霧を越えて、何を語る
「…よし……行こう…」
俺たちは残骸の死角へ隠れながら先へ進んでいった。目指すは奥に見える廃墟だ、あの廃墟の奥から草原の匂いがする。
「……おそらくあの廃墟の先が平原だ…」
「…………ここを抜ければ良いのだな…」
残骸はサバイバルホラーゲームで、殺人鬼が歩き回り、バレたら即死亡のステージのような配置となっている。
「…よし……大丈夫だ」
俺が進んでも大丈夫かどうかを確認し、進んでも大丈夫だったら合図を出して先へ進む。要するに、狩人の視線が俺たちのいる残骸から離れたら進んでいくってわけだ。
「……目の前に狩人がいるな…」
「………どうやら動きそうにないな…」
少し進むと、目の前の残骸の近くに立っている狩人がいた、この距離では確実に気付かれる。これでは先へ進めないな。
「………待ってろ」
俺は息を殺し、完全に気配を無くした状態で狩人に近付いて、静かに喉にナイフを突き刺した。そして狩人が消えていったのを確認して、すぐに残骸へと隠れた。
「…よし……来い…」
「……流石だな…ミノル…」
残骸に隠れながら進んで、狩人が残骸の近くに立っていたら静かに倒す。そうして俺たちはついに廃墟の近くまでやってきた。
「………この先が…平原か…」
「……ああ…」
俺たちはゆっくり、静かに廃墟の中へ入っていった。この廃墟はそこそこ大きく見えた、中が入り組んでいなければいいが。
「…中は広いな……」
「元は屋敷だったのかもな」
廃墟の中に入ると、やはり散らかっており、そこら中に苔が生えている。だが、天井は崩れて、中は完全に広場のようになっている。良かった、あの時みたいに入り組んでなくて。
「……狩人は…いなさそうだな…行くなら今だ…」
「……彼処から森を抜けられそうだ」
蛇は大きく崩れた目の前の壁を見ながら言った、あの崩れた壁から外へ出れば平原だ。
「…やっと平原だな」
「………森にいた時間が長く感じた…」
俺たちは崩れた壁を通り抜けて、森を抜けた。
……
「…霧が晴れたな……」
森を抜けると霧は晴れた。そして霧が晴れると、広大な平原が広がっており、遠くにぼんやりと、城が見えていた。
「……あの城に悪神が…」
「…もう少しだな……」
「………トラブルがあったから遅くなったが…無かったら何時間も早く城に着いていたのだろうな…」
そうして、俺たちは城を目指して歩いた。それにしても、こんなにも足を動かしたのは久々だ。そして、ここに来て今までの疲れが一気に襲いかかってきたようだ。
「…桜郎…蛇…」
「うん?」
「何だ…?」
平原を歩いた後、俺はこの先へ備えて少し休もうと言った。そして、花が咲き乱れる花畑のような平原で腰を下ろす桜郎と蛇に言った。
「……桜郎……俺は最初に…お前が同行すると言った時……俺はどうせすぐに弱音を吐くだろうと思っていた……綺麗事を抜かす奴なんてそんなものだろうと…」
「……………………」
「だが…お前は一度も弱音を吐かなかった……それは…自らの足で悪神の元へ赴き説得するというお前のその想いが本物だという事だ……」
まず、桜郎にそう言った。桜郎は真剣に、綺麗な眼差しで俺の話を聞いてくれた。そして、今度は蛇の方を向いて言った。
「…蛇……俺は……お前の事を無愛想で…機械のような人間だと思っていた…人間を虫ケラとしか思っておらず…桜郎を守るのも命令の為だからと思っていた……」
「……………………」
「しかしそれは間違いだった……お前は不器用なだけで…根は良い奴だった……共に旅をしていて俺はそれを確信した……そして…お前は桜郎を守る為ならば命も捨てるような…覚悟の持ち主だとも分かった………だから…お前はこの神殺しが終わろうとも…桜郎を今まで通り守ってやってくれ……上から目線で悪いがな…」
蛇もまた、真っ直ぐな眼差しで俺の話を聞いてくれていた。桜郎はその年で、蛇は俺と同じ年だというのに俺とはまるで違う、本物の覚悟を持っている。だからかな、悪神の城に近付いていき、もう目の前だというのに震えないのは。
震えているのは俺一人だ。だが、もし蛇や桜郎が神殺しをするかもしれない俺の立場だとしても震えないだろう、蛇と桜郎は本物の覚悟を持っているからな。
俺にも、本物の覚悟が欲しい。上っ面だけで、偽物の覚悟ではない、死ぬかもしれないのに震えない、怖気ないような覚悟を。
それにしても、まさか俺がここまでビビるとはな。ここまでビビったのは樹一郎さんに助けられる前、竜に殺されかけた時以来だ。
まぁ、いくら考えようが、嘆こうが、俺の運命は変わらない。俺も覚悟を決めるか。そんな事を思っている時、不安そうな顔をしている桜郎が俺に尋ねた。
「…どうしたのだ……そんな…別れ際に言うような事を言って……」




