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第2章00 通告

「リザーブに回ってもらう」

「えっ?」


 唐突にチームの代表から告げられた時、言っている意味を即座に理解することができなかった。


「実はFAになった選手が急遽こちらの加入要請に応じてくれてね。もうじき始まるプロリーグ予選はその選手をメインの火力枠として据えることにしたんだ」

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても。これまで連携を高めるために必死にやってきて、ようやく最近は上手くいき始めてるんです。そんな急にリザーブなんて言われても、納得いきません!」


 加入したてのころはこれまでと異なるチームメンバーとの連携に苦労してなかなか調子が上がらなかった。それは事実。でも、時間を掛けて意見をすり合わせる中で、ようやく最近チームとして機能し始めている、馴染めてきたと感じていたところだ。そこに突然想定外の宣告を受け、すんなりとはい、そうですかと引き下がることができるわけがない。


「とはいえ、これはもう決定事項なんだ。他のメンバー2人にも確認したし、了解は取れている」

「そんな…。どうしてそんなことを! 僕だけどうして除け者にされないといけないんですか!」

「勝つためだ。正直、このままではプロリーグ予選を勝ち上がることも難しいと感じていた。そこに降ってわいたFA情報だったからね。うちに加入してもらう条件で正規メンバーとしての待遇を求められた。そうなると、苦渋の決断ではあったけど、誰かにリザーブに回ってもらう必要がある」


 何が苦渋の決断だ。ふざけるな。そりゃ他2人からの了解はとれるでしょ。自分がリザーブに回らないんだから。あまりのことに動揺するばかりだった心に、次第にグラグラと怒りが込み上げてくる感覚を覚える。


「契約のとき、僕をメンバーとして大会に臨むって話は嘘だったってことですか」

「もちろんあの時はそのつもりだった。何度もいうが苦渋の決断だった。ただ、我々もスポンサーありきで存続できている。結果が出せなければ君たちを雇い続けることもできない。別にリザーブだからといって賃金を下げたりはしない。君を貴重な戦力と思っているのは間違いないんだ。ただ、この大会ではまだ君では力不足と判断せざるを得なかった。もちろん出場の機会はあるだろうから、その時は思い切り力を発揮してほしい」

「よくそんなことが言えますね」


 怒りを抑えるのに必死で絞り出すような声しか出てこなかった。事前に話を通してもらえていればこんな風にはなっていない。水面下で話を進めて、どうしようもない状況になってから事後報告をするような姑息なやり口がどうにも納得ができなかった。これがこのチームの屋台骨のやり方なのか。そう思うとこれからこの人をどう信用すれば良いというのか。


「君もプロなら納得してくれ。この世界は結果が全ての実力主義だ。結果を出していればこんなことにはなっていない。君が私を納得させるだけの結果を示してくれていればね」

「……」

「君があの大会で見せてくれたようなパフォーマンスをうちに加入してからも発揮してくれていれば、こんなことにはなっていないんだ」

「加入したてで、今までとやり方もまったく違うチームで慣れるまでに時間がかかるって言うのは当たり前じゃないですか!」

「だから時間は与えたつもりだよ。応えられなかったのは君の力不足だ。やはりSeto君も引き抜ければよかったんだが」

「…なんですって?」


 代表の口から洩れた言葉が耳朶を打った時、眩暈がするような感覚を覚える。今…今それを言うの?


「すまない。今のは失言だ。君に魅力を感じたのは紛れもない事実だ。でなければスカウトするわけがないだろう」

「今更ですね」

「話を戻そう。君が不満に思うのも無理はないと思っている。こちらとしてはリザーブに回ってもらえるならありがたいが、納得ができないというのであれば契約を解消しても構わない。移籍の候補となるチームを紹介するくらいの便宜は図らせてもらうよ」

「そういう…ことですか」


 ようやく理解した。これが戦力外通告だということを。

 どれだけ大声で異を唱えようと、この結論が覆ることがないということも。


「考える時間をください」

「もちろんだ。よく考えてくれ。自分で移籍先に接触を図っても構わないが、こちらにも話は通してくれるとありがたい」

「…分かりました」


 通話を終え、イヤホンを乱暴に毟り取ってゲーミングチェアに体を投げ出した。怒りと驚きで叫びそうになるのをどうにか堪え、視線を移す。その先には、数か月前に制した大会のトロフィーが置かれている。


 最高の実績を引っ提げて華々しく世界大会に乗り込むつもりだった。それが今はお先真っ暗だ。

 代表のやり方には甚だ納得できないけど、結果を突きつけられると反論が難しいのも事実。でも、その責任を僕1人に押し付けてこんなやり方をするチームにこれ以上いたくないというのが率直な今の思いだ。


「そういえば2人はどうしてるかな」


 もし配信中に連絡してしまうのは悪いので2人のチャンネルを表示すると、やはり配信の真っ最中らしい。見れば、見知らぬVtuberらしき女の子と配信しているらしい。


「へぇ、2人もVの人とコラボとかするようになったんだぁ…ん?」


 見れば、2人のアカウント名の最初についた英語が見慣れないものに変わっていた。前までSLとチーム名の略称をつけていたはずなのに、


「RL?」


 見慣れない2文字に妙な引っ掛かりを覚え、僕はその配信に見入った。



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