第二十一話 騒動
シルヴァード様と時折話をしながら、食事を進める。すると、食堂の入口が騒がしくなっていることに気が付いた。
「煩い」
すぐ傍からぼそりとそう聞こえてきた。彼の気に障る前に、早急にあの騒動を収める必要がある。どうやら、食堂で働く従業員の人達と新しくやってきたお客さんが言い争っているようだ。
「シルヴァード様。少し、離れてもよろしいですか?」
「どこにいくの?」
立ち上がろうとすると、彼に腕を掴まれた。わたしは安心させるように微笑むと、彼の手に自らの手を重ねる。
「困っている方がいるようなので、放っておけませんから」
「僕も一緒に行く」
シルヴァード様は、わたしの腕を掴んだまま立ち上がった。ついてきたいと言っている彼を置いていくのは良くないと判断して、彼と一緒に入口付近まで歩く。
「なんで入れねぇんだよ!」
「申し訳ありませんが、この食堂では飲酒は禁止となっていますので……。子供達も沢山いますし、どうかお引き取りを」
「俺達は客だぞ! お前らはただ黙って料理を出せばいいんだよ!」
近づくと、話の内容が聞こえてきた。食堂にやってきた青年たちは、手に酒瓶のようなものを持っている。この食堂は、治療を受けに来た人や家庭の事情で十分に食事を取れない人のためにあるもので、基本的な入場は自由だが酒盛りや宴などは禁止されている。
一度、お酒に酔った人が暴れてしまう事件があったので、そのような規制がつくられたのだ。
「街には酒場もありますので、そちらに行かれてはいかがでしょう」
「はぁ? なんでお前らの言うことを聞かないといけないんだ」
従業員の人達に絡んでいる青年らは、口調が悪く素行が荒い。時折壁を叩いて大きな音を鳴らすせいで、孤児院の子どもたちがびくりと体を震わせている。
わたしは彼らの間に割るように入り、青年達に向けて笑みを浮かべる。
「失礼します。どうなされたのですか?」
「こいつらが、俺らに帰れって言うんだよ。ただ飯を食いにきただけなのにさぁ」
彼らからはお酒の匂いが漂ってくる。ついさっきまでお酒を飲んでいて、酔った状態なのだろう。
「この食堂には、いくつかのルールがあります。みなさんは、そのルールをご存じですか?」
「ルールだあ? 俺の親父はこの食堂の管理者の一人だぞ?」
(だからなんだと言うのですか)
わたしはにこにこと微笑みながら、内心で怒りを感じていた。この食堂はたくさんの困っている人を助けるためにあるものなのに、こうやって自分勝手なことをされると嫌な気持ちになる。
「あなたのお父様は、あなたがこのような行動をしていることを把握しておられるのでしょうか? この場所はみんなのものです。わたしはこの食堂を管理してくださっている方と話をしたことが何度もありますが、皆さまこの場所を大切にしていらっしゃいます」
できるだけ穏やかに話をしていると、腹が立ったのか一人の青年が手を振り上げた。
「煩せぇんだよ!」
痛みがくることを覚悟して目を瞑る。が、いつまでも痛みは襲ってこない。
代わりに青年が苦痛の声を上げた。目を開けると、シルヴァード様が青年の腕を捻じりあげていた。
「痛い痛い痛い! おい、離せ!」
「セレフィア。こいつ、壊してもいい?」
シルヴァード様は青年の声に力を緩める雰囲気を見せず、そうわたしに問う。
「それは、止めてください」
彼の腕に触れながらそう言うと、彼はぱっと手を放した。青年は腕を抑えながら、シルヴァード様を睨みつけている。
「何すんだよ、お前……!」
別の青年が怒りで顔を真っ赤にしているが、シルヴァード様から魔力が溢れ出してきて、逆に顔が真っ青になった。隣にいるわたしも、肌がぴりぴりとして上から大きな圧力を受けているような感覚になる。