風人と悪神
「……ソレを見るのは…二度目か……」
「……………」
風立我生、俺に付与されている魔法?の名前だ。風立ち、我、生きる。どういう意味だ?……まぁ…今はそんな事考えている暇は無い。
「………魔法は使えない筈…!?」
「……アレは魔法であって…魔法じゃない………僕も分からないけど……魔法よりも奥深い………異質の業だ…」
俺は思い切り悪神に斬りかかった、だが、悪神は俺の斬撃を素早く避けた。すると俺の斬撃は少し遠くにある柱を切り裂いた。
「………凄いね…ミノル君…」
「……エラトマ様!」
背後から向かってきた眷属の動きが、スローモーションに見えた。最初は見えなかったのに。
「…遅ぇ……」
「……ッ!?」
俺はゆっくりと向かってくる鎧の眷属を蹴り飛ばし、メイド服の眷属を思い切りぶん殴った。すると二人の眷属は凄い勢いで壁にぶつかった。
「………素晴らしい…!」
「……次はテメェの番だ……早く来い」
「もう来てるよ?」
背後から声が聞こえた、悪神は既に俺の背後へ迫っていたのだ。
「…分かってるよ」
「……!」
俺はそのまま回転斬りをした、すると、突風と共に俺の刃は、半径10mを切り裂く半透明な刃と化した。悪神は飛び上がって避けた。
「…風が……」
刀には、半透明な嵐が渦巻いていた。これが半径10mを切り裂く刃になっていたのか?
「……これは…僕も…少し本気になるしかないネー…」
「………………」
悪神は俺の前へ着地して、地面を掴んだ。すると城全体が揺れ始め、悪神の身体を城の破片が包み込み始めた。
「……最終形態ってヤツか?」
そして揺れが収まり、悪神を包み込んでいた破片はボロボロと落ちた。
「レディィィスアァァェェンジェントルメェェンッ!!」
俺の目の前に立っていたのは禍々しい姿の、まるで悪魔、魔人、邪悪な者を形容するような姿の悪神だった。
「……いちいちうるさい奴だな」
「…君のその…生意気な口を……裂いてあげるよ…!」
「……裂かれたら…口裂け男として都市伝説で語られちまうな…!」
その瞬間、悪神は目の前から消えた。だが俺は至って冷静だった。
「………人の背中を見るのがお好きかな?…悪神…!」
俺が背後に刀を振ったが、そこには誰もいなかった。
「こっちだよ!」
「ッ!」
上空から悪神が、俺に向かって拳の嵐を巻き起こした。なんという威力だ、この魔法が無かったらミンチだったな。
「……おお!…生きてる!」
「フンッ……身体中が痒いが…千匹の蚊にでも刺されたかな…?」
とか言ってみるが、結構ダメージは大きい。これ以上喰らうのはヤバイな。
「大口なんか叩きなさんな…結構ダメージ入ってるでしょ…?」
すると悪神は溜息をついて、俺の方を嘲笑うかのような顔で見た。
「………君は強くないね……アレに目覚めたのは驚いたけど………ざぁぁんねぇぇん……」
「ほざいてろ」
「じゃあ…僕たちでこの戦いにカタをつけちゃおう…!……長引いてる戦い程…つまらないものはない…」
そう言って悪神の身体を先程の城の欠片が再び包み込んだ。
「まだ形態があんのか……ファンタジーゲームのラスボスかよ…」
城の欠片は龍のような姿を創り出し、咆哮した。
「……神殺し…龍殺し……俺は何を殺そうとしてんだ?」
その瞬間に龍が俺を掴んできた。クソ、力が強い、引き剥がせん。俺がもたついていると龍は俺を投げ飛ばした、俺は城の屋根の部分に叩きつけられ、一瞬呼吸ができなかった。
「…ッ……クソ…」
起き上がり刀を構えた、斬ってやるぜ。しかし龍の攻撃は無慈悲に、そして無情に繰り出された。俺は必死に構えて防御するが、身体には一つ、また一つと傷が増えてきている。
「……死ぬかもな…」
ここまで来てこんなチートモンスターと戦う事になるとはな。だが、俺には【風立我生】が、帰りを待つ人が、救わなければならない人がいる!
「うぉぉらぁぁああああ!!」
俺は必死に、がむしゃらに、一心不乱に、死に物狂いに、龍の攻撃をガードし続け、スキがあれば攻撃した。もう喋ることはできず、獣のような声しか出せなくなっていた。
『……声も出せず…意識もトびそうだ……』
ここで俺が生き延びて、悪神を斬らなければ駄目だ、人々の為に、生き延びなければ!
『…!』
龍が口に、何か光のようなものを溜めている、それでカタをつけるつもりか。
『上等…』
俺は龍に向かって走っていった、この感じ、アレだ。今まではできなかったアレができそうな予感がする!
「うぉぉぁぁぁ!!」
俺が地面を蹴り、飛び上がった刹那、龍の口から光線が放たれ、俺に命中した。すると、俺の身体は崩壊を始めていた。




