幕間12
――クロガネ達が美優と銀子を追い掛ける少し前のこと――
「これは?」
荒れ果てた美術館で、クロガネはリチャードから一挺のリボルバーを預かった。
千子村正と同様、元々はこの美術館で展示されていた品だろう。
戦術的優位性の無い、美しい彫刻が施された銀色のシングル・アクション・アーミーだ。
「持っていけ。対怪物用の銀の弾丸が装填されてある」
「銀の弾丸、ですか……」
ゲートを開き、撃鉄をハーフコックしてシリンダーから弾丸を一発取り出してみる。
確かに、弾頭部分は銅や鉛などではなく、純銀製だ。
「古今東西の伝承や神話において、銀には怪物を倒す力があると云われている」
「でもそれは、あくまで迷信やフィクションの話では?」
「そうだとしても、気休め程度の御守りにはなるだろう。少なくとも、普通の弾丸と同じ殺傷力はある筈だ」
そう語るリチャードの表情には、どこか苦いものが浮かんでいる。
かの邪神が、いとも簡単に『旧き印』を突破したことを引き摺っているのだろう。
銀の拳銃と弾丸の貸与は、彼なりの邪神に対する反抗心や対抗心の現れなのかもしれない。
怪物殺しの銀弾。
古典的だが、実際問題として邪神やそれに属する怪物にどの程度通用するかは未知数である。
それと問題はもう一つ。クロガネにとっては、そちらの方が重要だ。
「……仮にお借りしたとして、無傷で返すことは叶わないかもしれませんが、それでも大丈夫でしょうか?」
素人目から見ても高貴な銃だ。当然ながら美術的価値も高い。
有事の際に失くしたり壊したりして弁償を迫られたら困る。
本当に困る。
「その時はその時だ。万一にも無事だった際に返してくれれば良い」
「助かります」
本当に助かる。兎にも角にも言質は取れた。勿論、ここまでのやり取りは多機能眼鏡で録画済みだ。
と。
背後のウニモグから短いクラクションが鳴った。
美優と銀子の行方を追うのは勿論、警察の応援が到着する前にこの場を離れなければならない。
「それでは、俺はこれで」
「幸運を」
「気を付けてな」
リチャードと清水が、クロガネの背中を見送る。
取り出した銀弾をシリンダーに再装填してゲートを閉じ、シングル・アクション・アーミーの撃鉄を慎重に戻す。
クロガネは怪物殺しの切り札を手に、ウニモグに乗り込むとその場を後にした。
……警察の応援が到着したのは、それから二分後のことである。




