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第2章08 G

「パンデモニウム…」


 小さな声でひよりが呟く。全TBプレイヤーの目指すべき称号を名乗ることが出来るのは2500人のみ。いよいよひよりもその限られた席の争奪戦に名乗りを上げるわけだ。


「不安?」

「ううん、大丈夫だよ。どっちかっていうと武者震い的な感じかな。あたしも通じるのか早く試したい」

「いいねぇ。まぁ心配すんなよ。フィジカルならとっくに達してるんだ。大会みたいに暴れりゃいいんだよ」

「うん、何も心配いらない。今日中にダイヤⅡぐらいまでは上がりたいかな」

「それほとんどプラスでいかないと無理じゃない?」

「そのつもりだよ」


 プラチナやダイヤ帯で躓く方があり得ない。まぁ懸念してることはあるけど、それを含めても早めに上がれるはずだ。


「構成はとりあえず慣れてるしRagnarok Cupと同じでいくよ。索敵いらなそうなら俺がマーリンかアヌビス使うから」

「んじゃ俺はゴクウか」

「あたしはセイメイね」

「ひよりにもこれからどんどん別のキャラ覚えてもらうけど、パンデモ帯まではいいかな。じゃあいこう」


 全員がレート戦を選択していつもの画面遷移を経て飛行船に乗り込む。俺たちの挑むシーズン後半のレート戦のマップはRagnarok Cupでも使われた高天原だ。


「どこ降りる?」

「そりゃあそこでしょ」

「3人最初のレートだしなぁ!」


 俺の操作で一斉に3人が飛行船から飛び降りる。目指すのはウズメ淵。これまた大会で俺たちがランドマークにしたお馴染みのマップだ。ただ、今回はあの大会のときとは違って降りる場所に取り決めなんてない。当然初動が被ることもあるわけだ。


「被せられるもんならなぁ!」


 Setoが威勢よく言う通り、俺らの航跡雲を見て被せられるもんならね。俺とSetoの軌道に残される色は漆黒。このゲームの最上位の存在にのみ使うことを許された色だ。プラチナ帯のみなさん、俺たちと戦いたいですか? 餌になりたくはないですよね?


「よし、被ってたっぽいとこ2部隊とも避けた」

「そりゃそうだろ…あぁ? なんか軌道ガン曲げて来てる奴らいるぞ」

「露骨だねぇ。やっぱ”G”が混じってるか」

「うん…そうだね」


 ひよりの声が若干強張ったものになる。苦い記憶が呼び起されているんだろう。


 ゴースティング。


 ゲーム実況する配信者には切っても切れない存在だ。配信を見てこちらの行動を把握しながら妨害してくる。知名度が上がればどうしてもその手の輩が増えてくるんだよね。俺やSetoのいたパンデモ帯ではほぼないけど、ひよりはソロでやっていた頃にめちゃめちゃゴースティングに悩まされていたらしい。


 配信に遅延を掛けたりもしてたらしいけど、そうするとコメントにタイムラグが生まれるからコミュニケーションが取りにくくなる。あの頃のひよりは意地になってたから遅延を掛けずに配信した結果、ゴースティングの恰好の的にされていた。


 どれだけ倒しても湧いてくるからアレと掛けてGって呼ばれてるんだよね。湧き出したら止まらないからなぁ。 


「H4Y4T0、避ける?」

「冗談。ゴキブリ湧いたときにすることは決まってんだろ」

「ぶっ潰して挽き肉にしてやるよ」

「あたし普通に悲鳴あげて逃げるんですけど」

「あ、ひよりは女の子だもんな」

「H4Y4T0、あとで話あるから」


 励ますつもりがプレミかましちまったぁ。そうこうしているうちに俺たちは降下ポイントに辿り着く。場所はRagnarok Cup最終戦で降りた場所だ。


「とりあえず倒すよ」

「ははっ、H4Y4T0が説教されるの見てぇから負けるのもアリだな」

「励ますつもりだったんだよ。ほら、さっさと処理するよ」


 俺たちはすぐにそれぞれが建物に飛び込んで物資を漁る。ゴースティングの連中は無理やり軌道をこっちに合わせた分降下に時間がかかってる。そんなお粗末な奴らに後れを取るわけがないだろ。


「あい、一匹ダウン」

「あたしも倒したよ」

「よし、あと一匹か…ってあれ、逃げんの?」


 俺たちが瞬殺で2人をノックダウンさせると、残りの1人は踵を返して逃げてしまった。

 追いかけてもいいけど物資も揃ってないからいいや。


「さて、ひよりさん、どうぞ」

「ゴミはゴミ箱に捨てねぇとなぁ」

「は~い」


 俺とSetoはダウンしている奴のとどめをひよりに譲る。俺たちと知り合うまでの活動の中で、いくら吹っ切ったといっても思うところはあるだろう。ひよりは地面に這いつくばる2人の前に立つ。


「別にフィニキャンや死体撃ちなんてしないよ。あたしはあんた達みたいなクズと同じとこに堕ちるなんてご免だから」


 ひよりの声音は静かだけど、そこにはこれまで辛い思いをさせられてきたことへの悲しみと怒りが込められているように感じられた。


「当たり前のマナーやルールすら守れないって可哀そう。でも、そんな奴らに意地を張ってたあたしもバカだった」


 フィニッシャーで1人がボックスへとその姿を変える。そのまま残された1人に、ひよりはゆっくりと銃口を突きつける。


「来るなら来なよ。もう前までのあたしじゃないから。あたしは、Rising Leoの楠 日和だ! H4Y4T0と、Setoと、応援してくれてるみんなと世界に行くんだ! だから…くだらない邪魔すんなバカぁ!!!」


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