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第1章30 柊さん その2

「辛そうにしながら意地張るから、そういう奴らからしたら恰好の的なんだよねぇ。効いてる効いてるってわかりやすいしさ」

「確かに恰好の餌食って感じですね」


「そうそう。もちろん、リスナーのほとんどは味方で、応援してくれてるんだよ? ただ、負のスパイラルに入っちゃった時って嫌なコメントにばっかり目がいきがちだし、そういう連中を止めようとするリスナーとの対立とかでもうめちゃくちゃ」


 柊さんの言うとおり、ごちゃごちゃ言ってくるのは少数なんだろう。だけど、ノイジーマイノリティって言葉が広く浸透したくらい、その手の連中は厄介だ。


 応援している側が善意や正義感でそういう奴らを止めようとコメントしだすともう止まらない。


 大会とかのコメント欄は大体この流れで地獄絵図になる。大会を視聴するときにコメ欄を閉じろってのは至言だ。


「そう遠くないうちに、楠が限界超えちゃうと思ってた。多分それはうちだけじゃなくて、楠のリスナーもだったと思う。でも、そんなギリギリのときに2人が現れたってわけよ!」


 まさにスイッチが哀から喜へ、カチッと音を立てて切り替わるように、柊さんの声音が変わった。


「H4Y4T0さんが指示厨たちをズバッと一刀両断にしてくれたときはほんっっっっっとに、胸がスッとした!」

「そういえば言いましたねぇ。俺も軽くですけどアーカイブ見てコメデモ多いなとは思ってたんで」


「固定コメントで大会実績とTier書いてから言えって貼られてからは激減してるしね。楠もわかるっしょ?」

「うん、ほんとにすっごい減ったね」


 2人がそういうなら実際に効果が出てるんだろう。思いつきでしかなかったけど、状況の好転に一役買えたなら何よりだ。


「それだけじゃないよ。楠最近ほんと楽しそうだもん。ずっと無理して笑ってるような配信ばっかだったのに、最近は喜怒哀楽がはっきりしてる」

「まぁそれに関してはSetoのせいじゃないですかね。あいつ煽りまくるから」

「あははは、そうかも。あの人面白いよねぇ。Setoさんとも話してみたいなぁ」


「あいつ来ても喋れないですから」

「そっか、めっちゃコミュ障なんだっけ。でも煽ればいいんでしょ?」

「あ、そうですそうです。もう脊髄反射なんで」

「やばすぎ。まぁそんなわけで、楠がまた楽しそうに配信しててよかったなぁって思ってたところで、こないだの配信だよね」


「こないだってのは昨日?」

「違う違う、その前かな。ほら、楠が軽く泣いちゃったときの」

「あぁ~」

「美月、もうその辺にして…。恥ずかしすぎるから」

「い~や~だ~。恥ずかしいならミュートしてて。こっからがメインなんだから」

「もう、バカ!」


 どうやらほんとにミュートしてしまったらしい。アイコンは残ってるから通話は繋いだままっぽいけど。


「照れちゃってぇ、可愛いなぁほんと。H4Y4T0さんもここまでやってきて楠の性格分かってきたでしょ? 不器用で、負けず嫌いで、頑固で…すっごい努力家」

「ですね」

「こないだの配信さ、楠が嬉し泣きしてるの見てうちももらい泣きしちゃったもん。でさ、H4Y4T0さんの優しい言葉とそれに応えようとする健気な楠見てるとさ、もう、なんかこう…ジーンって胸が温かくなって、めっちゃてぇてかったの!」


「Setoも励ましてましたよ?」

「そりゃ分かってるよ? でもSetoさんと楠はバチバチにプロレスする感じじゃん? だからてぇてぇではないね」

「あ~確かに。すごい納得」


「でしょ? Setoさんと対照的なぶんH4Y4T0さんの面倒見の良さが際立つし、すごくいい関係性だなぁって感じるんだよ。で、それを簡単に一言で表現できるのがてぇてぇなわけ。


 リスナーも大体そういう感じだと思うよ? ネガティブに使われる言葉じゃないし。だからさ、いつまでコーチングするのかは分からないけど、終わるまでは今までどおりに楠に接してあげて?」


 俺に面倒見がいいって言ってるけど、この人も相当だろ。ひよりのことを心から大切に想っているのがひしひしと伝わってくる。


 同期として、友人として、俺よりはるかに長い間、ずっとひよりのことを見てきたからこそ、ひよりの苦悩も理解しているし、その変化を感じて喜んでくれている。


 俺とSetoが互いに全幅の信頼を置いているのと同様に、この2人も固い絆で結ばれてるんだな。


「分かりました。正直いえば、まだこの界隈のこと全然詳しくないからまた何かやらかさないか不安もありますけど、これまで通りにコーチングは続けさせてもらおうと思います」

「そっか。よかったぁ。ほら、楠! いい加減戻ってきな。聞いてるんでしょ?」


「……うぅ~…バカぁ」

「また泣いてんの? ほんと最近泣き虫なんだから。ほら、H4Y4T0さんもこれまで通りコーチング続けてくれるってさ。よかったね」

「うん…美月ありがとぉ」


 俺とSetoは相棒って感じだけど、柊さんとひよりは姉妹って感じだな。面倒見のいいお姉さんってのがすごいしっくりくる。


「あ~よかった。あんなことでうちのここ最近の癒しが無くなったらどうしようかと思ったよ」

「はは、すいません。でも俺も分かりました。柊さんたちの関係性もてぇてぇってやつなんでしょうね」


「おっ、分かってるじゃ~ん。そういうこと。えっ、でもちょっと待って? H4Y4T0さんと楠がてぇてくて、楠とうちがてぇてぇってことは、つまりうちとH4Y4T0さんもてぇてぇってこと? ちょっとやだぁ。まだうちら初対面だし、心の準備が」


「いや台無しだわガチで」

「美月ってほんともったいないよね」

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