、仮死状態になることなんて・・・」
「お前の発想は少し正しい。確かに、オカルトだけで、仮死状態になるのなんて変だと考えるのは人間として正しい判断だ。しかしだ。世の中、病気でもないのに、苦しんでしまう事はないか?朱音。何も悪くないのに、正面向かって会えなくなったり、急に学校への足取りが重くなったり、そういったことは無いか?」
・・・確かに。そういった事はある。体育の時間、不意に見学したり、試験の時に腹痛に襲われたり。
「そういった精神に与える影響でさえ、体に不都合を与えるのだ。もし、運命、生き方に影響を与える事をした場合、どういう変化が起こるかなんぞ、想像するより簡単ではないか?」
「で、ま、ちょっとまって?今回、って運命、生き方に影響を与えるような事って起こってる?幸せの猫っていうの事態が未だよく解ってないし。」
「あぁ、そっちは大体見当付いている。猫又山の子猫又の夕顔でほぼ間違いないだろう。この前、奴の住処に行ってみたが留守にしておったからな。姉の朝顔しかおらんかった。」
「猫又山?アンタねぇ、猫又山って言ったら、こっから100キロぐらい離れてるんだけど、アンタ、車とか免許持ってんの?」
「んにゃ?んな文明開化でハイカラなモン、持ってる訳なかろうに。」
「え・・・じゃぁどうやっていったのよ?」
「そりゃ、まぁ、禁則事項ってヤツだな。」
「ふ~ん、余計な詮索はしないでおくわ。ただ、教えて欲しいんだけど、パッと聞いた限り、そんな大それた願いなんて叶ってない気がするんだけど。」
叶った願いなんぞ、本当に運がよかったで片付く程度と言ってもおかしくない。
「うむ確かに。そう見ることもできるな。ただ、それは朱音の目線が人間の目線、いや、願いが叶っている者の目線だからだ。」
願いが叶っているものの目線?それ以外の目線と言うものがあるのだろうか。
「それってどういうこと?じゃ、それ以外の視線の位置って・・・あ」
そう。それ以外の視点。叶えている側の視点。猫又夕顔の視点がまだ残っている。
「朱音も解ったようだな、そう。夕顔の視点がまだ残っておる。妖魔と言うものは、そもそも『対価』を貰って願いを叶えるもの。今風に言うとギブアンドテイクと言うヤツだな。だが今回の話を聞いた限りでは、願いを叶えた後にその代償を支払われておる。順序が逆なわけだ。」
「逆だと、なにか都合が悪い事があるの?」
2引く1が1にになるのがマイナス1に2をして1になるそれだけではないのか?
「大有りだ。基本的に対価と言うものが妖魔が願いを叶える規模の基準になるのだ。例えばだ。車が欲しいという願いに対し、もし予算が1000万円あるとするだろ?」
「うん。」
「となると、高級車のベンツが買えたりする訳だ。だが、もしそれが100円だったとするだろ?」
「うん。」
「すると、屋台のおもちゃのミニカーが当たるという形で叶う事になる訳だ。」
「そんなの単なる屁理屈じゃない!」
「そう。屁理屈だ。だがそれがまかり通る一番平和的な解決法だということも踏まえてケースを聞いて欲しい。一つ目として、100円・・・いや1万円、こっちの方が解りやすいな。1万円で1000万のベンツの新車が欲しい、という願いがあったとする。これを叶えるには、朱音、キミならどうする?」
「そうね、私なら絶対断るわ。」
「そう。妖魔も普通なら朱音が言ったとおり断る。だが、妖魔は人よりも出来ることが遥かに多い。だから、殆どの場合引き受ける事ができてしまう。例えばだ。運命を操作して、懸賞の景品のベンツを当てたり、賭け事で全て大勝してお金を集めてそれでベンツを買ったり。更に、何故か超いい大金持ちが突然現れて、ベンツをプレゼントしてくれたり。と言った具合にな。」
「ナにそれ、殆どインチキじみたご都合主義レベルじゃない。」
「人間に比べたら遥かに出来ることが多いのだ。人間から見てインチキじみても、奴らにとってはなんらインチキでもない。その妖魔もメフィストクラスの妖魔だと、もはや何でもできる。勿論、それ相応の対価を奴らも貰うが。」
「1万円でベンツの新車が買えるならそんな良い事ないじゃない。」
「だが、そうもいかなくてな、それ相応のリスクがくる。こんどはその妖魔の能力を引き出す為に使われたエネルギー代を要求してくる訳だ。」
「エネルギー代?」
「そう。ご都合主義を起こすための費用だな。基本的に食料だな。」
「食料?例えばドックフードとか?」
「だったら良いのだがな。残念、違う」
「じゃあ何をあげればいいのよ?」
「人。」
えっ?




