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すすり泣く母親を何度見ただろう。対して何も感じなくなった俺は立派なニートになったと実感を覚える。ニートを初めてもうすぐ5度目の春を迎えるのか。そう思うとしみじみと感じた。


「あ、マウス落とした…」


俺は毎日のモーニングルーティンであるネットの記事を読み漁って小休憩を入れていた。麦茶が入ったコップに当たってマウスを落とすことはよくある事だ。


「くそ、せめーな…」


ガサゴソっ…と未だに使用している学習机の下に潜り込んだ。意外に奥に落ちてしまったようだ…。

ホコリが溜まっていて電気もつけていなかったので、探すのに時間がかかる気がしていた。


こんな生活が始まったのはいつからだろうと、ふと思った俺は、大学3年の頃だったころを思い出していた。


「俺、Webデザイナーを目指すわ」


キャンパス内の大人気スポットであった食堂でやけに辛いことで人気があったカレーを食べながら、目の前のそいつに話しかけた。


「…はぁ?」

「いやだから、Webデザイナーになるんだって。」

「…馬鹿だろ、お前学年トップのくせにそういう所あるよな」


目の前のそいつは、小学校から大学まで同じ所に通った、いわゆる幼なじみであった。

名前は柳田竜也、俺と反対に勉強はできないがスポーツ万能な奴だ。

正直、勉強ができてもろくにモテないが、スポーツができた柳田は顔もそこそこ良かった為、モテにモテまくった。


「大体、Webデザイナーになるってどうせ動画サイトの情報に影響されただけだろ」

「…」

「専攻がコンピューターをいじくる系だから楽勝じゃんって思った系だな、きっと」

「…」

「蒼葉…。お前って本当に分かりやすいよな。頭いいのか悪いのかどっちなんだか」


柳田の言う通り、俺は某動画サイトで活躍していたWebデザイナーの動画を見て、その職業を目指し始めた。

そして、手軽に稼げると勘違いしていたのも間違いなかった。


「ってか中学時代、美術の成績低かったのお前ぐらいだったエピソード覚えて無いのか?」

「それとこれとは関係ないだろ」

「いや、Webデザイナーってそういう仕事だろうが」

「そんな事ない。中学の時一緒だった奴らに俺でもなれるんだって事証明してやるんだ」


辛さに耐性がある俺だが、ここのカレーには毎度毎度冷や汗をかいてしまう。食堂のおばちゃんはきっとドSに違いなかった。


「証明ってお前、証明してどうすんだ…何も変わらんだろうに」

「っは、いいよな。中学生時代も女の子にぎゃーぎゃー騒がれてたお前は悩みがなかったみたいで」

「んだよ、その言い方。大体、お前もモテてただろうが」

「それはお前のおこぼれに助かってただけだよ。はあ…俺がなんて呼ばれてたか知ってるか?『くっつき虫』だとよ。噂全般に弱いお前は知らなかっただろうな」


中学時代の悪い記憶を思い出してしまった俺は、その感情を今は消そうとカレーを一気にかき込んだ。


「まあ、何が言いたいかってのは。お前が何になろうとも中途半端に投げ出すんじゃねえぞ。うちの親父みたいになっちまうからな」

「へいへい、まあ見とけっていっぱしのWebデザイナーになってやるから」


そう言ったが結局、Webデザイナーにはなれなかった。


「あったあった…」


ようやく机の隅に挟まっていたマウスを見つけ、手を伸ばした。

それは、ホコリが絡まったマウスを拾い上げ、定位置に戻ろうとしていた時であった。


「ガサコソ…ガタンっ…ゴッ…」


学習机に思い切り肩が当たり、角の尖った硬い何かが落ち、頭に強い衝撃を与えた。


「…いっつぇ、んだよもう…」


床にはいくつかバラけたキーボードのキーが落ちていた。流石に5年以上酷使されたキーボードにはガタが来ていたのかもしれない。


「はあ…」


ため息をつきながら、ホコリが絡まったキーボードを拾い上げ学習机に置いた後、そのキーも一つ一つ拾い上げた。


「っざけんなよ。3つも足りねえじゃねえかよ」


隙間の空いているキーボードにキーを入れていく作業はジグソーパズルのような楽しさを感じていた為、足りない事を知った今、未完成に終わったパズルに不愉快さを感じた。

これもA型の定めなのだろうか。


「はあ。金もねぇし、どうすんだってんだよ」


ニートになってから、軽い鬱になる時がある。まさに今のような事が起きると無性に命を考えてしまうのだ。


「…ろくでもねえな。俺の人生…」


ベッドにバッと大の字で仰向けで横たわった。


「…カラッカラッ」

「…?」


何が耳の中で固形のものが転がった、渇いた音がした。

頭を振ってみると、カラッカラッと再び渇いた音が聞こえる。まるでマラカスにでもなっている気分だ。


数十分、頭を揺らし続けた俺は首の痛みとともに降るのをやめ、疲れて寝ることにした。




———A.M. 10:00———


「っくぁ…ん“ん…」


寝ぼけた猫のように腕を伸ばして、明一杯身体が伸びる感覚を楽しんだ。

目を擦りさあルーティンの始まりだ、という時に違和感に気がついた。


目の前にはこのように書かれていた。


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Time elapsed : 26/04/02/10:00

Miss : 20


Button : Ctrl + Z


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