第八階層 死神
「なぁ…」
「……うん?」
「何だ?」
八階へ続く階段を登りながら、俺は桜郎と蛇に尋ねた。
「…何故……俺が生きていた方が良いんだ?」
「……なに…?」
「お前達は…俺が死んだら悲しむと言ったな……それは何故だ…」
すると蛇と桜郎は、何の迷いも、戸惑いも無く俺の問いに答えた。
「………三人で必ず帰ると約束してだろう?」
「…それに……この旅の締めくくりには…三人全員が生きている幸福な結末の方が似合うだろうからな…!」
「…そうか……」
……
「…よし……開けるぞ」
「ああ」
大扉を開けて、大部屋の中を覗いた。すると、部屋の中は真っ暗だった。
「…よく見えないな」
「妖樹の時みたいだな…」
慎重に大部屋の中へ入ると突然、大部屋の明かりである松明が一斉に灯った。
「「「……ッ!!」」」
そして明るくなったので気付いたが、中央には黒いローブを着て、手には大きな鎌を持つ骸骨が立っていた。
「…如何にもな死神だな…」
「……ああ…」
[ブラックリーパー]
危険度SS
死神系のモンスター。人間の恐れを喰らい強くなる、そして魔法無効化は同じだが、通常のリーパーと違う所は全身が黒く、手に持つ鎌も一回り大きくなっている。死神系のモンスターは比較的危険度が高く、騎士でも目撃すれば逃げる。
「………危険度SSか…」
「…それは危険なのか……?」
「ああ……スキル持ちが倒すレベルのモンスターだ…」
だが、このブラックリーパーが死神系のモンスターの中でも魔法を使えない種だということに救われたな。
「……死神系モンスターの厄介な所は強力な魔法を使い…魔法で生み出した攻撃の無効化と…単純に熟練の鎌使いだということだ………だが…このブラックリーパーは魔法を無効化するが…魔法を使うとは書かれていない……」
「…つまり……真っ向勝負ということか…」
「ああ…」
ブラックリーパーに勝つには、単純に武器扱いの技量があるかないかだ。逆に言えば、武器の扱いに慣れている者にとってはどうという事の無いモンスターだということだ。
「……よし…蛇…行くぞ…!」
「ああ…!」
俺たちは二手に分かれ、俺はブラックリーパーの右側から、蛇は左側から斬りかかった。
「………マジかよ…」
ブラックリーパーは、俺たち二人の攻撃を鎌一本で防いだ。そして鎌をその場で振り回した。
「くッ…!」
「ヤバイな…」
すかさず避けたが、コイツ、かなり強いな。さすがは危険度SSといったところか。
「……息を合わせていこう」
「…うむ」
俺たちは息を合わせて、再びブラックリーパーに斬りかかった。しかしブラックリーパーはその猛攻を綺麗に受け止めて弾いていく。
「………達人レベルだな…」
こちらが攻撃すれば、カウンターを仕掛けてくる。それを避け、再び攻撃するとカウンター。クソ、体に刃を当てる事ができない。
「…蛇……下がっていてくれないか?」
「………何…?」
「……もしかしたら…一人で戦えばいけるかも…」
すると蛇は、少し不安そうな表情を浮かべたが、桜郎の元へと下がった。
「………」
俺たちはお互いに距離を置いている、ブラックリーパーとの読み合いが始まったようだな。
『……恐れていては駄目だ…』
思い出せ、あの時を。漫画やアニメ、小説やゲームの中のキャラクターに憧れ、それと同時に嫉妬した自分を。
「…なんだか……不思議と負ける気がしなくなってきたぜ…」
二次元のキャラクターの強さに憧れて10年、いつも家で木刀を振った。何故そんな事をしていたか、それはイラついていたのだ。
カッコよくて、強い二次元のキャラクター。カッコ悪く、弱く、何も無かった三次元の自分を重ねているうちに怒りが湧いた。
「………馬鹿な…」
俺は、ブラックリーパーの攻撃を自分でも夢と思うくらいに華麗に避けていた。
「……凄い…」
ブラックリーパーの攻撃を避けながら俺は思い出していた。あのキャラクターの疾さと、あのキャラクターの破壊力と、あのキャラクターの集中力が組み合わされば、最強の技ができると。
まぁ、普通に考えてみれば絶対に実現不可能な技だがな。当時の俺は本気で練習していた。
「………」
ブラックリーパーは俺に向かって鎌を振りかぶった。その刹那、俺は刀を思い切りスイング、下から振り上げた。
「……我凜劣等斬ッ!!」
俺の刃はブラックリーパーを斜めに斬っていた。ブラックリーパーはその場に膝をつき、消滅した。
「………我刃…未だ健在也…」
「……どうした」
決め台詞を言い、刀を素振りして納めた俺に、蛇が尋ねてきた。
「…覚醒したのか……?」
「いや?」
「それでは…何故…」
「……死神は恐れを喰らって強くなる…ブラックリーパーは俺たち二人分の恐れを喰らっていたから強かったんだ」
俺は蛇にブラックリーパーの事を解説した。
「…だから…俺は一人で……恐れを持たずに挑んだ……それだけだ…」
「………よく怖けなかったな…」
蛇は俺を賞賛するように言った。
「……過去の俺が…支えてくれた…」
「過去の…自分…」
「ああ……あの恥ずかしい過去があったから勝てたんだ…」
そして俺は、桜郎と蛇と共に最後のモンスターのいる上の階へと向かっていった。
「これからは死神殺しのミノルと呼びな!!」
「……死神殺し…か…」
「良い響きだな…」




