第153話 ヒガン率いる近衛兵
副長
「…たしか ファレーナアントの発生でしたか…厄介な連中ではありますが 所詮 鬼子共の村でしょ?そんなもの捨ておけばよいのに…ましてや 我々は アモン様直属の近衛兵です 何故 こんなことに我らが…」
ヒガンは 苦虫を嚙み潰したようにしている副長を見る その後 後ろをチラッと全体を見た
副長だけでなく 後ろにいる兵士たちも皆 納得している雰囲気ではなく 士気は低かった
ヒガン
『……む…全体的に士気が低い…このままでは ダラダラと時間ばかりかかってしまうな…だからといって なんと声をかければ 士気があがるのか…』
ヒガンもまた 副長たちと同じように 何故こんなことをせねばならないのか 疑問に思っていた
元々 鬼子という種族は 奴隷という立場より下 食料と認識されていた時期もあったぐらいだ そんな種族の村の為に わざわざ近衛兵を使ってまで行うという事は 到底 ヒガンには理解出来なかった
ヒガン
『……まあ…仕方あるまい…現場に着いて いざ戦いになれば 嫌でも士気は上がるだろう…多少時間はかかるかもしれんが 幸い期限は決められていない』
ヒガンは 士気が上がっていない事は分かっていたが 見て見ぬふりをし オロス村へ向かった
ヒガン
「………ん?……あの方は……!!全軍止まれ!」
副長
「どうされました?ヒガン様」
ヒガン
「………あの方は…閻恐王 ガムラ様だ……アモン王子から 先に行っていると聞いてはいたが…」
副長
「……ガ…ガムラ王…通称…無慈悲なる王…」
ヒガン
『……ま…まてよ…ガムラ王は 余程のことがない限り 動く事はないと聞いた事がある…そんな方がわざわざ鬼子の村に行った……も…もしや…この任務…とんでもなく重要なのか…』
副長
「ヒガン様 このままでは 我らの部隊と接触します 進行の妨げなどしたら 何をされるか…」
ヒガン
「…そうだな よし 全部隊 西へ移動するぞ」
ヒガンは 全部隊を西へ動かす しかし…
ヒガン
「……む!ガムラ王も向きを変えた……間違いない こちらへ向かってきている!全軍 整列せよ!」
ヒガンは ガムラがこちらへ向かって来ているので 部隊を止め 到着を待った
ガムラを目視確認したヒガンは 頭を下げる
ガムラ
「………この部隊の将は 誰じゃ?」
ヒガン
「はっ!わたしです!名は ヒガ…が!!」
ガムラは ヒガンが声を出した瞬間 両手足を魔法で拘束し 目の前に 強制的に引っ張り上げた
ヒガン
「あ!がっ!…ガ…ガム…な…」
ガムラ
「……なんじゃ?この体たらくな部隊は?……せっかく今宵は 気分が高揚しておったのに…」
副長
「ヒ!ヒガン様!!」
副長は 大の字に両手足を引っ張られているヒガンに駆け寄るが ガムラの背中からソウルイーターが1匹出てくる
そして 副長は ヒガンの元に辿り着く事無く 頭からソウルイーターに 丸呑みされてしまった
兵士たち
「!!!」
兵士たちは この一瞬の出来事により 恐怖と驚きと同時に 自分たちが置かれている状況を ようやく理解する この任務の重要性を
ガムラ
「……ん?なんじゃ もう 食うてしもうたか……先程の者は?」
ヒガン
「は……が…」
ガムラ
「……この程度で 話すことも出来ぬのか……つまらん奴じゃな…アモンは何故こんな者を将としたのか…よほど人材不足なんじゃな…」
ガムラは 面倒くさそうに話した後 ヒガンの口だけ 魔法を解除した
ヒガン
「はぁ……はぁ…さ…先程の者は わたしの副長です…」
ガムラ
「副長?……この程度で こんな体たらくな部隊を見せられた わしの気は済まぬが……まあ 今宵は 実に気分が良い それに これ以上の事をしたことが バレたら また 怒られてしまうかもしれんしな…シシシッ…」
ヒガン
「…………う…うぅ…」
ヒガンは この時 身体の震えが止まらず 心底恐れていた それは 今しがた 副長を丸呑みしたソウルイーターが ヒガンの肩にいるからである
ソウルイーターは ヒガンとガムラの顔を 何度も振り返り見直していた ソウルイーターは ガムラからサインのひとつでももらえば ヒガンをすぐにでも 一飲みにしてしまう事が明白だった
ガムラ
「そやつは 一応 この部隊の将じゃ まだ 食うてはならんぞ ……で?お前たちは アモンになんと言われてきた?」
ガムラは そう言うと ヒガンにかけていた束縛魔法を解く
ヒガン
「はっ!鉱山に棲みつくファレーナアントを…」
ガムラ
「それはもう良い わしが全て排除した アモンから何か預かっていないか?」
ヒガン
「はい!こちらを 村の代表者へと」
ヒガンは 厳重に保護された巻物を 取り出す
ガムラは その巻物を手招きをし 空中に浮遊させ広げた
ガムラ
「………ほう…中々の英断じゃな…これならば あの2人も納得するじゃろう」
ガムラは 独り言のように呟き 巻物を戻し ヒガンに返した
ガムラ
「本来ならば 今 この場で 半分ほど粛清してやろうと思うていたが 今宵は気分が良い あの副長だけで許してやろう 村へ行きゴムドという者の命を聞け わかったな 二度とこんな体たらくな部隊を見せるな さっさと行け!!」
ヒガン
「はっ!!」
ヒガンは背筋を伸ばし 兵に指示を出す 今までとは比べられない程 隊列の整った兵は 村に向かって飛んで行った