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【私、人間です?】

更新は不定期になります。

がなるたけ早くしようとがんばりんぐ。

ふと、気がつくと薄ぼんやりと光る空間にいた。


少し記憶を整理してみる。

・・・そうだった私は勇者に倒されこの命を終わらせたのだ。


・・・・・・・はて、いや待て、待て待て待てそれではここはどこだ?

そもそも気づく、という行為がおかしい。

私の体は焼失した訳で、その意識が覚醒するというのは何か矛盾している気がした。


とはいえ自我があり思考できていることも確かなわけで。

そこでとりあえず自分の置かれている状況の確認をする事に。



気がついた時から思っていたのがこの空間、非常に狭い空間だが視線を動かすことは何故か出来る。

見えているものは全て等しく、空、と思しき空間に赤黒い亀裂のようなものがあるが、それ以外に何かある訳では無い。


そして先程から不思議に思ったが確かに私の肉体は焼失した訳なのだが視線を動かし辺りを見ることができ、さらに微弱ながら体を動かしている感覚がある。


これは私の意志に基づき動いているのだが非常に動きづらい事を除いてはおかしな所がない。

そう、おかしな所がないのだ、指の先まで感覚があるのだ。

おかしい所がない事がそもそもおかしい、これはいったいどういう事なのだろうか。



1度失った体を元に戻した?


確かに死霊魔法に似たような術はあるがそれでもこのように自己意識を完全に再現することなど不可能だ。

いわゆる黄泉がえり、というものだが死体が綺麗にそのまま残っているならいざ知らず何も無い状態からでは無理と言わざるを得ないだろう。それに私を蘇らせる理由も浮かばぬし。


もう1度状況を確認してみる。


すると新たに気づいたことがある。

この狭い空間にドウンドウンとまるで何かが胎動するかのような音が響き渡っていた。


原因を探してみる。


しかしいくら視線を動かそうと要因になるものすらない。

と言うより上下左右の限られた空間にしか視線を回せず後ろ等は体が思う様に動かず確認すら出来ていないのだが。


とりあえず、今自分の置かれている状況を知るために例え小さな変化であろうと見逃さないよう感覚を尖らせることに集中する。


視線を回せない所を気配察知や空気の流れでもどういうものになっているのか把握しようとするが上手く感覚が働かないのか難航していた。

空間感知や魔力感知を、とも思ったがその時に自身の残存魔力が極端に低いことにも気がついた。

体があることで魔力、魔法は健在と思っていたがそれは違ったようだ。



どれ位時間が経ったのだろうか、それとも感じているほど時間は経過していないのかもしれない。

さて、どうしたものか

と、不意に頭上に吸い寄せられるような力を感じた。

まるで何かに引きずりこまれる様な感覚だ。

一体何事か、と体を動かし抵抗を試みるも満足に動かぬこの体ではろくな抵抗もできずただただ力の流れに従うのみしか出来ない。


それどころかもがけばもがくほど引き寄せられる力は私をどこかへ連れていこうと力強いものになっていく。

一体私はどうなるのか、どうなってしまったのか。

そんな、言葉にはし難い1度も味わったことのない不思議な、それでいて不快な感情が私の中に生まれていた。



突如まばゆい光が視界を覆った。

目がチカチカしていてうまく視覚から情報を習得できないがどこか広い空間へと出たのだと思う。

先程まで感じていた閉塞感がなくなった。

そして体を襲う急な浮遊感、と言うよりは誰かに担ぎあげられているような感覚。


「おぎゃ・・・おぎゃあ、おぎゃあああ」

「産まれたぞ、女の子じゃ!よく頑張ったのう」


・・・おや?

眩い光のせいで視界が安定しないが耳は問題なく作用していると思う。

その聴覚が拾った音はなんとも、言語のように聞こえそれはなんだか不可思議な物のような気がした。

そしてひどく近くに感じる子供の泣き声のようなもの。

視覚にて情報を拾えないから聴覚で拾うしか無いのだが、なんだかそれも信用ならない気がしてきた。


それにやはりと言うべきか体の感覚も鈍く感じる。

そんな時チカチカしていた視界が回復してきたのか目の前に老婆の顔があった。

何か嬉しいことでもあったのかそのしわくちゃな顔を余計しわしわにほころばせていた。


と、少し待てこの近くに感じる泣き声、それが自分自身から出ているような気がした。

それによくよく見てみると担ぎあげられている、と言うよりはこの老婆に抱き上げられていることに気が付いた。

そしてその感覚から自分の体の大きさも容易に把握できた。

と思うと自分はなんだ?おおよそ人間の子供、それも赤子ぐらいの大きさでは無いか?


いや、そういえば先程産まれたとか何とか・・・

もしかしたら先程の空間は母体の中であり、私が感じた力はどこかへ連れていこうと引きずりこんでいたのではなく、外に出そうとしていたという所だろうか。

はっ、そんな馬鹿げた事があるわけが無いだろう。

・・・いや、今まで見て感じてきた状況から肯定は出来ても否定など出来ない、か。


そうこう考えているうちに私を抱きかかえていた老婆が私をふかふかした布団のような物に寝かせる。

何とか動いて抵抗を試みるのだが、この小ささゆえか体が思うように動かない。

それに寝かされた場所に感じる自分以外の存在。

ついと視線を上げてみるとその存在が目に入る。

瞬間脳内に凄まじい衝撃が走り、思わず思考が固まってしまう。


「おい、産まれるって!?大丈夫か!?」

「なんじゃ、静かにしい!もう産まれとるわい!!」


そして突如現れた人間、そう人間だ。

なんとも見知った顔に私は驚きを隠せず思わずどうしてこうなった!と叫んでしまった。


「おぎゃぁあああ」

・・・私的には叫んだつもりだったのだが自分の耳に届くは自分が出しているであろう泣き声だけだった。


「ほれ!お主が騒ぐから泣いてもうたではないか!少しはしずかにせい!!」


「お、おおう、すいません、そ、それでこの娘が?」

「ええ、あなた、この娘が私達の子よ」


横で寝る叫び(泣き)終えた私の頭を撫でる女性と、それを嬉しそうに見る男と老婆。

私はこの事実に自分が置かれた状況を嫌でも考えてしまう。


様々な可能性、それら一つ一つを状況に沿わないと排して行った結果一つの真実が見える。

私はその結果を受け入れられず思わず意識をうしないそうになった。



「それにしても彼の魔王を倒した勇者様がそれまた同じパーティーの魔法使いと結婚してあまつさえ子供をもうけるとはのう、世も末じゃほっほっほ」


そんな逃避行動すらも許してはくれぬというのか老婆が認めたくない事を諦めろと言わんばかりに追い打ちをかけてくる。


いや、そもそも産まれてきた赤子にその魔王が宿っている。などと思っているわけもないから追い打ちもクソもないのだが。


なんてことだ、どうやら何の因果か私は勇者の子供として生まれ変わってしまったらしい。



そも、確かに人間達の間では魂とは流転し死した後も輪廻を巡り産まれ直す。

と言うのは人間の書物にあったがそれは短い生に未練を感じる人間特有の弱者的思想だと思っていたが、まさか魔族である私がこのような事実に直面することになるなどとは思いもしなかった。


それも私が見た書物には人間は生まれ変わる際はやはり同じ人間なのだと、それも自己を無くした状態である。という考えが常設であった為だ。


私は元々人間ではないし、仮に私に魂がありそれが人間へと変わったとしても自我が残っているなどと考えれるはずもない。

一体なんの力が働きこのような不思議な事が起きているというのか。

その事を考えていうちに急な睡魔が襲う。

いけない、これは抗えない。

魔族であれば基本的には人間の様に毎日眠る必要も無かったのだがそれもあってかこの睡魔に上手く抗うことも出来ずその迫り来る睡魔にとうとう私は負けてしまい、意識を手放してしまった。




「ふふ、寝顔も可愛いわね」


「ああ、この娘がどのような目でこの世界を見るか、その結果どう世の中が変わって行くか、まだ分からないが願うことならあの魔王が望んだような世界が来てくれると、

いいがなぁ」


すぅすぅと寝息を立てる生まれたばかりの赤子を優しく撫でながら父親は呟く。

最後に戦った魔王に無責任にも托された思い、正確にはただ見せられただけで自分がそうなのだろうと思うことにしただけなのだが、死者に答え合わせなどできるはずもなく。


自分なりに世を変えてみようと奮闘してはみたものの、戦うことにしか能がなかったこの男には全くと言っていいほど成果は無かった。


それが丁度三年前の出来事である。

そんな自分に何故魔王は、と何度も何度も考えを巡らせた。

その結果、今の状態では人間の魔族に対しての見る目は一つに統一されてしまっている。

幼き頃から魔族は悪であると教えられてきたからだ。



ならその様な教えを受けない子なら純粋な眼で物事を見れるのではないか、なら自分達はそれを少し手伝うだけでいいのではないのか、と。


実際それ以外にも色々あったがくだらない権力争いに利用されたりとどうでもいいことから逃げる口実には持ってこいだった。


そんなこともあり勇者としては引退し、元から好い仲だった同じパーティーの魔法使いと共に名も無き小さな村に落ち着いた。

勇者と魔法使いの間に子供が産まれたのにはそう言った経緯があった。


「そう言えば名はもう決めておるのか?」


感慨深そうに子供を眺める2人に老婆が尋ねると2人はお互いに顔を合わせ、改めて子供が産まれた喜びを実感したのか顔を綻ばせる。

元から決まっていたのか母親が子供の頭を撫でながら老婆に告げる。


「ルーダ、この娘はルーダって言うんです」

「俺が唯一してやられた好敵手から貰ってるんですけどね」


母親の答えに追随するように父親も答える。

その好敵手と言うのが彼の魔王ではあるのだが。


「ほう、果たしてそれは子供にとって重荷にはならんのかのぅ?」

「はは、かも知れません。ですがそれを決めるのもこの娘自身ですから」


魔王が次代のために、と勇者に託した思いは予想以上に勇者に正確に伝わりその思いはきちんと次代の子に継がれることになる。


しかしまさか自分がその次代の子になるなどとは予想できたはずはないだろう。

半ば無理矢理に勇者達へと託した思いのせいで自分がそれに巻き込まれていくなどとはつゆにも思うはずもなく、その元魔王は今もなお元勇者達の横で安らかにすぅすぅと心地よさそうに寝息をたてているのであった。

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