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第十一話 「僕の女神」


 ……足が疲れてきた。


 ずっと同じ姿勢だから、足が痺れてくる。最初の方は大丈夫だったのだが、そろそろ限界が近い。


 ちらりと時計に目を向ける。シルヴァード様が眠ってから大体一時間が経っただろうか。黄昏の刻なので、窓の外の空も少し赤らんできている。


 こんなに穏やかに眠っている彼を起こしたくない。時間的には問題はないのだが、わたしの足の方が問題だ。


(身体強化をしてみますか)


 体に魔力を巡らせて強化する魔法。それを使えば足もまだ耐えられるかもしれないが、魔力を流すので彼が気にしてしまうかもしれない。


 あまりにも足が痛みだしたので、わたしはそっと彼の頭の下に手を差し込んで、膝の上からベッドの上に下ろした。足を延ばして膝をさすっていると、「んん……」とうめき声が聞こえた。


 起こしてしまったようだ。彼はゆっくりと目を開けて、紅い瞳をわたしに向けた。


「僕の女神……」


 寝ぼけているのだろうか、彼は体を起こして手を伸ばし、わたしの頬に触れる。そのまま彼の体が寄りかかってきて、わたしはベッドに倒された。


 シルヴァード様がわたしを正面から覗き込む。頬には手が添えられていて、恥ずかしいと思うよりも状況が把握できなくて目をさ迷わせる。


 やがて、わたしが今、シルヴァード様に押し倒されているような形になっていることに気が付いて、わたしの頬は一気に熱を帯びた。


「お、おはようございますシルヴァード様!」

「おはよう、僕の女神」

「わたしは女神様ではありません。セレフィアです。あなたの治療を担当している者です!」

「セレフィア、僕の女神……」

「違います! とりあえず、どいてください。お願いします。わたしの体がもちません」

「嫌だ。僕のものだから、いいの」


 あろうことか、シルヴァード様はそのままわたしを抱きしめた。体重がかからないようにはしてくれているのだが、圧迫感と羞恥がすごい。


「え、ええ……あ、あの、これは」


 このままではまずいと、わたしは必死に彼の肩を押す。しかしびくとも動かない。


「セレフィア」


 耳元で囁かれ、わたしの耳が溶けてしまったのではないかと錯覚した。それほどまでに甘く、とにかく甘い声。わたしは抵抗する気力を奪われてしまう。


 そのまま彼の紅い瞳がわたしの目の前まで迫る。思わずぎゅっと目を瞑って、体に力を込めた。


「失礼しま——ってシルヴァード!? お前何しようとしてるんだ!」


 扉が叩かれた音と同時に声が聞こえてきた。目を開けてそちらに目を向けると、ラティウス様の姿が見える。


「申し訳ありませんセレフィア嬢! 無事ですか!?」


 ふっと圧迫感が消えて、わたしはゆっくりと体を起こした。未だに心臓はドクドクと大きく音を立てていて、息が震えている。


「邪魔、するな」

「流石に見逃しはできん! お前は一回、頭を冷やせ」


 シルヴァード様の体から禍々しい魔力が噴き出そうになっていたが、ラティウス様が魔法で水を生成して彼の頭にかけたと同時にそれは消えた。


 そしてラティウス様は、わたしに目を向け、深々と頭を下げた。


「本当に申し訳ありません」

「い、いえいえ! わたしは特に、何もされていないので……」


 傍から見たら、わたしがシルヴァード様に襲われそうになっているように見えたのだろう。ラティウス様が来てくださらなかったらどうなっていたかは分からないが、何もされていないのは事実である。


(鼓動が早くなりすぎて寿命が縮んだ気はしますが……ラティウス様が来てくださって、よかったです)

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