死を超えて
「ミノル…!……馬鹿な真似はやめろ!!」
桜郎はミノルを必死で止めていたが、ミノルは無視して階段を登っていった。
「……ミノ…ル…」
「…離せ」
「………ミノル!…お主をこんな場所で死なせはせぬぞ…!」
そしてミノルと、ミノルの服を掴む桜郎は悪神の待つ最上階へと到着した。
「…あれ?……あの子はどうしたの?」
「…………ッ……」
「お前……知ってて聞いてんならぶっ殺すぞ」
ミノルは、笑みを浮かべながら尋ねてくる悪神を睨み、桜郎を振り解くと小走りで近付いた。
「……ッ…!」
すると、ミノルの目の前に眷属が立ち塞がった。しかしミノルは眉一つ動かさずに、魔札を刀に貼り付けた。その瞬間、刀に炎が宿った。
「…オラァ!!」
そしてミノルは、眷属に向かって水平に斬りかかった、眷属は炎の斬撃を後ろへ下り避けた。
『……剣と盾…そして……もう一人は…鞭か…?』
ミノルは自身でも驚く程、冷静に眷属を分析した。一人は女で、メイド服を着ており、ギザギザ刃の剣を持っている。
もう一人も女だが、先程とは違い鎧を着おり、女では振る事のできない程、重そうな剣と盾を持っていた。
『…よし……行くか…』
眷属を分析し、ミノルは如何に眷属の守りを抜け、悪神の胸元の心臓に刃を突き刺すか。答えを導き出した。
「……ハニー達…その童貞を殺しチャイナ!」
「…はい」
二人の眷属は、ミノルへ向かって走ってきた。そして繰り出してきたその斬撃は、目視出来ず達人でも回避の難しい攻撃だった。
「…………ミノルッ…!」
その速度は0.01秒、狙いは正確に喉元を狙っていた。たとえその斬撃が見えなくとも悪神と桜郎は、直感的にミノルの死が確実なものだと思った。
「………………一つ言おう……童貞舐めんなよ?」
眷属の刃は、虚空を切り裂いていた。そしてその背後には、ミノルが立っていた。その場にいた者全員がその事実を認める事が出来なかった。
「ミノル……やめろ…」
「……悪神…」
「ミノル……君は…」
その時、悪神は理解した。何故ミノルに眷属の刃が届かなかったかを。分析、ミノルが分析していたものは眷属の装備などの情報だけではない。
どの方向から来るか、如何に攻撃してくるか。そして攻撃してきた場合、如何に防御するか、如何に回避するか、如何に行動するか。
たった一つの情報を元に、どうすれば回避、そしてそのまま悪神を斬れるか。憶測に憶測を重ね、やがて推測となり、更に推測と推測を重ね、辿り着いた回避する方法、それを実行しただけだった。
その方法の通りに行動し、刃が見えなくとも回避する事ができた。極限状態で、走馬灯すら見えかけ、自ら死に近付こうとするミノルの持つその頭脳は、神殺しの方法の答えを考えるという行為を、0.0001秒で求めたのだ。
悪神はミノルが何故、眷属の攻撃を回避し、自らの目の前まで来れたかを理解した、しかしそれは遅すぎた。
「御仕舞いだ」
「………止めろぉぉ!!」
「……【双殺】…!!」
ミノルが刀を悪神の胸に突き刺した、そして更に深く、更に深く突き刺した。悪神とミノルの目から光が消えてきている。
「ミノル!!」
「エラトマ様!!」
桜郎と眷属が同時に、目から光を失い、呆然と立ち尽くす二人に近付いた。
「……そん…な…………死んでいる…」
「エラトマ様!…エラトマ様!!」
眷属が悪神の肩を揺さぶると、悪神は膝をついて倒れた。ミノルも同様、刀を握ったまま倒れた。
「……………死して尚…握り続けている…」
桜郎がミノルの胸で涙を流した。その涙は太陽に照らされ、黄金の粒となっていた。眷属は悪神よ亡骸を抱き、慟哭した。
「…世界を滅ぼそうとする神も……対抗する人間も………居なくなってしまった………なぁ…ミノル……」
「………………………………………………………………………人間は…まだいるぜ…………」
「……ッ!!」
ミノルの目に光が溢れ始め、肌は明るくなり、艶が出てきた、桜郎はそれを見て絶句する。
「……………ドッキリ大成功…てか…?」
「…ミノル……ッ…」
「馬鹿な……ッ…」
桜郎は大粒の涙を流しながら、ミノルを抱擁した。
「……すまない…驚かせちまって…」
「何故……蘇ったのだ……?」
「……………蛇のおかげだよ…アイツが俺にもう一つ命をくれたんだ………だから…【双殺】を使っても……悪神だけ死亡した…」
「蛇…が……?」
涙を流す桜郎に、ミノルは説明した。
「…………アイツは…自分の命を俺に託してくれたんだよ…この…命をな…」
「これは……!」
ミノルの持っていたのは魔札だった。その魔札は蛇の持っていた、蘇ノ魔札だった。
「……これを身体に貼り付けて死ぬと…一度だけ蘇る……蛇は……これを持ってさえいれば…あの手強いモンスターを倒せたかもしれないのに……俺にこれを差し出してくれたんだ……」
「…蛇……あの言葉と…魔札を託したのは…そういう事だったのだな……」




