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第1章10 脳筋

「調子にのってすみませんでしたぁぁぁ~」


 5回ストレートでノックダウンしたところで楠さんが泣きそうな声で降参した。どれも危なげなく俺の勝ち。


 さすがにSetoみたいに煽りはしなかったけど、5戦目は最後の一撃をパンチで終わらせた。TBは銃弾がなくなったり初動で武器が拾えなかった時用で格闘キーが設定されている。


 入力することで至近距離ではあるが正面の敵を殴ることができ、当たれば30ダメージが入る。Setoから合わせれば15連敗となったところで、楠さんの心も折れたようだ。


「コーチの実力は分かりましたか?」

「はいぃ…。申し訳ございませんでした」

「よろしい。精進するように」

「はい……。イツカコロス」

「何か?」

「何でもございません!!」


 まぁSetoも含めだいぶ打ち解けることができた。楠さんも負けず嫌いで教え甲斐がありそうだ。それに、今の15連戦で楠さんの現時点のフィジカルを図ることもできた。いよいよコーチングに移ろう。


「さて、フィジカルも見せてもらったしコーチングしていこうと思うんですけど…。あ、先に言っといたほうがいいな。楠さん、これからコーチング期間中はレート戦禁止で」

「へっ!?」


「レート戦はしないでいいです。上手くならないんで。やるのは3on3かアンレートにしてください」

「えと、上手くならないっていうのは…」


 楠さんは俺の言葉の意味を図りかねてるみたいだ。まぁみんな自分のレートを上げるためにやってるんだから、レート戦に行くなっていきなり言われても困るか。


「最終的な目標はグランデやパンデモニウムだと思うんですけど、レート戦ってどうしても時間がかかるじゃないですか。レートを上げるためのムーブと強くなるためのムーブは違うんで。


まぁ一緒って人もいるけどそれは上の話ですし。とにかく、楠さんに必要なのはまずフィジカルです。そのためにはファイトあるのみなんで。レート戦でポイントのために芋ったりするのは時間の無駄です」


 レート戦では生存順位でもポイントが変動する。なので、部隊が1人もしくは2人キルされた場合、戦闘をせずにハイドして生存順位を上げる戦略を採る場合がある。


 もちろん合理的なムーブなんだけど、それをやっても火力が成長することはないから今は必要ない。ここから上にいくために必要なのは不利な局面をひっくり返せるようなフィジカルだ。


「なるほど…。たしかにそれなら3on3やアンレートの方が向いてますね」

「そゆことです。てなわけで、1回3人でアンレートに行きましょう。楠さんのファイト練習のレクチャーってことで」

「はい、お願いします。H4Y4T0さんのオーダー楽しみです」


「オーダーは簡単だよ? アンレートで真面目にムーブなんてしないし」

「えっ?」

「敵見つける、突っ込む、轢き殺す。以上、終了!」

「…それだけ?」


 いかにも脳筋な指示ですらないかもしれないに楠さんは黙ってしまった。とはいえほんとにそれだけなんだよなぁ。


 そりゃあまりに不利な状況なら一旦引いたりはするけど、楠さんのフィジカル向上をメインテーマに据えるなら順位なんてどうでもいい。敵を見たら突っ込むのみだ。楠さんは困惑気味だけど、Setoは納得の様子だし。


「楠さん、フィジカル上げたいなら射撃場で練習してひたすらファイトを繰り返すしかないっすよ。俺も下手な頃は毎日ノンレで100キルをノルマにしてたし」

「100キル!?」

「そうそう。そんくらいしないと上には追い付けない。強くなりたいんだろ?」

「…なりたい!」


「ならとりあえず騙されたと思ってやってみなよ。1か月で見違えるぜ?」

「そうそう、それに今の楠さんにとってもいいと思いますよ」

「今のあたし?」


 俺の言葉の意図を図りかねる様子の楠さん。ちょっと踏み込んだ発言にはなるけど、ここがタイミングだろう。


「これからの練習は立ち回りよりはひたすらの戦闘になるでしょ? だから、コメントとかで変なやつがあーだこーだ言う内容でもないしね」

「あ~、なるほどぉ」


 楠さんの配信コメントに限らずではあるが、配信者のコメント欄にはさも物知り顔で立ち回りにケチをつけてきたり、指示を出そうとする輩がいる。


 中には善意でやっている人もいるのだろうが、はっきり言って迷惑だ。そういった連中は、界隈で“コメデモニウム”と呼ばれて嫌われている。


 実際には大したランクでないことがほとんどだし、本物のパンデモニウムやグランデの人はわざわざそんなことしない。たまに俺らの配信にも湧くが、一瞬でブロックしている。誰に向かって指示しようとしてんだこら。


「てなわけで、何回か潜りましょっか」

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