第一話 「入学早々、ヤバいです!」
それは朝から始まった
ジリリリリ!…ジリリリリ!…ジリリ
「ぬわ〜!起きたよう!!」
バシッ
けたたましく鳴り響いてた目覚まし時計の上にあるボタンを手のひらで豪快に叩く
シン…と束の間の静寂が訪れる
が
ジリリリリ!…ジリリ
アラームが解除されたわけではないので起床の催促音が
「にゅわ〜!!うるしゃいってぇ〜…」
バシッ
…明らか寝ぼけている様子でボタンを押す
彼女の部屋にぶら下がっている制服は真新しく、春の陽光を浴びて尚一層始まりの予感を思わせる
部屋の窓から同じ制服姿の子達が誇らしげに、あるいは照れながら、また他には楽しげに歩いている姿が見える
その中に割烹着を着た女性が彼女の家の前で桜の花びらを集め掃き清めては彼らに入学式おめでとう、雨あがってよかったねと声をかけている
ジリリ
「も…ぅ…!うるっさい!!」
バァン!
仏の顔も三度まで…なのだろうか。
部屋の主は先ほどよりもボタンを強めに叩いた
カチ
そしてやっと学んだのか、アラームを切った
寝起きの悪い部屋の主人のために五分おきにアラームを健気に鳴らしていた目覚まし時計はタイムカードを入れてしまったらしい…
「あんた!!いつまで寝てんの!?
もう、8時になるでしょ!?
今日、入学式だからいつもよりも早いんじゃないの!?」
ガバッ
母親の声に飛び起き、背筋に汗が一筋
ギギギ…と音がしそうな動きで目覚まし時計を見る
「…なーんだ、7時45分じゃん!
これなら間に合うよ!」
「何が間に合うなの!?すぐに支度しなさい!!!」
母親の怒鳴り声をよそにいそいそとかけてあった制服に着替える
…と思いきや、彼女はパジャマを脱ぐと既に制服を着ていたのだった
(ふっふーん
こうしたら時間かかんないもんね〜だ)
衛生面や匂いが気になるところだが、全く気にしていないらしい
シュッ
…ファブリーズをかけていたのでどうやら全くではなさそうだ
トントン…と小気味よくなるリズムで階段を降りてきた彼女に母親はズイッとご飯をよそった茶碗を押し付ける
「ほら!さっさと朝ごはん食べる!
あんたの年頃に食べないとかは」
「向こうで食べる用のパン、昨日買っておいたから大丈夫!行ってきまーす!」
「ちょっと!!待ちな」
バタン
遮るようにドアを閉めて桜並木の中、一人走りだす
「…全く、もう高校生だっていうのに…。」
学校は葡萄畑に囲まれた坂道の上にある
駐車場は教師専用の分しかない小さな学校だった
畑が元々あったところに学校を建てたらしく、そのせいか畑の合間を通るように道はグネグネ更に斜面は急で生徒からしたら溜まったもんじゃない
その坂道は徒歩では30分かかり、車では5〜10分かかる
登下校に片道一時間かかる生徒からはこっそりと『0時間目と7時間目の体育』と名付けられているらしい
(…今で、7時59分…そして教室到着には8時15分)
桜にかわり湿っぽくも生暖かそうな葡萄畑がご挨拶してくる時に彼女は時計を確認する
(まだ、間に合う…!)
思わずニヤッと笑って葡萄畑に侵入する
普段、生徒が登下校に使う道は綺麗に舗装された道路であり、葡萄畑は汚れやすいのだが
(そんなこともあろうかと!ちゃんと運動靴持ってきてるんだよーん!)
ザッザカ遠慮なく走っていく
特別な警備はなくてきとうに巻かれたビニールが腰のところまでしか周囲を覆っていないため簡単に侵入できてしまう
入学する前の下見でどれくらいの速さで着くかなど計算していたため彼女は確信していた
間に合う、と。
しかし、予想外のことがあった
ズルッ
「!?」
ベチャ
「え?…ぅうぁあ!さいっあく!」
昨日雨が降っていたため、土は泥になっていたのだった
そして足を滑らせた拍子で大きくすっ転んでしまったのだ
よくよく見ると登ろうとした段差には大きな水溜りが点々と続いていた
「もうやだ〜
…ん?」
しかし、彼女には
(何か…聞こえる…?)
もう一つ予想外のことが起こった
……ゥォォォオオン、ブォォオン
(!これってもしかしてバイク!?)
咄嗟に道路の方へ顔を向ける
耳をすますとそちらから音が近ずいている気がした
「ちょ、ちょっとー!乗せて乗せてー!」
服に汚れがつき遅刻しているという汚名を被りたくなかった彼女は咄嗟に大声を張り上げていた
「え!?」
「お願いしまーす!乗せてくださーい!!」
(葡萄畑に入ったのはダメだけど、謝って済む問題だし…先生に乗せて行ってもらお)
「えへへ、葡萄畑からこんにちは〜
ごめんなさい、ちょっと後ろに乗せてくれま……。」
「あ、えと……。」
バイクに乗っていたのは自分と同じ女子生徒だった。
「あ〜…うん。」
「あ!その違うんだ!これには訳が!!」
(背に腹はかえられぬ!)
「大丈夫、黙っててあげるから乗せて」
(チクられるのが嫌なのも遅刻するのが嫌なのも分かってるから)
「あぁ…うん。」
困惑しながらも女子生徒は手慣れた手つきでバイクを操縦する
「ありがと
ねね、あなたも一年生?」
「う、うん
今年で高一、[も]ってことはあなたも?」
「そうなの、今から授業についてけるか心配だよ〜…。」
「はは、そうだね
高校生になってから勉強難しくなるっていうしね」
ブォン、オオォオォオォオォオオォォン
バイクが唸りをあげ、二人をグイグイと斜面の上へ上へと押しあげる
「ま、その前に起床時間がみんなについていけてないんだけどね〜」
「あはは、私もそうだね
…あ、それと
これ、使いなよ」
「?私喉乾いてないわよ」
渡されたのは飲みかけの天然水だ
「君のスカート泥だらけだよ、今のうちに落としとかないと入学式で恥かくよ」
「あ、ありがとう…じゃあ、このお水ありがたく頂くね」
「あ、後ハンカチも必要だよね
すぐに乾かないし」
「い、いや!流石にハンカチは持ってるから!」
「あ、そっかそっか」
「でもありがとね
なにもかも」
感謝しつつ水で泥を流していく
「いいっていいって」
周りが少し黒くなったコンクリートの上に茶色がポトポト落ちていく
「このバイクのこと黙ってくれるんだろ?
それに同じ遅刻してる仲間だし
…あれ、そういやさ
君、なんで葡萄畑いたの?」
ギクッ
「あそこ、入っちゃダメって言われてるよね
今はまだ収穫シーズンじゃないし…。」
「あ、あはは
ちょっと様子見てきてって先生に言われて」
「入学式に、初めての、生徒に?
しかも遅刻しそうだし」
「え、えっと……。
…。」
だっだっだとバイクの声だけがきこえる
バイクの方が小回りが利くため車よりも早く着く
つまりものの数分で着くはずなのにとんでもなく長い時間を過ごした気がした
「…そろそろ学校着くよ
泥、洗い落としたら返してね
私の朝飯だから」
「あ、えっと、うん…。」
そう言って女子生徒はエンジンを止め、葡萄畑の近くにバイクを停め、レジャーシートを上にかぶせて留めた
「あ、はい、どうぞ…。」
ありがと、と素っ気なく言い放ちサッサと校門を抜けて行った
というわけでここまで見ていただいてありがとうございました!!
今後の糧にさせていただきたいのでもしよろしければ評価やコメントお願いいたします
辛口評価待ってます




