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第2章06 会話

 配信のあと、気苦労で疲れ果てたSetoはさっさと帰ってしまった。どうやら彼女が部屋で待ち構えているらしい。スマホを覗き込んでからの顔が微妙に引き攣ってた。

 宛がわれた控室には、俺とひよりが残っている。対面で座るひよりは、ぐた~っと背もたれに体を全力で預けていた。


「はぁ~、疲れたぁ。色々てんこ盛りって感じで」

「お疲れ。でもすごかったな。歌もダンスもあんなに上手だなんて知らなかった」

「そ、そう? ふふっ、なら一杯練習した甲斐があったかなぁ。最初は全然だったんだよ? 歌はもともと好きだったけど所詮カラオケの延長で、ダンスなんてしたことなかったし」

「TBみたいに?」

「あそこまでひどくはないから。てかなんでもTBに繋げないでよ。ほんっとに中毒なんだから」

「ははっ、悪い悪い」

「もうっ」


 これまでも配信や練習のときに交わす何気ないやり取り。ただ、いつもと違うのは、俺の目の前にひよりがいるということ。

 ひよりの姿、仕草、表情をじかに見ながらのやり取りは、これまでと変わらない砕けたやり取りにも新鮮な感覚を覚えさせる。


「1ヶ月前は、こんな風になるなんて夢にも思ってなかったなぁ」

「そうだね。俺もまさか自分がVtuberさんの事務所に行って、配信にお邪魔するなんて全く考えてなかったよ」

「…あのさ、会ってみて、どうだった?」

「ん? どうって?」

「だ、だから…がっかりとか、してないかなって」


 ひよりは俺に視線を合わせず、若干下を向きながら問いかけてきた。緊張した感じでユニフォームのパンツの裾をきゅっと握っているその姿から、ひよりが今日俺たちと対面することに不安を覚えていたんだなということを理解した。


「するわけないだろ。俺やSetoがチームメイトを見てくれで決めるような出会い厨だとでも?」

「そんなことは思ってないけど、やっぱ気になるじゃん」

「いや驚きはしたよ? 俺とSetoも顔合わせたとき目が点になってただろうし」

「あはは、確かに。2人とも固まってたね」

「まぁいいじゃん。とにかく、心配するようなことは何もないよ」

「そっか。よかったぁ」


 俺の答えに緊張が解けたのか、足をプラプラと振り出すひより。Vtuberとして活動する配信者特有の気苦労ってやつなんだろうなぁ。俺やSetoは顔出し配信も普通にやってきたし、大会でも抜かれてるから対面の抵抗感とか特にないし。


「そもそも、Sleeping Leo組んでるときだって似たようなもんだしね。Setoや《《あいつ》》とも、初めて顔を合わせるまではしばらくずっとボイチャだけで練習してきたんだ。別に今のご時世珍しいことじゃない」

「あ~そっかぁ。確かにオンラインゲームやってれば対面しないやり取りが普通だもんね」

「そういうこと。まぁでも、こうして早めに対面できてよかったとは思ってるよ。ひよりの覚悟を見せてもらえたから」

「そ、そう?」


 ひよりはどこか照れた様子で髪に手櫛を通す。俺とSetoは、配信の打ち合わせで初めてひよりと対面したときに驚きのあまりしばらく固まってしまった。何故かはいずれわかることだ。俺たちが大会を勝ち進めば。


「Setoも気合が入ったと思う。だから、明日からも頑張っていこう」

「そうだね! 今日は配信はしないんでしょ?」

「さすがにね。もらったお弁当食べてルーティンだけやって寝るかな」

「あたしもそうしよ。じゃあ、あたしは着替えて帰るから」

「うん、俺ももう出るよ」

「じゃあね、H4Y4T0」

「お疲れ、ひより」

「「また明日」」


 事務所を出ると、5月の涼しい夜風が通り抜けていく。茜さんが手配してくれたタクシーに乗り込んで見慣れない街並みを走りながらスマホをタップする。イヤホンから聞こえてくるのは、さっきまで舞台袖で聞いていた、ひよりの楽しそうな歌声だった。

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