第四階層 妖樹
「……なんだこれ…」
3階に登ると、壁が木や草に侵食されていた。外から見たらこんな事になっているとは思わなかったな。階段を登り廊下へ出ると、大量の草が生い茂っているのでかき分けて進んだ。すると大扉が見えた。
「…クソ……固いな…」
大扉を開けようとしてもなかなか開かない、何か引っかかっているようだ。
「………チッ…」
俺は大扉を蹴り破った、すると木の折れた音がした。地面を見ると折れた木が落ちていた。
「木が塞いでいたようだな」
中へ入ると、大部屋は廊下よりも木や草に侵食されていた。
「……草が光を遮ってて…よく見えねぇな…」
「…光が無いのであれば…作れば良い」
蛇は近くの木の枝を手に取り、炎を生み出す魔札で火をつけて松明にした。
「………結構明るくなったな…」
「……妖はいない…?」
「…どうだろう……ッ!?」
目の前にモンスターの気配がしたと思えば、蛇が持っていた松明を、動き出した木の枝が奪った。
「何だッ!?」
「……枝が松明を奪ったぞ!?」
「桜郎様…すぐに結界を…!」
蛇はすぐに桜郎の周りに結果を発動した、俺は松明を見ていた。枝に奪われた松明は少し離れた位置に投げ捨てられた、幸い火は付いている。
「…コイツがこの木や草を操ってんのか…?」
松明の明かりに照らされながら、木でできた人間型のモンスターが歩いてきた。
[ランフィン]
危険度B
魔素のエネルギーを吸い取った木が変異したモンスター。草木のある場所にいる場合は植物を自在に操る。体液は植物を急速に成長させる為、肥料として使われるが非常に高価で、市場にも滅多に手回らない。
「……草木のある場所では植物を自在に操るだと?…しかもこの暗さときた…」
「厄介だな…」
世界を滅ぼす力を持つから危険度SSSと判断されるモンスターがいる。ギルドやこの世界はモンスターの戦闘能力がどれほど高いかで危険度を表す傾向がある。
だが、それは大きな間違いだ。世界を滅ぼす力を持たなくとも、危険度SSSに匹敵する程の死人を出したモンスターは山ほどいる。
単純な戦闘能力では危険度Cのモンスターも、時や場所などによっては危険度SSSにもなり得るということだ。
「……つまり…このモンスターは表記上は危険度Bだが…」
「………場所が場所な故に非常に強い…という事か……」
「…ああ」
だが、倒さなければ先へ進めない、だから俺たちは構えた。ランフィンはそんな俺たちを見て暗闇へ消えた。俺たちの周りは暗闇で、少し離れた位置を松明が照らしていた。
「…炎の魔札は?」
「あと…一枚だ」
蛇は懐から、炎の魔札を一枚だけ取り出して言った。
「………最悪だな…下手に使って消費すれば俺たちの勝率は…かなり下がるだろう」
「…それではお主が持っておけ……妖殺しのお主なら……上手く使えるだろう」
炎の魔札を蛇が手渡してきたので、俺はポケットにしまった。
「それじゃあ……まずは何とかして…松明を拾おう…」
「……うむ」
俺たちは警戒しながら松明の光に向かって歩いていった。
「…ッ!」
暗闇から伸びてきた木の枝を俺はガードした、クソ、何処から攻撃してるか分からないな。
「……これでは手が出せぬな…」
「いや…もう大丈夫だ……」
俺は近くにある長い枝を手に取って、松明の火を灯した。
「………長い枝があって良かった…」
「…!……ミノル!!」
蛇が叫んだ、その時気配を感じ横を向くとランフィンが立っていた。
「……ッ!!」
俺は長い松明の炎で、ランフィンを燃やそうとした。しかし長い枝は簡単に折られ、俺は思い切り殴られた。
「…うぐッ!」
「ミノル!」
暗くてよく分からんが、俺は壁にぶつかった。危ない、受け身が間に合ったようだ。前を見ると蛇がランフィンに襲われていた、すぐに助けなれば。しかし俺はその時、動かなかった。
「……!」
蛇はランフィンの攻撃を受け流してはいたが、大量の枝全てを受け流せているわけではなかった。
「…ミノル!……無事か!?………ッ!」
俺の無事を確認するため、蛇が俺の名前を呼んだ瞬間だった。ランフィンが大きく手を広げ、大量の枝を伸ばした。この数で一斉に攻撃されれば、いくら蛇といえど串刺しだ。
「……ッ…」
ランフィンが手を振り下ろして、一斉攻撃をしようとした時、俺は蛇に叫んだ。
「屈め!!」
蛇は俺の声を聞いて、屈むとランフィンがこちらの方へ向いてきた。もう遅いぜ!!
「オラァ!!」
俺は蛇の真後ろにおり、炎を帯びた刀でランフィンの胸を貫いた、そして更に深く突き刺した。
「…………!!」
「燃えろぉ!!」
刀の炎が燃え移り、ランフィンの身体全体は炎に包まれた。
「……ミノル………寿命が縮まったぞ…来るなら早く来い…」
「悪い…あの瞬間でないと避けられていたから…」
暗闇に包まれていた大部屋は、ランフィンを包み込む炎で明るくなっていた。
「……この声は…あの妖の…?」
「ああ……」
「…妖樹の…慟哭か…」
俺たちは燃え盛るランフィンが燃え尽きるまで見ていた。




