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戦國メカニカル  作者: 橋本洋一


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信長からのお祝いと命令!

 いきなり岡崎城主になれと言われた僕は大いに戸惑ったけれど、征士郎さんが「お前ならできる」と後押ししたのであれよあれよのうちに決定してしまった。

 しかしながら僕には家臣もいないし、どうしたものかと頭を抱えてしまう。とりあえず、服部さんと弥八郎さんが補佐してくれるのでその間に方針を決めないと。


「殿。文官が足りません。かえでさまにお頼みできませんか?」

「弥八郎さん。その殿っていうのやめてもらえませんか?」


 書類に慣れない花押――サインみたいなものだ――を書いていると、弥八郎さんが僕の部屋にやってきた。僕は「今までどおりがいいです」と頬をかいた。


「しかし示しがつきません。もうあなたは岡崎城主であらせられますから」

「かえでが勢いで言ったと僕は認識しています。殿様になる器量どころか、度胸もありませんよ」

「立場が人を作ると言います。もしも殿が足りないと思うのなら努力していただけたら嬉しいです。私だけではなく、他の家臣も民もそう願うでしょう」


 上手いこと言いくるめられていると感じるが、弥八郎さんは正論を言っている。僕の気持ちなど無視しても構わないくらいに正しい。


 それに『立場が人を作る』というのは目から鱗だった。適任者がいてそれに立場を合わせるものだと思っていた。さながら機械に合ったパーツを組み合わせるように。だけど人間はパーツなんかより柔軟で応用が利く。そして成長できるのだ。


「そうですね⋯⋯うん。僕が間違っていました」

「いえ。出過ぎたことを申し上げました」

「殿と呼ばれることに慣れていきます。それと文官が足りないと言いましたが、何人いれば十分ですか?」

「岡崎城はこれから後方支援に徹していきます。ですので二十から三十人いれば回れるでしょう」


 かえでのほうにも文官必要だよなあ。

 どうやって解決しようか頭を悩ませていると「殿。織田家からの使者がいらっしゃいました」と服部さんが報告してきた。


「織田家から? 何の御用かな?」

「殿の岡崎城主就任の祝賀とのことです」


 そういうことなら会わなければならない。

 僕は弥八郎さんに「文官のことは考えておきます」と約束した。


「織田家の使者に会わなければ。服部さん、使者は何人ですか?」

「一人ですね。しかし供の者が五十人おります」

「五十人ですか……使者の方は丁重におもてなしをしてください。お供の方々にも食事の用意をお願いします」

「ははっ。かしこまりました」


 僕は略服から正装に着替えて使者の方に会うことにした。一応、城主なのだからきちっとした服にしたほうがいいと思っての判断だ。


 岡崎城の大広間で使者の方が待っていた。

 猿顔で小柄の男性だ。にこやかな笑顔をしている。賢そうという印象もあった。


「こたびは岡崎城主就任、おめでとうございます!」


 よく通る大きな声だった。

 僕は「ありがとうございます」と頭を下げた。


「我が主、織田信長様は筑波殿を高く買っております。常日頃から何か大きなことを成すと。いやあ、それがしもあやかりたいですな!」

「あはは。そんな過大評価――」

「何をおっしゃりますか! 正当な評価でございまする。聞くところによれば武田信玄を倒したのは筑波殿の機神ではないですか! 戦国最強と名高い甲斐の虎を討ったのは紛れもない実力です!」

「そ、そうですか?」

「そうでしょうとも! 巷では次の戦国最強を筑波殿と推す声も上がっているとかいないとか! 諏訪家の軍神は流石に違いますなあ!」


 よく喋る人だなあ⋯⋯しかも話し方も上手い。内容もそうだけど人の感情を揺さぶってくる。下手な政治家より演説ができるんじゃないか?


「まあ筑波殿は岡崎城の城主になられたのはまことにめでたいことにございます。我が殿からのお祝いの品々、受け取ってくだされ! きっとお気に召されるでしょう!」

「えっと。その前に僕まだあなたの名前伺ってない⋯⋯」

「おっと、失礼いたしました! しかしまさか筑波殿がそれがしごときを気にかけてくださるとは! 感激でございまする!」


 気にかけるというか、気になったから訊ねたんだけど⋯⋯


「それがし、木下藤吉郎秀吉にございます! 以後お見知りおきを!」


 秀吉⋯⋯豊臣秀吉!?

 そういえば猿って信長に呼ばれていたと聞いたことがある。

 よく知らないけど名字が変わるのかな?


「こちらこそよろしくお願いします……ところで今、織田家は京周辺を治めたと聞きますが」

「ええ。三好三人衆を追い出し、日の本随一の商業都市である堺を手中に抑えました。もはや織田家の天下は近いですね」


 はあ。これは凄まじいと素直に思う。

 尾張国だけだった信長の領地がそれだけ広がったのだから。


「しかし従わぬ者も大勢おります。越前国の朝倉家などはまさしくそうで……いやはや、なんとも頑迷な奴らです」

「それは大変ですね。頑張ってください」

「おやおや。筑波殿も他人事ではありませんぞ? 殿から朝倉攻めの援軍要請が届いておりまする」


 木下さんが懐から手紙を取り出した。

 うう、そうだよなあ。あの信長がお祝いの品だけ寄越すわけないよなあ。

 何か裏があると思わないと。


「つきましてはこの場で返答をお願いします」

「その、かえでと話し合わないといけない――」

「それはおかしなことですね。筑波殿は織田家の家臣であります。諏訪家には寄騎で派遣されただけにすぎません。城の主となられたあなた様はご自身で判断なさっていただかないとならぬのが道理でございます」


 筋が通っているのか分からない、煙に巻くような怒涛の早口に圧倒されてしまう。

 それどころか、そうしたほうがいいのかなと思ってしまった――気の迷いだ。


「そのう。今は人手が足りない状況でもあるんです。特に文官の方がおらず政治が回っていないのです」


 戦は嫌いだ。

 なるべく参戦したくない。

 だから言い訳をしてなんとか回避できないか足掻く。


「ならば文官の数が足りれば出兵していただけるのですね?」

「えっと……まあそうなるかも」

「ならばご安心を! それがしは殿のご命令で文官を引き連れてきました!」

「はあ? それってどういう意味ですか?」


 木下さんは猿のような笑みで「供の者たちは文官でございます」としれっと言った。

 ……はあ!? なんであらかじめ分かっていたようなことを!?


「殿がおっしゃるには筑波殿には家臣がいない。ならば人手が足りてないことは自明である。であるならば文官を祝賀としてお貸ししようとのことです」


 驚愕する僕に理路整然と説明をする木下さん。

 信長はおっかなくて恐い人だと思っていた。

 それと同時に賢い人だと分かっていたけど、まさか先読みしてくるとは……


「先ほど言いましたが、筑波殿は文官五十人をお気に召すと思います」

「…………」

「出兵、していただけますね?」


 この状況で拒否することなどできない。

 僕は渋々「分かりました……」と頷くしかできなかった。


「おお! 流石筑波殿! ご英断ですな!」

「……それで、朝倉攻めはいつから行ないますか?」


 もう抗えないと分かったので素直に従うことにする。

 木下さんは「一か月後にございます」とにこやかに言う。

 まるで重荷を下ろしたようだ。代わりに僕が背負うんだけど。


「諏訪殿に知らせる時間も十分ありますな!」


 それはそうなんだけど、なんか釈然としないなあ。


「それがしはこれにて。殿へ報告せねばなりませんので」


 手紙をその場に置いて木下さんは帰ろうとする。


「あ! 食事は――」

「お気持ちだけいただきます! それがしも朝倉攻めの準備に取り掛からなければなりませんゆえ!」


 風のように去ってしまった木下さんを見て、できる人は忙しいんだなあと思ってしまう。

 あれぐらい精力的じゃないと天下取れないのかな?

 少しだけ見習おう。

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