告白の後で
「そう、いずれにせよカメラマンとしては致命的な障害なんだ。だいたい日本人男性の二十人に一人は色覚異常があるって言われてる」
「そうなんだ。でも俺は諦めきれなかった。だから、俺が撮る写真はモノクロームなんんだ」
その言葉に、私はしばらく何も返せなかった。
彼の目には世界がどんな風に見えているんだろう。彼がカメラマンとして生きることへの葛藤と、それでも高みを目指し続けた彼の意志がひしひしと伝わってきた。
「こんな話をして、悪いね…。」
チバは少し気まずそうに笑みを浮かべ、言葉を継いだ。
「そういえば、美咲さん、話したいことがあるって言ってたよね。それって何だったんだ?」
私は静かに微笑みながら応じる。
「ふふふっ、こちらの話も、かなり深刻だから気にしなくていいよ」
「なんだよ、それ。美咲さん、ちょっと怖いなぁ…」
私はふと、気づいた。
「そういえば君は『チバ』って呼べって言う割に、私には“さん”付けなのね」
「あ、そうか、ごめん。なんていうか、女の子には敬意を示したくてさ」
チバは慌ててカレーを掻き込み始めた。辛口の六辛であることを忘れていたのか、辛さに驚いた様子で、ゲホゲホとむせる。
「大丈夫?平気?」
「…うん、大丈夫、ほんとに。ごめんなさい」
チバは水を飲み干し、息を整えた。
話すなら今しかない。
一拍置いて、私は心の中の迷いを押し殺し、はっきりとした口調で尋ねた。
「単刀直入に言います。うちの父、浮気をしていませんか?」
しばらくの沈黙ののち、チバは視線を伏せる。
「…それは、俺の口からは言えないんだ。ごめん」
覚悟はしていたが、いざ目の当たりにするとショックは大きい。
彼には「それは誤解だよ」と言って欲しかった。けれども、彼の沈黙が告げるのは、やはり父と谷口ゆりえがただならぬ関係にあることだった。私の心には黒く濁った感情が滲み始める。それは憎しみとも何とも言い難い、不思議な感情だった。