第26話 婚約の条件
「僕は、絶対にセレフィア嬢を幸せにします。どうか、僕とセレフィア嬢の婚約を、承認していただけませんか」
(引くわけにはいかない。絶対に、セレフィアを僕のものにするんだ)
普通なら、段取りを組んでから打診するのが正しいのだろう。しかし、シルヴァードの会話術では伯爵に勝れる気がしない。それならば、単刀直入に、本題だけを伝える方がいい。
「……」
伯爵は青い瞳をゆっくりと細める。心の内が見透かされそうな宝石のような瞳に、気が弱ってしまいそうになる。
(これは戦いだ。セレフィアを得るための、戦い)
シルヴァードは一つ息をついて、負けじと伯爵の目を見つめ返した。伯爵の無表情さと感情を読ませない瞳が、圧を与えてくる。
しばらく気の抜けない時間が続いたが、伯爵が大きくため息を吐いたことで、感じていた圧が消えた。
「我が家には娘が二人しかいません。これはまだ公にはなっていないことなのですが、貴方ならご存じでしょうのでいいでしょう。リーリアは王子殿下に嫁ぐことが決まっています。そうなると、エランディール家存続のためには、セレフィアが婿養子をとるしかないのですよ」
淡々と伯爵が話す。リーリアがユリウスに嫁ぐということは、確かに知っている。伯爵令嬢と第一王子が結婚する例は稀だが、リーリアは聖女なので格が違う。
「僕が、エランディールの姓をいただきたいです。グラティウス家は兄上が継ぐので大丈夫です」
シルヴァードは一切身分に固執していない。セレフィアを手に入れるためであれば、何の未練もなく、『グラティウス公爵家次男』という身分を捨てるつもりだ。
「それは、公爵の御意向ですか?」
「父上は、僕が結婚することを望んでいます。その相手がエランディール家であれば、喜んで受け入れてくださると思います」
「……そうですか」
伯爵は、何度目かの大きな息を吐いた。彼が何を考えているのか表情からでは一切読み取れず、無言の時間がシルヴァードを不安にさせる。
「私からも、公爵と話をしてみましょう。彼とは仕事で何度か顔を合わせることがあります」
(これは……なかなか好感触か?)
シルヴァードが少し瞳を輝かせたのに気が付いたのか、伯爵は青い瞳を少しだけ細めた。よく観察しないと気が付かない程度の変化であり、すぐに元の冷たい瞳に戻る。
「万が一にも貴方とセレフィアが婚約するにせよ、条件があります」
「何でしょうか!」
食い気味に身を乗り出すと、伯爵は人差し指を立ててシルヴァードに見せた。
「一つ。セレフィアとの婚約を大々的に公表するのは、結婚の儀の直前とする。セレフィアは一般の治療師だと世間では見られているので、英雄殿の貴方と婚約が知れた時にあの子が様々な目に晒されることは確実です。貴方に懸想する令嬢達がセレフィアに悪さをしないように貴方が対処してください」
シルヴァードは大きく頷く。セレフィアを傷つける奴は、何人であっても許さない。まずは、あの面倒な王女をどうにかしないと。
彼の反応を見た伯爵は、二本目の指を立てた。
「二つ。決してセレフィアの職務の邪魔をしないこと。貴方の他にも彼女の治療を受けている者は多くいます。治療が滞れば、多くの場所で差し障りが出てくるので、それをどうか理解してください。あと、治療中にセレフィアに手を出そうとするな。そのような行為は言語道断」
伯爵の視線が鋭くシルヴァードを射抜く。以前彼が寝ぼけていた時に、セレフィアを襲おうとしていたことを言っているのだろう。どうして彼にその話が知られているのか。ラティウスの仕業か、あの裏切者め。
「三つ。セレフィア本人が、貴方と結婚したいと言うこと。貴方が強引に事を進めて、外堀を埋めて、あの子が貴方以外と結婚できないような状況をつくることは許しません。そのような行動が見られた場合、セレフィアには貴方付きの治療師を降りてもらいます」
(もし、セレフィアと既成事実を作ったら……)
「その場合は殺します」
伯爵の青い瞳に殺気が込められた。その本気の声色と殺気に、シルヴァードは久しぶりに命の危機というものを感じる。
そういえば、伯爵は王国の元最強騎士だったという話を以前聞いたことがあったのを、思い出した。
……伯爵は指を三本立てているが、条件は三つだけじゃなかったような気がする。
更新が止まってしまい、大変申し訳ありませんでした。




