第139話 エミリの38本の矢
ミナ
「……ミナは エミリが羨ましいなぁ…」
エミリ
「羨ましい?…なんで?」
ミナ
「……エミリだけじゃなくて サヤカもアルマも……ミナは…とっても弱いから……みんな…強くて 羨ましいです……」
サヤカ
「……ミナにとって…強いって何?」
ミナ
「……え?」
サヤカ
「強さって 相手を打ち負かしたりするだけじゃないと思うんだ…それに…私が出会った中で 本当に強いと思ったのは グミちゃんでもゴムドさんでもないよ もちろんユウキでもない ミナ あなたが一番強いよ」
アルマ
「せやな 悪運も最高やろなぁ」
エミリ
「だよね ここから徒歩で帝都まで行くって ちょっと無謀だし」
サヤカ
「でも そんな無謀でも 今がある その事全て ミナが行動したからなんだよ 行動を起こすことは とっても勇気がいる……私の方が ミナが羨ましいよ…もし…あの時…少しでも ミナみたいに勇気があれば……」
ミナ
「………サヤカ…」
サヤカ
「……ううん なんでもない…とにかく!ミナは強い!誰よりもね!」
ミナ
「……サヤカ…ありがとう!」
ユウキ
「……おーい…盛り上がっている所悪いが そろそろいいか?」
エミリ
「あ!ゴメンゴメン…じゃあ ビシッと決めてくるよ!」
ミナ
「うん!」
サヤカ
「ビシッと決めてね!」
エミリは 一番前に行き 大きく深呼吸をする
エミリ
『……なんだろ…視界が凄く広く感じる……それと…なにもかもが…止まって見える……これが…アルマの加護?』
エミリは アルマに振り返る すると アルマはニヤッと笑う
エミリ
『……ありがと!アルマ!……よし!これなら!』
エミリは ゆっくりと弓を構える
すると ユウキが エミリとクイーンの真ん中まで行き 立ち止まる
エミリ
「……え?」
ユウキ
「エミリ ここにいたいんだが 邪魔かな?」
エミリ
「??……うん…もう ターゲットは付けたから 大丈夫だけど…なんで?」
ユウキ
「……いや…えっと……なんだか このクイーンの最後を見届けなきゃならないって 思ったんだ…」
ユウキが クイーンとエミリの間にいる事によって エミリの視界を遮ることになっているが エミリの弓の照準合わせは すでに終わっているので エミリにとっては ユウキがいようがいまいが関係なかった
ユウキ
「…………」
ユウキは エミリに嘘をついた クイーンの最後を見届ける為ではない ただ この場所にいなければならない 何故この場所にいなければならないかわからないが 絶対にいなければならないと 確信していた
エミリ
「………じゃあ 行きます!」
エミリは 上空に向かって矢を放つ すると 放たれた矢は 空中で矢じりをクイーンに向いたまま止まる そして エミリは また 上空に矢を放つ
放たれた矢は 計37本 それらの矢は空中で止まり 発射の時を待つ
エミリ
「………ふぅ……よし…」
エミリは大きく息を吐き 先程放った矢より ひと際強く輝く矢を放つ
エミリ
「準備出来たよ…」
グミ
「こっちは いつでもいいぜ エミリの好きなタイミングで放て」
ゴムド
「こちらも 問題ないぞ 好きな時で良い」
エミリは 強く頷き 右手を高らかに上げる そして 手を強く握った
その瞬間 上空に待機していた 38本の矢が クイーンに向かって飛んでいく
エミリ
「行けー!!」
37本の魔法の矢は 勢いよく触手に向かっていき 大きく輝く1本の矢は クイーンも喉元に向かっていく
その様子を ゴムドは驚愕していた
ゴムド
「な…なんと!全くのズレを感じぬ…ここまで…正確とは…」
寸分違わず 37本の矢は 同時に触手の真ん中に直撃し そのまま切断
それと 同時にゴムドとグミは 同じタイミングで 回復魔法を使う
クイーンは 自分の触手を切られた事に気付くが その時には すでにクイーンの喉元に 光り輝く矢が 貫いた後だった
クイーンは 声にならない声で叫び 体を何度かうねらせた後 動かなくなった
回復魔法を使い終わったグミとゴムドは クイーンに近づく
そして お互い 頷き合う
グミ
「……エミリ 見事だ!クイーンは絶命しているぜ!」
ゴムド
「うむ 活動停止を確認出来たぞ……見事…」
ユウキ
「そっちはどうだ?回復は?」
グミ
「出来る限り回復をした 後は 本人次第だ」
ゴムド
「こちらも 全員無事じゃ」
サヤカ
「………やった……やったよ!エミリ!」
エミリ
「う…うん!!」
エミリは全ての魔力を使ったようで 顔は蒼白になっていた
グミ
「安心するのはまだ早いぜ とにかく こいつらを村に運ばなきゃな」
ゴムド
「うむ そうじゃ これだけの人数を運び出すには 人手がいる すぐに村に戻り 人を呼ばねばならん わしは この場でとどまり 村人を見ていよう」
グミ
「そうだな ここはゴムドに任せて 俺たちで呼びに行こう」
グミはユウキに話しかける
ユウキ
「…………」
ユウキは 未だ その場所から動かずにいた
グミとゴムドは エミリを中心に盛り上がっている女子陣に向かって行く
グミ
「お前ら いつまでも余韻に浸ってないで 一度村に戻るぞ」
サヤカ
「そうね 回復したとはいえ まだ 意識が戻ってないわ 早く村に行かないと」
グミ
「サヤカとエミリは ここでゴムドと一緒に残っていろ エミリはすぐには動けないだろ? 村には俺とユウキ そしてミナで戻る ミナ 村に戻ったら 事情を話してくれ そうだな……大体20人程 人手がいる」
ミナ
「はい!わかりました!任せて下さい!」
グミ
「よし………って…おい!ユウキ!いつまでボーッとしてるんだ?」
ユウキ
「…………違う…」
ユウキは 小さく呟いた