2話
ヴィルカの家に着くと外にて鍛錬をしていた父親が最初に出迎える。
「おかえりヴィルカ。今日はどこまで…ん?その子はどうしたんだ?」
ヴィルカの父親は元冒険者ということもあり、体格はしっかりとしていて、
また顔には冒険の中で付いたであろう傷跡が残っているが、
人相についてはとても優しそうな顔をしていた。
「この子はね、森で会ったの!ひとりぼっちで行く先がなかったんだって。」
そう言ってヴィルカは自身の父親に俺の事を説明した。
「はじめまして、ユウヤです。すみません、急にお邪魔して…。」
知らない人間が急に訪ねて来るだけでも迷惑だろうに、
ましてやこんな訳ありそうな自分が訪れてきてしまったことに対して、
申し訳なさが溢れ出てつい声が小さくなる。
そんな俺の様子のせいかヴィルカの父親は、
優しい声色で気にしなくていいよと頭を撫でた。
「俺の名前はユリウドだ、今まで何があったかは聞かない。
ただ帰る場所がないのならここを一つの拠点としてもらって構わないよ、
丁度ちょっと前に赤子が産まれたばかりでね、
しっかりした子なら尚更いてくれると助かるな。」
久しく人に撫でられる事のなかった俺は、
少しの嬉しさと恥ずかしさで顔に熱が集まるのを感じ、
そんな俺を横目にユリウドはヴィルカに対し、
母さんにも話さないとなとウインクをしていた。
「やった!これから一緒にたくさん遊ぼうね!」
ヴィルカは嬉しそうにジャンプをした後、
ぬくもりのある手で俺の両手を優しく包み込んだ。
今までの俺は魔王討伐のためだけに動き続けて、
他者との関わりを望みはするものの周りはそれを許さず、
ずっとこの世界の人々の事を知らずに過ごしてきた。
あぁこんな暖かい人がいるこの世界を救えて俺はよかったのかもしれない。
そうじんわりと心を溶かされるような暖かさに目頭まで熱くなる。
「でも、ヴィルカ。あの森には一人で行ってはいけないと教えなかったか?」
ユリウドは俺を撫でる手を止め、声色を変える。
その声色にて放たれた言葉にヴィルカはびくりと肩を跳ねさせ、
だって、でもと言い訳を続けようとする。
「だって、でもじゃない!
あそこには悪い魔王と悪の手に落ちた勇者たちが眠っている場所なんだぞ!
どんな事が起こるかさえ分からないんだ。危ないんだぞ!」
中身は大人の俺でもびっくりするほどの剣幕のユリウドに対し、
ヴィルカは涙を目に浮かべ、唇を震わせる。
「そんな事今まで一度もなかったもん!パパのバカ!嘘つき!」
そう言い捨てヴィルカは家の中へと駆け込んでいった。
ユリウドはやれやれと困った表情を浮かべ、
来て早々ごめんなと俺に対し謝罪の言葉を口にするが、
俺にとってはそんな事どうでもよかった。それよりも、
「悪の手に落ちた勇者ってどういう事ですか…?」
確かにそうはっきりとユリウドは言ったのだ。
しかしあそこに眠っているのは自分が倒した魔王と朽ち果てた仲間しかいない。
頭で理解が追い付かずユリウドに問いかける。
「ん?ユウヤは知らなかったのか?あそこの洞窟には魔王がいて、
その魔王を倒しに行った勇者達がいたんだが、
倒すどころか魔王の仲間になってしまって、
それをその時の第一王子と国王軍が討伐したんだよ。」
おかしい。事実と明らかに違う話に俺は言葉を失った。
どんな記憶を掘り起こしても俺たちの中に王子なんていなかったし、
国王軍なんて魔王討伐の際に食事を振舞ってくれたくらいで、
実際にはついてこなかったのだ。
「まぁ昔の事だし、ここだけの話今の王族を見ていると、
本当かどうかは疑わしいが…。確かに昔の町の人達はその勇者について、
全く関わりもなかったとの話も残ってるから、もしかしたら本当なのかもしれないな。」
俺は忘れているような記憶まで全て掘り起こしたが、
確かに町の人達を言葉を交わすことすら少なかった。
でもそれは国王から異世界から呼んだことをバレない為、
魔王の討伐には時間がない為など様々な理由で関わる機会が無かったからだ。
ただ、不審な点はあった。