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籠の鳥に差し伸べる手

作者: 穏世青藍
掲載日:2026/06/20

 どうしよう・・・。


 どうしよう・・・。


 嗚呼、どうしよう・・・。


 この子はきっと操られる。

 

 あの女に操られる。


 最近、息子を操ろうとし出した。


 猫をかぶっていたのね。


 でも、こうなることは分かっていた。


 分かっていたから、反対したのに。


 何故、何故、結婚してしまったの?


 母さんを責めないで。


 嗚呼、いつかの孫の泣き叫ぶ声が聞こえる。


 嗚呼、いつかの私に助けを求める声が聞こえる。


 なんてことなの。


 誰か助けて。


 私はおばあちゃんなのよ。


 嗚呼、嗚呼、孫が、私の孫が、泣いている。


 あの女、許せない・・・。


 闇の魔法を使うなんて。


 こんな小さな子供に闇の魔法を使うなんて。


 この子はまだ何が起こっているのかさえ分かっていない。


 まだ、ほんの赤ちゃん。


 助けなければ。


 いつか、この子が、おとぎ話の世界から目覚めるとき、闇に包まれていないように。


 私が、私が、守ってあげる。


 私の大切な孫だから。


 操れてたまるものか。


 でも、この子は、目が覚めてしまうわ。

 

 その前に、手を打たなければ。


 闇の魔法に打ち勝つ魔法を見つけなければならない。


 禁じ手。


 これしかない。


 禁じ手。


 嗚呼、これしかないのよ。


 ごめんね。


 ごめんね。


 きっと、貴方は、苦しむでしょう。


 きっと、訳が分からなくなるでしょう。


 きっと、死にたくなるでしょう。


 でも、お願い。


 乗り越えて。


 今は、それしか、方法がないのよ。


 貴方にはそれだけ差し迫った闇が、側まで来ているのよ。


 あの女は私に貴方を触れさせてはくれない。


 だから、こうやって、たまに、あの女がいないときに、会いに来る。


 貴方の、小さな寝息と、たまに出る欠伸と、嬉しそうに微笑む顔。

 

 とても、愛してる。


 私の大事な宝物。

 

 とても手放したくない。


 可愛そうに。


 貴方はあの女の籠の鳥。


 耐えなさい。


 いつか訪れる自由のために。


 貴方は、きっと、空を駆け抜ける鳥になる。


 自由に飛び回る鳥になる。


 籠の中から飛び立てる。


 だから、お願い。

 

 耐えてみて。

 

 私には分かる。


 息子の子供の貴方なら、あの女の闇の魔法を見破れる。


 操られないだろう。


 でも、情報が足りない。


 社会で生きていくのに必要な情報が、足りない。


 だから、きっと、自信を失うだろう。


 自分の考えが不安になるだろう。


 そして、分かっていても、知らないことを知っている考えが、闇に貴方を引きずり込むだろう。


 闇の魔法に、負けてしまうだろう。


 そして、操られてしまうだろう。


 そんなことはさせない。


 そんなことは絶対にさせない。


 私が守り抜いてみせる。


 禁じ手の魔法を使うのは、怖くない。


 本当は怖いけれども、大切なこの子のため。


 私は、どんな罰でも受け入れる。


 私が、救ってあげる。「

 

 だから、この愛を受け止めて。


 誰にも教えてもらえない。


 禁じ手の魔法なんて、私には一生必要ないものだと思っていた。


 でも、今、とても必要だ。


 私は人より秀でていないけれども、ただ頑張ることは出来る。


 この子のためになら、頑張れる。


 操らせてなるものか。


 私は、恨まれるでしょう。


 でも、いつか、分かってくれるでしょう。


 それまで耐えてみせる。


 愛してる大切なこの子に私の一生を捧げよう。


 私は、魔女裁判にかけられるだろう。


 きっと、私は、死ぬだろう。


 軽くて、幽閉されるだろう。


 一生、この子の顔を、成長を、目守ることが出来なくなるだろう。


 それでもいい。


 私は魔女よ。


 人を幸せにする魔女よ。


 出来損ないの私だけれども、この戦いには勝ってみせる。


 あの女に勝ってみせる。


 私は操れてしまうのだろうか・・・。

 

 もし、勝てなくても、あの女を私とともに、闇の世界へ引きずり込んでやる。


 いいのだろうか。


 私はそんな人にはなりたくない。

 

 でも、そうするしかないのか。


 私は、私は、罪に手を染めてしまうのか。


 嗚呼、嗚呼、悲しい。


 嗚呼、嗚呼、私、悲しい。


 罪を犯す人になりたくなかった。


 私は普通の人生と歩みたかった。


 私は悪くない。


 あの女が悪い。


 悔しい。


 誰か助けて。


 私の心が引き裂かれそう。


 心臓が、心臓が、体中の神経が引っ張られて、悲鳴を上げている。


 社会にもう二度と戻れない。


 嗚呼、私はふつうの人間。


 人を、人を、幸せにしたかった。


 出来ることをして人を幸せにしたかった。


 あの女を闇に落とすことは、私も闇に落ちること。


 そんな人になりたくない。


 私は私でいたい。

 

 私は、優しい人だった。


 私は、気丈な人だった。


 私は、愛にあふれた人だった。


 でも、でも、でも、でも、でも、でも、


 私は、全てを、失う。


 私の人生の全てを失う。


 でも、見て見ぬふりなんか出来ない。


 それが、誰であっても。


 私の精神がそれを許さない。


 私は魔女なの。


 誇り高い魔女なの。


 誇り高く散ってみよう。


 いいのよ。


 いいのよ。


 それでいい。


 私はきっとそれでいい。


 誰からも褒められないかもしれない。


 だって、禁じ手だから。

 誰からも認めてもらえない。


 だって、禁じ手だから。


 誰からも許されないかもしれない。


 だって、禁じ手なのだから。

 

 分かっている。


 分かっている。


 分かっている。


 だって、それは、禁じ手なのだから。


 愛するものが助けを求めてくるのに、手段があっても助けられないのならば、それは、ただの間抜けだ。


 さぁ、戦いの時だ。


 私の、一生一番の戦いの時だ。

 

 私は誇り高き魔女。


 そして、わたしは、一人のおばあちゃん。


 愛する孫のために、この身を捧げよう。


 一生分の愛をこの魔法にかけよう。


 禁じ手。


 禁じ手。

 

 使っちゃいけない。


 分かってる。


 分かってる。


 私は法を破る。


 愛するものの窮地を救えないなんて、間抜けな事は出来ない。 


 許してね。


 助けてあげる。


 貴方の左目の裏に、私の知識と思考が詰まった人形の幻影を植え付けるね。


 その幻影は、薬にもなるし、毒にもなるのよ。


 貴方の受け継いだ能力の上に、その幻影が根を降ろす。


 それは、貴方の能力の知識と思考を理解して、その時に必要な情報を教えるわ。


 でも、それには、気掛かりがあるの。


 ある。


 ある。


 あるの。


 貴方が受け継いだ能力は、貴方のお母さんの知識や思考能力も入っている。


 だから、とても、危険なの。


 闇の声を聞かないで。


 何が教えられるか分からない。


 私の知識と思考の能力が、どれだけ貴方のお母さんの能力を抑えられるか分からない。


 きっと、頭の中で対立するでしょう。


 とても、混乱するでしょう。


 でも、貴方なら、大丈夫。


 きっと、道を見つけられるはず。


 私の声を聞いて欲しい。


 私は貴方の道を照らすでしょう。


 闇の魔法に負けないで。


 愛する私の可愛い子。

 

 どうか、ここを乗り切って。


 そして、いつか、私に微笑んで。

 

 どこかで、そっと、微笑んで。


 貴方の頭を乗っ取らせはしない。


 だから、私が、先に魔法を仕掛けておく。

 

 貴方に闇が近づいたとき、この魔法は発動する。


 この魔法に、私の心臓を掛ける。


 だから、この魔法は、どんな賢者にも解けないのよ。


 守りたいのよ。


 大切だから。


 愛しているから。


 貴方の人生を歩みなさい。


 その前に転がる石を、自力で乗り越えなさい。


 それが出来るような人になるように、左目の裏の人形の幻影を植え付けたのよ。


 貴方が独り立ちしたら、その時、その魔法は解けるわ。


 でも、貴方が闇に落ちそうになったとき、幻影が頭を乗っ取って、貴方を食い尽くしてしまうかもしれない。


 これは、禁じ手。


 誰も先が読めない。


 でも、貴方のお母さんに操られて、頭の中が乗っ取られるくらいなら、一度で良いから、私の愛のあるかけにのって欲しい。


 これしかないのよ。


 今、貴方を救う方法は。


 だから、分かってちょうだい。


 いつか、分かってちょうだい。


 貴方のために戦ったおばあちゃんがいたことを。


 そして、許して欲しい。


 こういう魔法しか使えなかったことを。


 もう、時間が無い。


 貴方にかけた禁じ手の魔法に気づいた魔法省の役人が、私の元へ集まりだしたわ。


 もう、周りを固められているみたい。


 禁じ手の魔法をかけたときに用意した、その知らせを告げる、通告の花が、咲き出したわ。


 なんて、悲しい色をしているの。

 

 貴方の魔法が発動するのは、このままいけば、数日後でしょう。


 魔法発動の砂時計が、段々と、危険が差し迫っていることを色で教えてくれてるわ。


 そして、貴方の状態が分かるように、紙に羽のペンがインクをつけながら、急ピッチで書いているわ。

 

 きっと、貴方は、段々と目覚め始めたのね。


 おめでとう。


 ようこそ。


 この精神世界へ。

 

 この世界を乗り切れるのは、魔法でも何でも無くて、頭の中の心の底と思考なのよ。


 それを精神というのよ。


 頭の中の心の底と思考を、徹底的に見つめなさい。


 貴方なら、それが出来ると、貴方が生まれたときに植えたサクランボの木が、教えてくれたわ。


 それは、沢山の方々を幸せに出来る心が目覚めて歩き出したことを、心の成長と比例して育つ、祝福の木なのよ。


 沢山、実をつけだしたわ。


 その実は、貴方に必要な心のゆとりと気づきをもたらしてくれるようになっているわ。


 他の人には、効果が無いのよ。


 沢山食べなさい。


 そして、この木を大切にするのよ。


 この木は、貴方なのだから。


 切ってはならないわ。


 切れない魔法をかけておいたわ。


 いつか、貴方のお母さんがこの木に気づいて、切り倒しに来るかもしれない。


 だけれども、その頃には、幹は太くなって、切り倒せなくなっているから、大丈夫よ。


 でも、もしもの時があるから、サクランボの種は、こっそり取っておきなさい。


 その種は、貴方のために、おばあちゃんがサクランボ農家さんの果樹園へ行って、サクランボの声を聞いて、貴方を祝福していた木の中から選んだのよ。


 きっと、貴方を守ってくれる。

 

 嗚呼・・・、貴方から、離れなければならない。


 離れたくないわ。

 

 さようなら。


 さようなら。

 

 私の愛する孫。


 全てをかけて、愛を捧ぐわ。


 幸せになってね。


 人生を謳歌しなさい。


 このサクランボの木の花のように、見事に咲き誇るのよ。


 でも、無理はしないでね。


 出来ることをすれば良い。


 そして、出来るならば、困っている人を助ける人になりなさい。


 元気でね。


 さようなら。


 おばあちゃんより。


 愛を込めて。


 またね。



                    終



 最後までお読みいただき、有難うございました。

 私なりに、おばあちゃん目線で書いてみました。

 何か、じんわりと、愛情を感じていただけたら嬉しいです。

 皆様の人生が、愛に包まれますように。


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