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第一話 狂戦姫

<序章>


 聖歴932年。

長きに渡る魔界の軍団との戦いも終結し、冷戦状態になった人間界。人々はやっと訪れた平和を満喫していた。しかし野に放たれた魔王軍の残党…ザコどもは繁殖し、密かに逆襲の機会をうかがっていたのである。

魔王から勝利を勝ち取った伝説の女王が没して百年余。平和ボケした王族は魔賊の一党についに捕らえ、幽閉されてしまった。


ひとり逃げ延びた王女フロリーナ。気高く勇敢で美しい姫君は、王国の再興と民衆の平和を守るため、女王が封印した禁断の魔鎧まがいをまとい諸国を守る旅に出るのであった…。



<本章>


1.


 質素だが品の良いドレスをまとい、少女は荒野に立った。馬車がようやく通れる程度の道をそれでもドレスで闊歩する。17〜18歳くらいだろうか。白く艶やかな肌,豪奢な金髪は腰まで伸びている。何より人形のように美しく整った顔立ちに青い瞳は意志の強さに輝いていた。


「ふう、ようやくですわ。じい、用意はよくて?」

涼やかで優美な声が吹きすさぶ風に抗うように響く。

「もちろんでございますとも、姫。」

一抱えの荷物を軽々と抱え、執事然とした老人、ギャリソンは答えた。70歳は越えていようか、しかしその立ち振る舞いに老いは見えない。少女は優雅にうなずくと、今度は埃を払いながら怒声をあげた。

「何をもたもたしているのです、下郎!」

遅れて素っ頓狂な声が届く。

「へ、へ〜い。今いきまーす」

よたよたと小山が動いてきた。よく見ればそれは巨大な鞄。ただし運んでいるのは痩せぎすの男ひとり、である。

「いやあ、姫のお手伝いが出来るなんて、らっきーですよぉ、ぜぇぜぇ」

脂汗を浮かべながら、荷物運びの従者ラッキーはにやにや笑っていた。

「きゃははは、ラッキー、へんな顔ー♪」

ちょこんと、後からやって来たのは魔法使いの衣装をした黒髪の女の子だ。いたずらぽいエメラルド色の瞳。

「るせーなマリア。○○○ぞコラ」

マリアに続いてシスター姿の少女、ルーシーが現れた。おっとりした口調、仕草。とび色の瞳に朗らかな笑顔。

「姫さま〜、ラッキーがぁ、へんな言葉つかってます〜」


ドゴン!

言うより早く王女のドレスから強烈な回し蹴りがラッキーの鳩尾にヒットする。

「ぐぉぼ! …が、は、失礼しましたあ」

しかしながら彼は思った。

(…すらりとした美脚が見えてらっきぃ〜♪)


2.


 目の前の荒野を見てルーシーがつぶやく。

「この辺りもぉ、前は豊かな緑に覆われたぁ、サピオという村だったのです〜」

祈りを捧げる少女に、姫もまた嘆く。

「それも王家であるわたくしの至らぬせいですわ…」

「いやいや、御自分を責めてはなりません。いつも身を挺して戦っておられるのは姫だけではありませぬか。」

ギャリソンの言葉に寂しげに微笑むフロリーナ。もう少し役に立っても、とは言えはしない。すると、

「ギヒヒヒ、オレ様は役に立つぜ?」

ラッキーの背負う大きなカバンがゴトゴト揺れ、中からドラ猫がうなるような声がした。

「おだまりなさい! 汚らわしい鎧のくせに。ああ、何で貴方なんかを着て戦わなければならないんでしょう? 思い出すだに蒸し暑いですわ獣くさいですわっ!」

姫の罵倒にも『鎧』と呼ばれたカバンの中身は動じない。

「そう嫌うなよ、オレ様とあんたは運命共同体じゃねえか。ギヒャヒャヒャ!」

ぷいと顔を背け、フロリーナはずかずか歩き出した。

 一行はいつものこととついて行った。


 しばらくすると土煙が遠方に上がっているのが見えてきた。

「? 何か〜、邪悪な気配がします〜」

まっ先に気付いたのは小さくとも聖職者、ルーシーである。褐色の霧の中から、ぶひぶひと声がする。現れたのは、凶悪な豚の頭にでっぷりとした巨躯を持つ、三流魔族のオークであった。しかしその数は何十人いるか定かではない。

「ややや、オークの大群だ、らっき〜〜っ! フロリーナ姫っ、い、今すぐ鎧にお着替えを! お召し物はお、オイラが脱がし…」

ガスっ!

見事なエルボーがラッキーの顔の中心に入る。打ち付けた板金が逆に凹むように彼の顔は愉快になった。

「姫〜、ヒールの魔法、この下僕に使っていいですか〜?」

「たぶん、死んじゃうよー、きゃははは」

ルーシーはのんびりと、マリアは楽しげに聞く。これで彼女たちの魔法は当分使えない。幼い彼女達はまだ癒しの力も攻撃魔法もまとも使えないのだ。

「姫様! じいはここにおりますぞ。闘う破廉恥なお姿は見ておりませんぞ〜」

ギャリソンはてきぱきと持ち場につく…というか隠れていた。塹壕がいつの間にか掘られている。

「ギヒャヒャヒャー! いい仲間を持ってんな? お着替えだぜぇ姫さんよ、はよ脱げや。」

巨大なカバンから下卑た声が聞こえる。ぴく、ぴく。細面の高貴な顔に極太の血管が浮き出している。

「…あ、あなたたち…グス…い、行きましてよ。オークどもを殲滅いたしますわ!」


 こうして彼女の行き場の無い怒りは戦場へと向けられるのであった。しかーし、勇ましいお姫さまの本当の受難はこれからである。オークどもとの戦いとは別の悲劇が待ち構えているのだ。


3.


 そう、人語を解す魔鎧(まがい)には名前に恥じることなく、呪いがかかっていたのだ。王族のフロリーナでなければ着けることも出来ない、しかし着けることで起こる、避けることのかなわぬ悲劇。

ズン、ズズン。

重い足音が響く。狂戦姫(きょうせんき)が叫ぶ。

「覚悟なさい、醜いオーク。正義の鉄槌をお受けなさい!」

銀に鈍く光る重厚な鎧。胸の場所には醜悪な悪鬼の顔がある。

「ぶひ?」

「だれだあ?」

突然現れた重騎士に、面喰らった魔族だが、背丈と声で中身が少女と察しがつくや否や。

「ぶひゃひゃ? ナニ言ってんだ、いいからこの小娘、喰っちまいな」

「ぶひ〜!」

醜悪な顔をねじ曲げボスらしき人豚が叫ぶ。ブヒブヒと子分たちが迫る。雪崩のような棍棒の攻撃を、分厚い鎧を着けているとは思えない俊敏さと跳躍で狂戦姫はかわす。


ブン!

「ぶぎゃあ!」

子供ひとりが隠れそうな斧を軽々とふるい、オークたちはまな板の鯉ならぬ豚になっていく。吹き上がる血の匂い、阿鼻叫喚…


「また使っちゃったね、鎧」

「うん、姫さまぁ、また泣いちゃいますね〜」


 ルーシーとマリアはささやきあった。


4.


<『美しき青きドナウ』のBGMで>


すぱーん

すぱーん

すっぱぱーん♪

「ぶひ」「ぶひ」「ぶひぶひー!」


重厚で無骨な鎧が優雅に舞う。なます切りにされたオークだったものの山が作られる。

「ほーっほほほーっ 無様な死に顔をさらしなさいっ! 生まれたことを後悔なさい! どす黒い血がお似合いよっ! ほほほほほほほほほほ…」


シュバッ!

華麗に回転を決めると、斧の上には豚顔と豚足が中華料理の大皿よろしくちょこんと並んだ。死の輪舞が続く。たまらず2匹が顔を見合わせ、ボスに助けを乞い逃げ惑う。

「ぶひゃ〜、親ブーん、あの娘ムチャクチャ強いブー」

「化け物だブ〜〜」

「オレたちより太いブ…」

シュラババッ!

言い終わらないうちに2匹はチャーシューと成り果てた。

「おだまんなさいっ、外道!」

兜の隙間から青い瞳がぎらん、と光った。

「ぎひひひ、やるなぁ姫さん」

甲冑の悪魔の顔もまた残忍に笑った。


「おお、見事な斧さばき、さすがでございますな姫。じいは嬉しゅうございますぞ」

ギャリソンが遠眼鏡で見物している。いつの間にか紅茶も入っている。

「どこどこどこ!? フロリーナ姫! あああっっ、もう鎧着てるよ! ちくしょ〜!!」

目が醒めたカバン持ちのラッキーが目を皿のようにしながら地団駄を踏んでいる。


(BGM、『くるみ割り人形』に)


大斧が豪快に、かつ楽しげに回転する。

「ただ今ぁ、姫さまのバーサーカー(狂戦士)モードが発動中です〜」

「はーい下がって下がって♪」

聖女のルーシーと魔女のマリアが仲良く告知する。…観客はいないが。


5.


 大回転! 大斧を持つ凶悪な風車がオークの群れに突き進む。

「ぶげげげげげげげげげげげげげっぶぶぶげげげげげげげげげ」

回転が止まった。逃げ損ねたオークの残党は、命乞いをする間もなく綺麗なミンチになった。       

「はあ、はあ、はあ、ざ、ざまぁ見ろですわ。はー。」

戦い済んで。戦姫の兜の中の瞳に穏やかな光が戻ってきた。

「―――は、わ、わたくしとしたことが野卑な言葉を。ああっ、殺戮の快楽に一時でも身を委ねてしまうなんて。王家の恥さらしですわ! そのうえ…」

真っ赤になって目に涙を浮かべている。

「ルーシー、清めの聖水を…あら?」

その時、オークの残骸の陰に動くものがあった。

「ズタ袋ですね〜。ちょうどちっちゃな子供が入れるくらいの〜」

「―――! ラッキー、すぐにお開けなさいっ、ルーシー、治癒魔法使えて? マリア、気付けの焼きイモリは残ってますの?」


 はたしてフロリーナの推察通り、袋には息も絶え絶えの幼い赤毛の男の子が縛られたまま放り込まれていた。神妙な顔でラッキーも覗き込む。

「姫、こいつぁ〜女の子じゃねえですね。助けても無駄…」

どっす。

「ごほ!」

ラッキーのボディに重い一発が入る。

「食料としてさらわれてきたか、そんなところでしょうな」

老執事のギャリソンが少年を助け出す。

「ええ、じい、着替えの用意をお願い。早くこのケダモノの鎧を引き剥がして」

兜を外しながら、ラッキーにレバー打ちをしながら言う。

「ゲフゲフ、あ・鎧はおいらが脱がし…」

げしっ。

さらにアッパーカットが追加された。


「気がつきまして?」

「あ…ぼく、ブタのお化けに食べられたんじゃない…の?」

朦朧としながら、あどけない顔で少年がフロリーナに尋ねる。

「大丈夫、あなたをさらった悪いオークはわたくしたちが倒しましたわ。」

ドレス姿に戻ったフロリーナはやさしく答えた。

「ねね、どこから来たの? この先の村?」

マリアの問いに、少年は急速に覚醒した。

「! たいへんだ、にいちゃんがさらわれた! 村のみんなも!」


 少年はウィルと名のった。田舎村に兄のマシューとふたり暮らしていたが、突然襲ってきたオークの集団に村は襲われたという。抵抗するものは殺され、逃がしてくれた兄は代わりに彼等の寝ぐらに連れていかれたのだと。

「この山の向こうに、もっと大きくて強いオークがいるんだ。おねえちゃん、お願い! にいちゃんと村のみんなを助けて!」

黒い瞳に涙をため、少年は懇願した。

「どーするー? 姫さんよ」

鞄から発せられる魔鎧の問いに、

「もちろん救い出しに行きますわ。それがわたくしの使命ですから!」

迷いもなく、彼女は毅然と答えた。


6.


 暗雲立ちこめる中、無気味な山の頂上近くに一行はやって来た。

「先のウィルぼっちゃんをお助けした時に、おおかたのオークを退治したのが幸いでしたな」

ギャリソンがのんきに言った。

「でもでもー、あの魔法を使うオジサンをやっつけたのはワタシと、ナベシマだよ。」

マリアが何時の間にか現れた黒猫をだっこしながら言った。

「そうね、偉かったわ、マリア、使い魔さん」

「うにゃあ」

既に第2ラウンドは始まっていたらしい。会話によれば、魔物だけではなく、大人の魔法使いとも対峙したようだ。

(…一体どうやって? それはまた別の機会に…)


魔鎧を既に着込んだフロリーナは供の功績を讃えた。ラッキーだけは相変わらず着替えを覗こうとしたため、顔が奇妙に歪んでいる。

「癒しの術は、おあずけですよ〜」

ルーシーの言葉も、彼の脳の中枢まで届いてはいないかもしれない。


 その時。

「ぶぅひぃいいいいいいいいぃぃぃぃ…」

雷鳴のような雄叫びが空気を震わせた。

「! 来ましたわ。みなさん、お下がりなさい」

地響きをあげ、山の洞窟から身の丈は3mはあろうか。黒い鎧をまとった醜悪なオークがフロリーナたちの前に現れた。オークの中のオーク、オークの王、ロード=オブ=オークである。

「ぶふううぅ」

ごおっ!

もともとがオークである以上、頭の中身は知れたものである。とは言え体格に合った豪腕から繰り出される鋼の棍棒の攻撃は想像以上のものだった。

ガキィ!

単調だが重い一撃が容赦なく姫を襲う。

「ぶっほっほっほっほ〜」

「くっ、やりますわね。」

さしもの戦姫も防戦一方になった。起死回生に鎧を着けているとは到底思えぬハイキックを繰り出した…時。


「にいちゃーんっ」

幼い声がする。よろよろと山を登ってきたのは、赤毛の少年ウィルだった。兄を助けようと一行を追って来たのである。そして、姫を見とめると。

「?」

フロリーナの姿をじっと見つめ、つぶやいた。

「…おねえちゃん、なんで『はだか』なの?」


7.


「いっ」

ぴた、とフロリーナの脚が止まり、ゆっくりと降りていく。無骨な甲冑はわなわなと振るえ、胸を押さえてうずくまった。

「い…いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

フロリーナはただの泣きじゃくる少女になった。

動くことが出来ない戦乙女。けれどもオークの王の追撃はやまない。鎧の上からとは言え執拗な攻撃が繰り返された。

ドカッ、バキイッ!

「姫さま〜!!」「しっかり〜」

マリアたちの声も届かないかのように、戦意喪失した彼女は、大オークのされるがままになっていた。

ゴン!

強烈なスイングに兜が飛び、素顔が表れた。無論、鎧は”着けたまま”である。

「が…は…」

朦朧としたまま、彼女はぼんやりと少年を見た。少年の真摯な瞳が映る。その目はフロリーナの”裸体”を映している。だがそれ以上に『愛する者を救いたい』とだけ叫んでいる。

「…!!」


ぶち、

ぶち、

ぶちいっ!


何かが彼女の中で切れた。

「うぉおおおおおおおーっ」

姫が吼えた。仁王立ちになり、大斧を構えなおす。


<BGM:『ワルキューレの行進』へ>


 反撃が始まった。

「ぬああっ、貴様たちさえいなければ! 呪われた魔鎧なんか着ないで済んだのよっ!」

斬撃、斬撃、斬撃! 優雅さなど微塵もない、息をもつげぬ攻撃。


 そんな風景を、ラッキー達は遠巻きに眺めていた。

「あ〜あ、いま、姫様はあのガキんちょにだけすっぽんぽんに見えるんだよなあ」

ラッキーがぼやく。

「そう、あの魔鎧の『心の正しい者には見えない』呪い。そのせいで、いわば”裸の王女様”なわけですからな。それでも健気に戦う姫様のなんといじらしいことか」

ギャリソンがしれっと言う。

「ぐぐぐ、なんでオイラには見えねえんだよう!? 神様ぁ〜、こんなに頑張ってんだから姫のヌード、オイラにだって見せてくれよう!!」

血の涙だ。よほど見たいのだろうがその考えが矛盾していることに気づいていない。


「ぶひいっ!?」

突然の猛攻に後ずさりするオーク王。

ドカ! ドガ! ドガッ!

狂戦姫は鬼神の如き形相で短剣も抜き、十字に組んだ。

「隣国の王子様との婚約も決まってましてよ! 鎧を着けて魔物からお助けしたら、二度と会いたくないと言われましたわ! 会う殿方、皆に露出狂と罵られましたわ! うわーんっ!」

子供泣きで両手を振り回し攻め立てる。

「ぶぶぶぶぶ、ぶひゃーーーーーー!」

豚の王は見事に吹っトンだ。魔鎧の胸にある口が開き、瘴気をはき始めた。

「ぎひひひひ、やるぞ! フロリーナ姫!」

「よろしくてよ! でえいっ!」

鎧が大きく息を吸い込む。吐き出した瘴気の風に剣と斧で火花を散らせると、それは業火となってほどよく叩かれたまるまる一匹の豚を襲った。

ぐおっ!

「ぶっきゃ――――っ…」

ごおおおお…ぱち、ぱち。

炎と煙がひき、不謹慎極まりないくらい、香ばしい匂いが漂ってくる。その中でえぐえぐと嗚咽をもらす少女がひとり、佇んでいた。


「姫さま、かわいそう〜」

「かわいそうだね。ショボン」

小さなシスターと魔女は清めの水とケープを手に駆け寄っていった…。


8.


 奇跡的に村びとたちは無事であった。騒ぎも収まり、全員が家に戻って。

翌朝。旅立ちの準備をする一行に、赤毛の少年が駆け寄って来た。ウィルの兄のマシューである。

「本当に、なんてお礼を言っていいか…」

ウィルもやって来た。

「お姉ちゃんたち、もう、行っちゃうの?」

おずおずと、ウィルはフロリーナに聞いた。

「ええ。この村にはもう魔物はいないし、わたくし、あんな姿を見せてしまいましたもの。…おかしかった、でしょう?」

憔悴した笑顔で答えるフロリーナ。

「どうせ金も出ねぇし…ごぶ!」

都合四箇所から拳と蹴りがラッキーを襲う。当分癒しの魔法はなさそうだ。

「ううん」

ウィルは言った。

「ちがうよ、お姉ちゃん、きれいだった! つよくて、わるいやつをやっつけて、金の髪がひらひらして、天使さまみたいだったよ!!」

偽りのない、澄んだ瞳。

「・・・・・!」

フロリーナはウィルを優しく、やさしく抱きしめた。

「ありがとう。でもやはり行かなくてはならないわ。あなたみたいに困っている子がいるかもしれないの」

少年もしぶしぶうなずいた。

「うん、しょうがないね。ガンバってね!」


<終章>


「では、まいりますぞ、姫」

「ばいばーい、きゃははは」

「さよ〜なら〜」

カバンの中からも鼻歌が聞こえる。

手を振るウィル。歩みだす一行に、マシューは叫んだ。

「あ、あの! せめてお名前を! 天使様!」

「あー、これだから下々の者は。いいか坊主こちらにおわすはフロリ…」

マリアとルーシーがラッキーにズタ袋を被せた。

「わたくし、天使ではありませんわ。一介の賞金稼ぎ、『バーサーカープリンセス』、とでもお呼びになって。」

 ごきげんよう、と優雅に微笑み、一行はまた荒野へと、消えていった。



                                ・・・おしまい。

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