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第1章42 ひより視点 恐怖

楠 日和視点


「参りました」

「へっ?」

「まさかこんなに早く回答を出してくるなんて思ってなかった。しかも、ここまでクオリティを高めてくるなんてね。少なくとも俺より上手いよ。Setoはどう?」


「悔しいけど俺よりも上手ぇよ。同じ速さで投げようとしたら精度がどうしても劣る」

「だってさ。てなわけで、グレの扱いに関してひよりは俺ら以上の腕前を持ってる。課題に点数をつけるなら、100点だね」

「……はぁ~、よかった…よかったぁ」


 提示した回答に無事合格点をもらうことが出来て、安心とこれまで抱えてきた不安から解放されたことで一気に体から力が抜ける。自然とデスクに突っ伏してしまった。


 でも本当によかった。あたしの考えは間違ってなかった。まだまだ精度には改善の余地があるけど、それはこれからも練習していけば改善していくし。


 いつしか2人はあたしの技術を活用するために話し合いだして、あれよあれよという間にあたしに任せるって言いだした。


 さすがにそこまでとんとん拍子に話が進むと思ってなかったから、展開についていけず戸惑ってしまう。


 でも、H4Y4T0はそれが最善だからあたしに任せるって言ってくれた。H4Y4T0がここまで言うんだからお世辞で言ってるわけがない。


 あたしの身に着けた技術が勝つために必要だから任せてくれるんだ。


 あたしでも勝つために2人から任せてもらえることができた。


 2人に勝るものが何もなくて、ただ付いていくこと、追いつこうとすることに必死だったけど、ようやくあたしが秀でているものができたことが本当に嬉しい。


「それだけひよりの身に着けた技術が実戦的で有用ってことだよ。俺もIGLするうえでちゃんと把握しときたいから後で詳しく聞きたいし」

「わかった。まだ弱くて他で足引っ張っちゃうから、絶対役に立つね」

「……」


 あたしがやる気を出して答えたけど、H4Y4T0からの返事がない。あれ、通話の調子がおかしいかな? 


「H4Y4T0? どうしたの?」

「ひより、やっぱりさっきの課題は満点はあげられないかな」

「俺も同感。50点に減点てとこじゃね?」


 思いがけない減点通告だった。Setoに至っては半分にまでされちゃってる。


「えっ? …やっぱりまだ狙いが甘いから? それならこれからもちゃんと練習するから」

「違う、そうじゃない。俺がどうしてひよりに課題を出したか覚えてる?」

「……あっ」


 そうだ。H4Y4T0があたしにこの課題を課したのは、あたしに自信をつけさせるため。


 なのにあたしはさっきネガティブな要素を含めて返事をしてしまった。


 指摘されるまで気づかなかったってことは、無意識で口を突いて出てしまうくらいあたしにその思考が刷り込まれてるってことで…。


 そっか、これじゃあ減点されちゃっても仕方がない。ここまで努力しても、2人から褒められても、あの頃の辛い記憶からあたしはまだ逃れられてないんだ。


「この1ヶ月でひよりはめちゃくちゃ強くなった。俺らより長けた技術も身に着けた。それでもまだ自信は持てない?」

「えっと、強くなってるって実感はあるの。さっき2人から褒めてもらえたのもすごい嬉しかったし。でも、どうしても2人からコーチングしてもらう前の頃を思い出すと不安になっちゃうっていうか…」


「あのときのひよりとはもう別人レベルだと思うけど」

「ありがとう。でもやっぱり考えちゃうの。この恵まれた環境ももうすぐ終わる。レートにまた潜るようになったときに思うようにレートが伸びなかったらまた色々言う人たちが出てくるんじゃないかって。結局H4Y4T0のオーダーとSetoの火力があったから上手くいってただけで、あたしだけじゃこんなもんだ。2人と組めば誰でも勝てるとか言われる気がして…」


 H4Y4T0はいつも優しくフォローしてくれる。Setoも口は悪いけど真剣に真向からぶつかってくれる。だからあたしはここまで頑張ってやってこられた。


 でも、それがなくなったら…?


 この1ヶ月、寝る間も惜しんで毎日毎日練習したから疲労はすごく溜まってる。でも、配信が本当に楽しかった。


 練習した成果が実を結ぶたびに努力が報われる気がして、嬉しくて。だから練習も大変だったけどひたすら打ち込めた。


 けど、大会が終わればこの関係は終わる。もちろん全く関わらないなんて思わないけど、2人は本来プロゲーマー。


 世界大会に向けてメンバーを探さないといけないし、練習もあるから忙しくなっちゃう。


 そしたらまたあの日々が戻ってくるんじゃないか。強くなっても、もし何か失敗したりすれば叩かれて。2人がいたから勝ててただけって言われて、あたしに返す言葉があるだろうか。


 楽しかった分、充実してた分、またあの日々が戻ってくると思うと、怖くて怖くて仕方がなかった。

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