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第1章19 IGLの指示は絶対

「俺、戻れって言ったよな?」

「……!」


 俺の声のトーンが明確に下がったことで楠さんが息を呑む。そう、トロールしようが別に構わない。問題は、俺が怒っているのはそこじゃない。


「どんだけミスしようが構わない。ただし、俺のオーダーには絶対に従ってもらう。俺が突っ込めと言えば何があろうと突っ込め。戻れと言えば戻れ。《《死ねと言えば死ね》》…それが俺と組んで戦ううえでの鉄のルールです」

「……」


「Setoも例外じゃない。こんな化け物じみた火力を持ってるけど、こいつは俺の指示には絶対に従います。なぁ?」

「おう」


 即答。なんの躊躇いも疑いもない。それが俺とSetoの絶対の信頼関係の証でもあるんだ。


 あいつは俺のオーダーを実現するために全精力を注ぎこむし、俺はあいつが火力を最大限発揮できるオーダーを常に意識する。


「さすがに死ねってオーダーを出すことはないだろうけど、要はそれぐらいのつもりで俺のオーダーを聞いてほしいってことです。なんでか分かりますか?」

「…そうじゃないと、H4Y4T0さんのゲームプランが崩れるから…ですか?」

「それもあるけど、一番重要なのは反省ができないってことです」

「反省?」


 俺の答えにあまりピンと来ていない様子の楠さん。まぁしょうがないよな。今だって反省はしてるわけだし。ただ、そんな浅い次元の話じゃないんだ。


「えっと、目先のプレイングの反省ももちろん大事なんですけど、一番大事な反省は俺のオーダーを遂行したうえでじゃないと出来なくなるんです」

「一番大事な反省?」


「そう。仮に俺のオーダーが間違っていたとして、それを遂行してもらってからでないと、どこをどう間違ってたかの検証ができないですよね?


 このゲームって反省しようにも結果論でしかないことって結構あるんですけど、だからこそ、精度の高い検証をするために全員に俺のオーダー沿って動いてもらいたいんです」


「そっかぁ。H4Y4TOさんのオーダーに従わずに勝手に動いちゃうと、本来得られたはずの結果を得られなくなっちゃうし、その検証もできないから」

「そういうこと。俺のオーダーの遂行に全力を尽くしてもらわないと、検証が出来ないから俺が成長することもできない実りのない結果になっちゃうんです」


 IGLには大きく分けて2種類いる。メンバー全員で意見を出し合い、全員の合意形成を大事にしながら最終的な決定を下すタイプ。もう一方は報告をもとに単独で判断してタクトを振るうタイプだ。


 俺は圧倒的に後者タイプ。他の2人には火力に振り切ってもらい、こちらは思考にリソースを多く割きたい。逐次報告はしてもらうけど、完全な分業体制の方が動きやすいし集中できる。


 もちろんプレッシャーは重い。俺の指示や判断にチームの命運がかかるわけで、負けたら俺の責任だからだ。だからこそ、常にIGLとして成長し続けるのが俺の義務。


 それに、俺のイメージしたとおりに盤面を動かして勝ったときの快感が堪らないんだよな。もちろん、不利な状況をひっくり返しての逆転勝利ももちろん気持ちいい。


 実際盛り上がるのはそういう展開だろう。でも、俺が一番好きなのは、相手に逆転の目を与えず、有利な状況を保持し続けて無難に勝ち切る、そういった盤石の試合運びだ。


 ただ指示に従っていたら勝っていた。味方にそう言わせるくらいのオーダーを出せるようになりたい。


 そう思って俺は毎日練習に努めてる。だからこそ、負けた試合の分析も質の高いものにしたい。


 なぜこの判断を下したのか意図を表現しつつ、メンバーからの意見などももらって最適だったと思われるムーブを考える。


 敵がどこにいたのか、どんな構成だったか、どう伝えればよかったのか。位置取りなど様々な要因をもとに結論を出すうえで、俺のオーダーに従った上での結果じゃないと議論自体が無駄になる。


「そっかぁ。よく分かりました。次からはもっとH4Y4TOさんのオーダーどおりに動けるように気を付けます」

「ありがとうございます。こちらこそ強めに言っちゃってすみませんでした。動きの指示は俺が出すんで、楠さんも疑問に思ったこととか、どう動けばいいか迷ったらいつでも聞いてください」

「はい。ガンガン聞きます!」


 楠さんの元気のいい返事に俺は胸を撫でおろす。正直強めに言いすぎた。でもこの雰囲気なら引きずることはなさそうだ。楠さんにここまで言った以上、結果で俺は応えなきゃいけない。


「そろそろ説教終わった?」

「終わったよ。ほんと空気になるのうまいなお前」

「俺の出る幕じゃねぇしな。それに、怒るのは一人でいいじゃん?」

「それはそう」


「まぁ、楠さんも切り替えたみたいだしいんじゃね」

「うん、Setoさんもありがとう。案外優しいとこあるんですね」

「おいおい、優しさしかねぇよ。俺を何だと思ってんだ」

「クソガキ煽り害悪プロゲーマー?」


「おし、射撃場いくぞ、今度は俺が教育してやるよ」

「こわ~い、H4Y4TOさん、ちゃんと躾けてくださいよ」

「俺はこいつの飼い犬じゃねぇ!」


 気づけばガヤガヤと騒ぎ出す2人。もう先ほどまでの重苦しい雰囲気は完全になくなっていた。さっきみたいな真剣な雰囲気から普段の状態にすぐ戻れるのもなかなか簡単にはいかない。


 どうしても気にして声が小さくなったり、萎縮しちゃうもんだしね。その点、楠さんはSetoの意図を汲んで元気に振舞ってくれた。こういうところはさすがストリーマーの先輩ってことなんだろうな。


 俺たちはその後もノンレートに潜り続け、ひたすら戦闘を繰り返した。楠さんのミスがあればその場で伝えるべきことは伝えて、戦闘終了後に立ち回りやスキル関連の指導も行った。


 俺の指示には即座に応えようとする意識も強く見られたし、あの説教も悪くはならなかったなと楠さんの意欲的な姿勢に密かに感謝を送っていた。

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