告白
プロローグ
永遠の一人ぼっちの寂しさを胸に、誰にもいえない悲しみを涙に
どうすることもできない現実を生き、やがて消えてゆく。
僕達は人間として生まれ人間として死んでゆく。
それなのに……たとへ血を分けた親兄弟であろうと
永遠を誓った夫婦であろうと、まったく同じ人生などありはしない。
たった一つの自分の人生なのである。
『告白』
気がつくと僕は殺人者でした。
貴女の家族全員の命を奪ってしまった
お詫びを申しあげても嘘を言うだけだ
そんな気がして僕は素直な自分の思いを
さらけ出します。
いかなる理由もいかなる事情も
いいわけです。しっかりと現実を生きて
こなかった僕の責任です。
いつの頃からか忘れてしまいましたが
気がついたときには殺人者の道を歩き出して
いたのだと思います。家庭も学校も何もかもすべて
から孤立していました。何かに追い立てられるように
真っ直ぐに突き進んでいたのだと思います。
長い年月をその日の為に生きてきたようでした。
あの日一人の青年から声を掛けられました。
「いい子がいるよ……」
僕は相手にもしませんでした。
すると「俺の妹だから安心しな、安くしておくよ……」
僕は「妹……」その言葉に今までの胸の内にたまったものに
火をつけられたような気がしました。
「わかったよ……」そういうと
「家のなかで待ってな、すぐ帰ってくるから……」
その声とともに中に入ってゆきました。すると……
「客連れてきたぞ……」と声を掛けました。
その声に「どうぞあがってください」と声がかいってきたのです。
僕は「誰?」と聞くと「親父とお袋……」という返事がかいって来たのです。
それからのことは自分でもよく覚えていないのです。
このお手紙は貴女だけに差し上げるものです。
わたしは父と母、そして兄を
一人の少年の手によって
鋭利な刃物で滅多刺しにされ
無惨な殺され方をしました
何も知らない世間の方は
常識的な見方、、感じ方,考え方でしか
判断できないはずです。当然なことです。
わたしは、そのことをとやかく言いたいの
ではありません。きちんとした
現実を事実を真実を知ってほしいのです。
感じてほしいのです……
いかなる理由があろうと殺人を犯してしまったのは
少年自身であり、許されることではありません。
しかしわたしは少年に家族三人を殺されたことに
怒りや憎しみをぶつけられないるのです。
それは、わたしがこの少年にもしも
父、母、兄の三人を殺してほしいと頼んだとしても
その望みがかなえられたかどうか……
そのような経路でもし、三人が殺されたのなら
わたしの手によって殺したのも同然です。
しかし一面識もない、何も知らない少年が
偶然にも家族三人を殺してしまったことに
わたしはやりきれない悲しみに襲われたのです。
少年に哀れみと、同情を感じて……
だからわたしの涙は、少年のために流されてゆくのです。
神様が本当に存在するならばお聞きください。
「父と母と兄をこの世から消してください……」と
何度も何度もお願いしました。
しかしその望みがかなえられることもなく
長い長い時だけが過ぎていったのです。
わたしは物心がついた頃からの記憶しか
残されていませんが、どういう訳か
この三人からひどいめにあわされ続けてきたのです……
同じ家族でありながら……
そんな扱いしかされずに育ったのです。
高校に入学して間もないある日……
突然訪れた不運に
わたしたち一家はどうすることもできない
運命に巻き込まれてゆくのです。
学校帰り……
突然わたしの目前に車が止まったかとおもうと
いきなりわたしは車の中に引きずり込まれると
口にテープ、目に目隠し、両手にロープを結ばれ
どこかにつれ去られたのです。
わたしは恐怖におののき、言葉をうしなっていきました。
これから起こる出来事に悲しみをのせて……
わたしの心は凍り付き、不安は加速し、
恐怖に代わると今起きていることが
現実であることを知らされました。
いつの間にか車は止まり
脳裏に浮かんだ恐怖が
現実となっていきました。
二人の男性声が聞こえると
かわるがめるなんどもなんども……
ことが終わると車は走り出し
気がつくと車の外に放り出されていたのです。
手、口、目、いつのまにか外されていたことさえ
きずかなかったのです。
わたしはこのまま死んでしまいたかった
こぼれ落ちる涙がそう
いっていたのです……
警察に……こんなことを届けても
余計に苦しむだけ。こんなことは
誰にもいえないのです。
たとへ両親であったとしても……
それが女心というのでしょうか?
それなのに、やっとの思いで
家族のもとに戻ってきたのに……
絶望だけが待ち受けていたのです。
いつもよりやけに楽しそうにはしゃいでいるのです。
わたしは笑われているような気がしました。
「夕飯は……」しょうじの向こうから聞こえる声
「食べたくない……」その声に
「今日はいいことがあったから……すしにしたのに……」
わたしは自分の部屋に入るなり
「いいことがあったから……」
「いいことって何?」
止まることのない涙だけが
真実を知らされてゆくのです……
忘れようとして、忘れられることではありません。
だからわたしは……何事もなかったかのように
過ごしていたのです。それなのに……
数日が過ぎたある日、わたしに
多額の保険がかけられていることを知らされました。
三人はわたしに聞こえる用に話していたのです。
わたしは聞かなかったかのように振る舞っていました。
そんなある日……高校のクラスメートの声が……
届いたのです。誰も知らないはずなのに……
もう……ゆるせない……
もう……ゆるせない、我慢できない。
それでもわたしは耐えました。
自然なかたちで、退学を……
高校を去ることになってしまったのです
わたしからなにまかもを奪ってゆく
名ばかりの家族……
それでもわたしはじっと耐えました
母なんだ、父なんだ、兄なんだ、
そんなわたしの思いなど届くことなど
なかったのです……
「おまえのおかげで家族がかたみがせまい!」
「他人からどんな目でみられているのかわかっているのか!」
「おまえから誘ったんだろ!」
なにもかも自分たちが仕組んでおきながら
とても家族とは思えない
わたしの心は崩れていった……
高校を去ったわたしは働きました。
それでも父、母、兄はまともに働こうともしません。
お給料はぜんふ両親に差し出しました。
それなのに……
それなのに、それでも不満だったのです。
誰かが勤め先に知らせたのです。
追い詰められてゆくわたし………
そんなわたしに追い打ちをかけるように……
最悪の事態が待ち受けていたのです。
そんな馬鹿な……
たった一度の不幸の出来事が
妊娠を誘ってしまったのです……
わたしをおそった不運の出来事が
大きな爪痕を残していた……
心を引き裂き、体に子供だなんて……
もう……どうすることもできない。
生まれてくる子のことを考えると
わたしには生むことはできない
だからといって、生まれてくる子に
何の罪があるの?この子をおろせば
わたしは人殺しになってしまう気がする……
未成年のわたしにどうしろというのでしょう。
ただ運命を……
わたしに与えられた運命を
生きつづけるしかなかった……
徐々に追い詰めろれている……
そのことに気づき出していたのに
どうすることもできないでいました。
誰にもいえるはずもなく
家族なんだと思い続けたかった……
たとへ死ぬまで悔いが残っても
子供を産むことはできなかったのです。
どんなところで働いても、いつの間にか
知られてゆく。誰の仕業でもいい
いい加減にしてほしかった……
そんなとき母から仕事の話があるから
「あってほしい人がいる」と言われた
「いままでそんなことはいわなかったのに
言わんとしていることはわかっていた……」
これが仕事……
生きてゆくという現実に
わたしたち家族は追い詰められていた
それはすべての人にいえることなのに……
わたしの体は売られ、そのお金で
家族は暮らしていった
それでもなぜか?死んでくれと
またれているような気がしてならなかった
母や父や兄がお客をさがしてくるからだ
どこか間違っているはずなんだ……
それでもわたしは死ぬことは
できなかった……
生きていればいるほど苦しめられるというのに……
何かを受け入れてしまった?
何かに巻き込まれてしまった?
いつから?どこから?なにがいけなかったの?
もうどうすることもできない現実に
わたしは、人間という言葉を捨ててしまったのです。
何も思わない、何も感じない、
悲しまない、喜ばない、泣かない……
わたしの体を何人の男の体が通過していったか……
そんな日々が永遠につづいてゆく……
何もかもを失ってしまった……
これでいい、いいんだもう……
そう思い続けて
最後の客の相手を終えて家路につくと
「わたしは突然言葉を失ってしまったのです」
ありえない現実……
呆然と立ちつくすしかない……
わたしの胸にたまっていたものが
自然にあふれていった。
泣いて泣いて泣き続けたのです。
他人からみれば父母兄が突然
何者かの手によって殺されたのです。
当然なことに同情を寄せられるかもしれません。
その場にいる警察官にわたしはおもわず
「殺人を犯してしまった人間がかわいそうで
かわいそうで仕方がないのよ!」と
大声で叫びたかったのです。
本当です。そんな思いを胸のなかに
しまい込んだまま泣き続けたのです。
突然訪れた最悪のシナリオ?
わたしは鮮血にまみれた家のなかを
きれいにしてゆく……
毎日の積み重ねが
やがてなにごともなかったように
消えてゆくのだろうか?
わたしの心に積み重ねられた
記憶は消えることはないのに……
そんな頃わたしは犯人が一人の
少年であることを知りました。
そんな少年がわたしを救ってくれたの?
それとも苦しめつつ゛けるの?
いやでいやで仕方ない
家族から解放されたはずなのに……
なぜか?わたしに
開放感は訪れてこなかった……
家族を殺されたわたしと
殺人を犯してしまった少年と
いったいどれだけの違いがあるのでしょう。
できれば消えてほしかった……
それがかなわなければ
自らの手で……
そんなことを本気で考えていたわたしは
まったく知らない一人の少年に
救われたのかもしれないのです。
どうすることもできない現実を
殺人が変えてしまったのです。
わたしは死ぬまで苦しめられるところを
救われたのかもしれません。
そんなふうに感じる悲しい女に
わたしは変わってしまっていたのです……
気がついた時から
苦しめ傷つけ続けられたわたしは
殺人者という名の神に
救われたのです。
そう感じることしかできなくなってしまっていたのです。
だからわたしは殺人を
犯してしまった少年に怒りや
憎しみより哀れみを感じてしまうのです。
かわいそうでかわいそうで仕方がないのです。
どうして……どうして……
殺人者になってしまったの?
わたしは涙が止まらない……
どうしてこんなことになってしまったの?
少年とわたしは同い年でした。
被害者と加害者?
どちらも被害者であり加害者?
もう……なにを言っても
なにをおもっても、戻ってくることはない……
やり直しはできない、たた゜これからを生きるだけ
言ってはいけないことだけど、もしももしも
お互いが違った両親のもとに生まれていたら
きっとちがった人生だったはずなのに……
どこかでそんなことを思っている人もいるの?
特にわたしはそう思ってしまう。
いったいなにが間違いだったのでしょう?
どうして違った生き方ができなかったのでしょう?
でさなかったからこそこうなってしまったのです。
それが……現実なんです。
家族にとってのわたし……
家族にとっての少年……
どう思われ、どんな存在だったのでしょう?
殺された三人は自分の痛みを
感じるこてができても
わたしの痛みも、わたしがどのように
痛みを感じているかさえわからずに
わかろうともしてくれなかったのです。
どうすることもできない現実を
皆が生きてゆくことしかできないでいた
のかもしれません。
そんなわたし達家族の現実を
少年が変えていってしまったのです。
自殺をすることも
家族を殺すこともできる
はずはありません。
いまはなぜか、少年をそこまで追い込んで
しまったこととはなんだったのか
知りたいのです。
たとへ悲しむことしかできなくても……
わたしは自殺することなく
殺人者にもならずに
わたしを苦しめ続けていた
家族は消えてくれました。
少年一人だけが殺人者になって……
偶然に偶然が重なり、あり得ない
現実が作り出されてしまったのです。
いつしかわたしは、三人も殺した少年に
哀れみという同情を感じる女に変わって
しまっていたのです。わたしは間違って
いるのですか?何が正しくて、何が
間違っているのですか?わたしは自分の
涙を感じる時、言葉無き少年の涙を
感じてしかた無いのです。
そんなわたしなのに、引っ越しのための片付けを
していて、一組の手袋を見つけ
大きな声を上げて泣き、叫んでしまったのです。
幼い頃、母が寒いだろう冷たかろうと
あんでくれたものを、わたしは大切に
大切に宝物として残しておいたのです。
「お母さん……」
『 告白 完 』
エピローグ
すべてを疑ってしまう、誰も信じられない、信じられるのは自分だけ?
ほんとうにそうなのだろうか、自分を信じられるなら他人も信じられる?
人間が人間を信じられなくなってゆくのは、自分が自分を信じられなくなって
ゆくからではないだろうか?
相手をうたがう前に自分をうたがい、相手を信じることができない。
自分も信じることができない?しかしそれはそうなっていったきっかけが
原因がかならずあるはずだ。生まれるまえから一番ちかくにいる母から?
自分をうたがう、相手をうたがう、人間をうたがう、それらすべてを
教えられるきがしてならない。
人間は自分を生んでくれた存在、すなわち母に依存しながら成長してゆく。
そして性と自我の目覚めとともに徐々に母から自立してゆき
他者との違いを感じながら自我を確立してゆく。しかし自我に目覚めた頃には
自分でも理解しがたい自分になってしまっているということはないだろうか?
一般に言われている反抗期、間違った解釈でなければと思う。
ぶきような自己主張が他者との衝突につながってゆこうと
自己主張もままならぬまま、自己を曲げられ続けられてきたことへの
やり場のない怒りの矛先をいったいどこに、なににぶつければよいというのだろう?
いやでたまらない小言も束縛もすべて子のことを思ってのこと
他人とちがい生まれたときからずっと一緒にいる両親のおかげで
安心を与えられ生きてこられた事実も忘れてはいけない。
そんな束縛から逃れたいと一人離れたところにゆけば
不安や寂しさがついてきて逃れられなくなる。そういった意味では
自立と孤立の違いをはっきりと認識しなければいけないのだろう。
親の立場と子の立場、お互いがお互いを思いやる余裕をもちたい。
本当に教えてほしいことや知りたいことを、子供に教えられているのだろうか?
子供が両親に心を閉ざしてゆくのは、教えてほしくないことや
知りたくないことを教えているからではないだろうか?
だから何も知りたくない、教えてほしくないと
子の心は親の心から離れていってしまうのかもしれない。
自立前の、言葉では何も表現することのできない幼い子供達にとって
毎日のようにくりかえされる父と母の言い争いに
そんな両親に何を思い何を感じているのだろう?
仕事に追われ生きる現時を押しつけ
あたかも機械に燃料を入れる用に子供に接していないだろうか?
安心を与えてもらい、依存する相手を失った子供達は
両親から孤立させられおびえる不安な日々を送ることになる。
子供の見えない思い見えない涙をみることも感じることもできない
親になってはいないだろうか?子供の寂しさや悲しみ
隠しきれない不安はどんな形となって日常生活の中で
表現されてゆくのだろう?僕は、誰からも言葉もかけられることのない
孤独な孤立させられてしまった人々の心の奥にこそ
人間の現実、事実、真実が映し出されているような気がする。
人から傷つけられる立場の人々、人を傷つけてしまう立場の人々
知らず知らずのうちにそれぞれの立場に立たされてしまった
ような気がしてならない。スタートする瞬間
皆同じ地点にたっているはずなのにそれなのに皆
いつしかそれぞれがそれぞれの立場に立たされていることを知らされてゆく。
たとへすべてを知らされても、どうすることもできない現実は
なんだかわからないような大きな力で動かされているような気がしてならない。
君はどんなときに孤独を感じ孤立していた自分を知る?
何によって孤独から解放されいやされ満たされた気分になれる。
どんなに思いを寄せても、どんなに思いを寄せられても
なかなか思い思われるあいてと巡り会えることは難しい。
たとえ親子といえども思いが届いたのは
二度と会えなくなつてしまった後だと言うこともよく聞く。
肉体同士は簡単に分かり合えても、気持ちや思いが届いたり感じあい
分かり合い結ばれてゆくことの難しさは誰でも経験させられている。
自分を大切にできなければ他人も大切にすることはできない。
誰かに大切にされたいのなら、誰かを大切にしてみたらどうだろう……
『終』