第七話 お絵かき
翌日。わたしは治療室で、シルヴァード様と対面していた。
「セレフィア。今日はどんな話をする? 僕、セレフィアと話をするの好きだな」
「それは嬉しいです」
好き、と言われて一瞬動揺してしまったが、表情に出さないように努める。
「あなたは、何かしたいことがありますか?」
「セレフィアは何がしたい?」
シルヴァード様に問いかけられ、わたしは目を瞬いた。何がしたいかと問いかけて、わたしに何がしたいかを逆に問われるとは思っていなかった。
「そうですね。わたしは、あなたと楽しいことがしたいです」
「試合でもする?」
「わたしはあなたのように戦えませんよ。部屋の中でできることをしましょう」
そう言って、わたしは準備しておいた紙と色鉛筆を取り出した。シルヴァード様が不思議そうに首を傾げ、わたしの手元を見ている。
「それは何?」
「一緒にお絵かきをしましょう」
机の上に紙を広げ、わたしはシルヴァード様に微笑みかけた。シルヴァード様はまだまだ心に闇を抱えていると思われる。彼は自分で自分が思っていることを表現できないようなので、言葉にできない心の奥底にある感情を表現する非常に有効な手段として、この絵を描く方法がある。
「何でも良いので、好きなことを好きなように書いてみてください」
「分かった。セレフィアも一緒に描こう」
シルヴァード様は黄色の色鉛筆を手に持って、にこりと笑った。
わたしは簡単に花をたくさん描いた。絵を描くのは、そんなに得意じゃない。
シルヴァード様の進捗はどうだろうか、とちらりと彼の紙を見る。
真っ赤だ……。赤黒く塗りつぶされた中に、黄色い人がいる。
「セレフィア、上手だね」
にこにこと笑ったシルヴァード様の手には、黄色の色鉛筆が握られたままだ。
(シルヴァード様の心の中は、きっと戦場の血でいっぱいなのでしょう。この黄色い人は、彼の言う女神様でしょうか)
彼が黄色の色鉛筆を握り続けているのも、彼が「女神様」を心の支えにしているということが伝わってくる。
「かわいい。ねえ、セレフィア。これ、僕にちょうだい」
「……ええ、どうぞ」
渡すほどのクオリティではないが、求められたら仕方がない。描いた絵を持ち上げてシルヴァード様に渡すと、彼は紅い目を細めてそれを受け取った。
「ありがとう! 大事にするよ」
彼は嬉しそうに笑っていて、わたしの胸が高鳴った。ドキドキと心臓が音を立てるのを聞きながら、わたしは彼の顔を直接見ないように、若干視線を下げて彼の絵を見る。
「こちらの人は、女神様ですか?」
「そうだよ。僕の、女神」
シルヴァード様はそう言って、わたしに手を伸ばした。手袋越しに指が、わたしの髪に触れる。
わたしの髪は、リーリアと同じ金髪だ。違うのは瞳の色。リーリアはお母様譲りの桃色で、わたしはお父様譲りの青色。それでも彼女とわたしは似ているので、彼の目についているのだろう。それにしても、これはかなり恥ずかしい。
「あなたにとって、女神様はとても大切な存在なのですね」
「そうだよ。僕は、女神のことが大好き」
シルヴァード様は、彫刻のように完璧な笑みを浮かべた。夜空の闇を映したかのような黒髪が額にかかり、その静謐な美しさを際立たせている。睫毛が長くて、絵画として残しておきたいほどとても綺麗だ。