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異世界旅行代理店  作者: 紙野七
第一章 異世界のへそで多様な文化に触れる。交易都市ウェルデン30日間の旅
25/56

1-24 拘束

「チクショウ! どうなってやがんだ!」


 激しい怒声と金属がぶつかり合う音で目を覚ます。


 頬に冷たさを感じて、自分が床に倒れていることに気付いた。体勢を起こそうとすると、手が鎖で縛られているらしく、腕が動かせずにそのままもう一度床に倒れ込む。


「これは一体……?」


 拘束された腕を上手く動かしながら、何とか上体を起こして状況を確認する。

 冷たい石の床に、窓のない壁。目の前にはわかりやすく鉄格子がはめ込まれている。


 どうやら僕たちは牢屋に閉じ込められているらしかった。


「俺たちはあの女にハメられたんだよ!」


 カジが僕のすぐ横に座り込み、吐き捨てるように言った。


 どうやらずっと牢を破ろうと鉄格子に体当たりをしていたようで、肩の辺りに血が滲み、鎖の繋がれた手首は擦り切れて真っ赤に腫れ上がっていた。


「その傷、大丈夫?」

「なんてことはねえよ」


 カジは強がっていたが、実際はかなり痛みもあるようだった。本当ならすぐに手当をしてあげたいが、あいにく荷物も装備も取り上げられてしまっていて、鎖のせいで彼の方に近づくことすらできない。


「この牢を壊して出るのは、到底無理そうですね」


 部屋の奥で、壁や床を叩いて見分しているのは、先ほど別れたはずのフェルだった。


「ああ、私が捕まったのは全くの別件ですのでお気になさらず。勝手に露店を開いていたら、怒られてしまいましてね……」

「お前は捕まる理由があるかもしれんが、俺たちは何もしてないっての」


 確かに、僕たちはミレナに連れられるがままこの城にやってきただけで、何か悪いことをした覚えはない。もちろん国王に無礼を働いたりもしていないし、そもそもまだ招かれてスープを一杯飲んだだけだ。


「そのスープに一服盛られてたみたいだな」


 あのとき出されたスープの中に眠り薬が入れられていて、そのせいで意識を失ってしまっていたようだ。


「でも何のために?」

「それはおそらく人身売買ですね」

「人身売買?」

「この国のジルヴェ国王は、人身売買の闇オークションを主催していると言われているんです。その商品は実に様々。罪人や身寄りのない子どもを奴隷として売ったり、人魚やエルフなどの希少種族をマニアに提供したり、とにかく「人」を売り買いする市場。もちろん違法ですが、そういうところにこそ資本が集まるものなのです」


 自分の国では圧政を敷き、裏では違法な人身売買で大きな金を得る。どうやらあの国王はずいぶんわかりやすく悪人のようだ。それなのに、あんなにも親しみを持った笑顔で僕たちを迎え、こうして牢に捕らえてしまうのだから、とんでもない人間なのは間違いない。


「俺たちは『旅行者』だからな。その意味を知る人間にとっては、途轍もない価値になる」


 この世界では僕たちのように異世界からやってきた『旅行者』の存在は、半ばおとぎ話的に語られている。その実在を信じている者は多くないが、ジルヴェとその取引相手はその価値を理解しているということだろう。


「俺たちは普通の人間に比べて身体能力も高けりゃ、お前は『唯能』持ちなんていう超特別枠だ。きっと大層な値段で売ってもらえることだろうよ」

「まさか、ミレナが……?」

「状況を考えれば、そういうことになるだろうな」


 ミレナは自分も『旅行者』だと語っていたし、僕たちが同類であることも見破っていた。その上で、僕たちは彼女にこの城まで連れてこられて、今こうして牢の中に閉じ込められているわけで……。


「あいつは最初から俺たちを売り飛ばすつもりだったってことだ」


 正直、信じられなかった。少なくとも、ミレナの行動に悪意は感じなかった。


「何か事情があったんじゃないかな?」

「事情があれば、人を牢屋にぶち込んで、売り払ってもいいってか?」

「いや、そういうわけでは……」


 カジは騙されたことに対して相当怒っているようだった。鎖に繋がれていなければ、今すぐにでもミレナを殴り飛ばしにいきそうな勢いだ。


「まあ、直接聞きに行くしかないのではないでしょうか?」


 興奮しているカジの両肩を抑えながら、フェルはそんなのんきなことを口にする。


「そうは言っても……」


 ミレナに会いに行くには、まずこの牢を出なければならない。しかし、手錠もかけられた状態で、どうやって脱出すれば……。


「って、あれ?」


 よく見ると、何故かフェルは両手を自由に動かしていた。そう言えば、さっきも当たり前のように両手で床や壁をぺたぺたと触っていた。手錠と鎖でほとんど身動きの取れない僕たちと違い、彼は牢の中にいるだけで、身体は完全に自由だった。


「ああ、これですか? いや、窮屈だったので外しちゃいました」


 両の掌を開いて、おちゃらけた様子でこちら向けて手を振ってきた。


「もしかして、僕たちのも取れたり……?」

「もちろん、お安い御用ですよ」


 そうして僕たちはフェルのおかげであっという間に窮地を脱してしまったのだった。

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