第十八話 天使様
「……セレフィア」
「申し訳ありませんでした、シルヴァード様。さあ、何を食べるか選びましょう」
シルヴァード様がハウロ君を睨んでいる気がしたのでわたしは慌てて視線を遮る。すると、彼はわたしの頬に手を添えて、ゆっくりと首を傾げた。
「天使さまって、なんのこと?」
(気になるところはそこでしたか……!)
自分で説明しないといけないのだろうか。それはとても恥ずかしい。
「か、彼らはわたしのことを慕ってそう言ってくれるのですよ。わたしは至って普通の人間なので、比喩表現ですよ」
動揺して当然すぎることを言ってしまった。顔が熱くなるのを感じていると、彼はわたしの顔から手を放した。
「セレフィアは天使。その通りだね」
そう納得されて、余計に恥ずかしくなった。わたしは話題を変えるために、彼の手を引いて場所を移動する。
「何を食べるか、自由に選べるのですよ。好きなものを食べましょう」
「好きなもの……」
注文する列に並びながら、わたしは彼にメニューを紹介する。万人受けするカレーライスやオムライス、ハンバーガーやステーキ、体に優しいスープやサラダ。基本、何でもそろっている。
「セレフィアは何を食べるの?」
「そうですね。わたしは、木の葉の包み焼きを食べます。お魚を大きな木の葉で包んで蒸し焼きにした料理で、素材の味が引き立っていて美味しいのですよ」
「ふーん……。じゃあ僕もそれにする」
注文するものを決めて、調理師さんにそれをお願いする。その調理師さんは、わたしのよく知っている顔なじみの人だった。
「おや、天使様じゃないか! 久しぶりだね。今日は別の人と一緒かい?」
「お久しぶりです、ベルさん。はい、今日はこちらの方と一緒に食事を、と思いまして。木の葉の包み焼きを二つ、お願いします」
「はいよ! そこの人、天使様はとっても優しいから、たくさん甘えるといいよ」
ベルさんの言葉に、シルヴァード様は真面目に頷いた。
「知ってる。セレフィアはとても優しい」
彼に握られた手に指を絡められて、わたしの顔はまた熱くなった。こほん、とわざとらしく咳をして、視線を別の場所に向ける。
「お待たせ! 木の葉の包み焼き二つだよ!」
「ありがとうございます。……シルヴァード様、手を放してもらってもいいですか?」
流石に片手では持てないと、こそりと彼の耳元で囁く。しばらく手は繋がれたままだったが、じっと彼を見つめていると放してくれた。
お盆に乗せられた包み焼きからは良い香りが漂ってくる。それを吸い込みながら、シルヴァード様の隣に並んで料理を運ぶ。
「おお、天使様! 先日はありがとうね!」
「またうちに来てちょうだい! たっぷりお礼がしたいんだよ」
「天使さま! また一緒に遊ぼう!」
空いている机に向かう途中、たくさんの人が話しかけてくれた。わたしは笑顔で返事をしながら、席に座る。シルヴァード様は、わたしの隣に座った。