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異世界旅行代理店  作者: 紙野七
第一章 異世界のへそで多様な文化に触れる。交易都市ウェルデン30日間の旅
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1-35 囮

「……終わったみたいですね」


 無事にミレナと和解し、一度氷漬けになってしまったカジの手当をしていると、後ろからフェルの声が聞こえた。一瞬どこから声がしたのかわからなかったが、よく目を凝らしてみると、部屋の端にあった箪笥の中からひょっこりと顔を覗かせる彼の姿が確認できた。


「あれ。そういえばお前いつの間にいなくなってたんだよ」

「私は戦いには向いていませんから、身の安全のために隠れていました」


 どうやら彼はずっとそこに隠れていたらしい。ちゃっかりしているというか、商人ならではの危機管理能力といったところだろうか。


「それにしても寒すぎるぜ。完全に身体が冷え切っちまった」


 とりあえずミレナの簡易的な治癒魔法で目立った傷や凍傷になりかけていた手足は癒したものの、芯から冷えてしまっている身体は自然に温まるのを待つしかないようだった。部屋自体も氷はなくなったが、まだ冷気が残っていて、僕も肌寒さを感じるほどだった。


「ごめんなさい」

「まあ死にはしないから大丈夫だろう。それよりも、助けると決まったら急がねえとな」


 かなり派手に暴れてしまったので、部屋の中はひどいことになっていたが、壁や扉は無事だったのが不幸中の幸いだった。少し外の様子なども確認してみたが、この騒ぎが気付かれている様子はない。おそらく僕たちが脱獄したこともまだ見つかっていないようだった。


「動き出す前に、一度状況を整理しよう」


 ミレナが持っていた情報も合わせて、だいぶこの城内のことがわかった。それをもとに、改めてどうやって理を助けてここから脱出するかを考える。


 この城は大きく四つのブロックに分かれている。まず僕たちがいるのが本館。正面の入り口から繋がっている部分で、僕たちが招かれた食堂、来客応対用の応接間や寝室などがあり、奥には倉庫や使用人たちの使う私室などが並んでいる。


 この部屋は来客用の寝室のうちの一室で、ミレナが私室としてあてがわれている部屋らしい。


「あえて私を来客として扱っているのよ。そういう嫌味な男なの」


 ミレナは心底不快そうにそう吐き捨てる。


 その嫌味な王はというと、本館の裏手から繋がる内廷部分で暮らしている。そこは基本的に王とその妻子たち、あとは限られた側近以外は入ることができない。

 そして、本館の左右には対称に建てられた尖塔がそびえたつ。ここは元々城の見張り台として機能する場所だが、現在は別の用途でも使われていた。


「この左側の塔に理が囚われているわ」


 塔に入るには本館から伸びる渡り廊下を通るしか方法がなかった。そのため警備がしやすく、重要な人物を捕えておくための牢屋となっていた。


「元々は私がこの右側の塔に入れられていたの。織姫と彦星よろしく、私たちを対称に配置してほくそえんでいたみたい」

「……ったく、聞けば聞くほどムカつく野郎だな」


 何より問題なのが、城を囲む高い城壁だった。


「仮に塔からオサムを救い出せたとしても、この城壁を越えて外に出ることができない」


 城壁は高さ七メートルほどで、道具を使ったとしても乗り越えるのは難しい。


「あれ、でもミレナの飛行魔法なら簡単に越えられるんじゃ……?」

「残念ながら、あれは自分が浮く程度の力しかないの。人一人の体重がかかったら、数十センチ浮くのが精々よ」


 城壁を越えないで外に出るとなると、素直に門を使うしかない。外へと繋がる門は二つで、正面にある正門と、荷物の搬入などに使われる裏手の通用門。


「正門は警備が固くてとてもじゃないけど出られないわ。一方で、通用門の方は外側に衛兵が二人いるだけ。門自体に魔法をかけて閉ざされているから、警備はかなり手薄になっているの」

「でもそれじゃ、その魔法を解かねえと門は開かないんじゃねえのか?」

「そう。だから鍵を作っておいたの」


 ミレナは白く光る鍵を差し出した。


「これは……?」

「この鍵には私の魔力が込めてある。自由が利くときに、衛兵の目を盗んで門にかけられた魔法を解析して、解除の魔法を生成したの。こういう結界魔法の類は得意だから」


 ジルヴェの脅迫に従いながらも、虎視眈々と脱出する機会を狙っていたのだった。それを誰の助けもなく、一人でこなしていたなんて、どれだけ孤独だったことだろう。


「あとは塔に侵入してオサムを連れ出すだけ。でもそれだけはどうしてもできなかった。いくらサボり癖のあるこの城の衛兵たちでも、入口が一つしかない塔の警備くらいはしっかりできるみたい」

「もう正面突破するしかねえんじゃねえのか? 衛兵って言ったって、その辺から集めてきたごろつき上がりだ。こっちは三人しかいないが、逃げるだけならそんなに分が悪い勝負にはならないだろ?」

「確かに、エトとカジがいることで、勝算はかなり増したわ。でも相手もそんなに雑魚ばかりじゃない。それなりに腕の立つ者もいるし、何より人数が多すぎる。上手く連携を取られて囲まれれば、すぐに捕まってしまう」


 その口ぶりから、すでに頭の中で何度も脱出のシミュレーションを重ねていることがよくわかった。彼女には相手の行動も含めた戦況予測が見えていた。


「だから、囮を作って相手を攪乱するしかない」


 ミレナは決定事項のように言う。


「私が囮になるわ」

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