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決意を抱いて



「…どうしたのだ……そんな…別れ際に言うような事を言って……」


桜郎は、不安げな表情を浮かべて俺に尋ねてきた、蛇も眉間にしわを寄せている。そんな二人に俺はハッキリと答えた。


「俺は今日、この島にある悪神の城で死ぬ」

「……え?」

「………どういう事だ」


まぁ、そんな反応になるだろうな。俺は困惑する二人に説明した。


「………この島に入った瞬間に分かったが…この島には魔法を妨害する魔法が仕掛けられている…要するに悪神とその手先以外は…この島で魔法を使えないというわけだ」

「……それでは…【オーバー】が…」

「ああ…だから弱い(スキルを持たない)俺は死ぬ……だが…安心しろ……俺が死ぬ時は悪神もあの世へ引きずり込むからよ…」


【オーバー】が使えない以上、スキルを持たない俺は死ぬのがほぼ確定になった。だが、俺には自身の死と引き換えに相手も殺すという【双殺(そうさつ)】という技を持っている。それを使えば悪神を殺して世界を守る事ができる。


「…そんな……それでは…一度戻ってその魔法を打ち消すものを…」

「駄目だ、この島に来た以上後戻りはしない」

「では!…今からでも方法を考え…」

「今更何言っても無駄なんだよ、俺には()に進む事しかできねぇ」


ここにいる全員が生きて帰るつもりで挑めば、どうせ災厄の結末を辿るだろう。いつもそうだ、強い決意を持てば勝てるなんてアニメのような出来事など現実では起きない。


希望や決意を持つ者は大概死ぬ。俺はそんな奴等を山ほど見てきた。この世は死んではならない者ほど、早く死ぬ。


だから、田中 実(オレ)が死んでも悲しむ者がいないように、俺は仲間やら親友やら家族を作らなかった。死んでも誰も悲しまない、俺だったからこそ、この決断ができたのだ。


そんな感じの事を、俺は桜郎にそう言った。すると桜郎は遣る瀬無い(やるせない)表情を浮かべていた。


「……だが…そのおかげでお前たちがとうの前に持っていた……覚悟を俺も持つ事ができた」

「此処で死ぬ覚悟か……」

「ああ」


蛇の問いにそう答えると、蛇は少し苛立った様子で俺に言った。


「……お前は…いつからそんな腑抜けになった…」

「……………」

「…本物の田中 実は…そんな事を言わない筈だ……本物の田中 実は…仲間を泣かせるような事を言わない筈なんだ…!」


その瞬間、蛇は俺の頬を思い切り殴った。その拳は、今まで受けたモンスターや人間に攻撃の中で最も痛く、身体の奥底へ響いた。


「…………ッ…!」

「…痛いか?……もしこれで痛みを感じないのであれば……お前が()()()腑抜けとなったという事だ………だが…痛みを感じたのなら…まだ心の奥底で……迷いがあるという事だ」


その言葉を聞いて、俺はハッとした。まだ、俺は迷っていたのか……


「……ミノル…挑む前から諦めていたら…勝てる戦でも勝てぬぞ……気をしっかりと保て…!……それにもし…お主が死すれば…悲しむ者は少なくとも此処に二人もいるのだぞ!……だから……必ず生きろ…!」

「…ミノル……お主は某と桜郎様にとって…かけがえのない存在なのだぞ…死ぬなんて言葉を口にするな…」


まさか、ここまで二人が俺の事を思ってくれていたとはな。それを聞いて、俺の心の奥底で俺の考えが決まった。


「………ありがとな…俺の持つ迷いを……心の中の不純物を…取り払ってくれて……おかげで心が晴れた…」

「………そうか…」

「それじゃあ…行くとするか!」

「ああ!」


俺たちは、それぞれ胸に決意を抱いて城へ歩いていった。さっきまで不気味に揺れているように見えていた城が、今では随分と脆弱に見えた。



……



「……!」


城の中で、悪神はミノルが歩いてきている方角を向いた、そして少し驚いているようだったそんな悪神を見て眷属が悪神に尋ねた。


「…………どうされました…?」

「……今日の朝に目の前をハトが通ったんだ……こんな時は大抵…不幸な事が起きるんだよなぁ…」


そんな事を言いながら、悪神はその方向を見ながら立ち上がった。


「…何かが来てるね……」

「……見てきましょうか?」

「…いや…大丈夫……細かくは分からないけど…大体は分かる…」


悪神はスマートフォンに大量の顔写真を映し出し、スクロールしていった。その中にある一つの写真を見た。


「……このオーラは…タナカ…ミノルか……アイツに始末しろって言った筈だけどなぁ……生きていたのか…」

「今から始末してきます」

「ダメだよ」


足早にミノルの元へ向かおうとする眷属を、悪神は止めた。


「……せっかく頑張ってここまで来てくれたんだ…おもてなし…しないとね…」

「……おもてなし…?」

「うん!…漫画のような…ね」


不敵な笑みを浮かべ、悪神は城の最上階でミノルを待っていた。
















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