託されしもの
「……なんだ…」
「…今までとは違うな……」
九階はさっきまでみたいな廊下と大部屋は無く、開けていた、奥には階段が見える。
「……最後は何も無いみたいだな…」
「よし…それでは行こう…」
桜郎と蛇が階段へ向かおうとした時、俺は桜郎と蛇を呼び戻した。
「………なぁ…」
「なんだ?」
蛇と桜郎が戻ってきたのを確認して俺は二人に言った。
「……お前たちに…感謝したい…」
「…何をだ?」
「………俺の目を覚まさせてくれた事に」
二人は真剣に、俺の話を聞いてくれている。そして、俺は続けて言った。
「…………お前たちが…俺の目を覚まさせてくれたおかげで…俺は心置きなく死ぬ事ができる」
「………は…?」
「…………………」
桜郎は絶句し、蛇は俺の方を睨んでいる。すると桜郎が俺の服を掴みながら言った。
「…何故なんだ…!……何故そうなるのだ…!?」
「………お前たちが俺のことを大切に思ってくれているから……だがそれよりも……桜郎…お前は俺が何故生きていてほしいか尋ねたら……」
“この旅の締めくくりには…三人全員が生きている幸福な結末の方が似合うから”
「そう答えたな」
「………ああ…」
「……しかし………『今から桜郎と蛇を城から逃して、俺が悪神を道連れにする』…というのが俺にとっての幸福な結末だからだ」
すると桜郎は悲しみと怒りが入り混じっているような声で叫んだ。
「違うッ!!……そんなもの…三人全員生きて帰れない結末など…幸福な結末ではない!!」
「俺にとってはそれがハッピーエンドだ……悪神の眷属を倒して悪神を倒すなんて…漫画みたいな事は起きない……城に入る前に言っただろ…」
そして俺は桜郎と蛇に、ハッキリと尋ねた。
「どうする?……このまま全員で突っ込んで全滅するか……俺一人を犠牲にして世界を救うか」
「…………ッ…」
その瞬間、俺たちの目の前に魔法陣が現れ、強力なモンスターが召喚された。
「……こんな時に…」
すると、蛇が俺に小袋を差し出した。中には大量の魔札が入っていた。
「…これは……」
「この先の神殺しに必要だろう」
「…………」
そして、俺たちに向かって手に持っていた風の魔札を発動した。
「うおおお!!」
俺たちは一気に階段の方へ飛ばされた、モンスターも俺たちの方へゆっくり歩いてきている。
「……ミノル…聞け…」
「ああ…?」
「…神殺しの前に……強敵の相手はしない方が良い……」
そして、もう一つ持っていた結界の魔札を俺たちの目の前で発動して、半透明な壁を作った。どういうつもりだ、これでは蛇が来れないではないか!?
「おい!…一人で挑むつもりか!?」
「ああ、この結界を壊す力を持っているかもしれん、だから某の命が尽きるまでここを守る…!」
「……なんだと…蛇!」
俺の声を聞かず、蛇はモンスターと対峙した。半透明な結界が、だんだんと石のようになっていく。すると蛇が囁いた。
「………何も残さずに死ぬ真似はするな…」
「何…!?……どういう事…ッ…」
問いただす暇も無く、結界は完全な石の壁と化した。
「……そん…な…」
俺は途方に暮れ、その場で膝をついた。そんな…何故……何故なんだ……
……
気の抜けたように膝をつくミノルに、桜郎は泣きながら、震える声で言った。
「……蛇は…お主に死してほしくないから…自身が生き残る為の道具である…大量の魔札をお主に託したのではないか…?」
「…………魔…札……」
「お主に…それを使って……死なずして悪神を倒してほしいから…」
「つ…か……う……」
するとミノルは小袋の中を見て、目を見開いた。そしてその後に手で目を抑えた。指の隙間からは涙が溢れている。
「………そういう事か……お前の言っていた言葉の意味は……」
“…何も残さずに死ぬ真似はするな…”
「………お前は…自分の命と引き換えに……道を作ってくれたんだな……」
ミノルは一枚の魔札を見て、涙を流しながら呟いた。
「……嗚呼………有難う………幸福な結末でも…最悪な結末でもない……もう一つの道があるという事に気付かせてくれて…」
「………………」
そして涙を拭うと、魔札を見ながら、誰かと話しているかのように呟いた。
「…………分かった……お前が託してくれた…この命……悪いようにはしねぇ…」
「……ミノル…?」
ミノルは立ち上がり、階段を登っていった。
「ミノル!…悪神の元へ行くのか!?」
「あぁ…この命とともに…アイツを葬ってやる……」
「お主……まだ…!」
桜郎は必死に止めようとしたが、ミノルは無視して階段を登っていった。




