アネモスの死闘
ドラゴンシャークを討伐し、アネモスは無事に動き出していた。そして、俺と蛇はドラゴンシャークの一件があったので蛇は後方、俺は前方を見張る事にしていた。
「……クソ…船でゆったりしていたかったのに…」
俺は前方を見ながら呟いていた。そして段々と悪神の島に近付いていた、その時だった。
「…ッ!?……今度は何だ!?」
目の前から、6mくらいはある大きな波が100m先から押し寄せてきた、クソ、マジかよ。だが俺はある物を持っていた事を思い出した。
「……持っていて良かった…」
俺は咄嗟にバックから小さな氷を取り出し、押し寄せる波に向かって刀で飛ばした。すると少しして波は氷の壁と化した。
「……波が…凍った…!?」
「…氷花の蕾……液体を瞬時に冷凍するものだが……効果はあったようだな…」
駆け付けてきた桜郎と蛇と船長に俺は振り返って説明した。説明を終えると、安心した桜郎と蛇と船長は戻っていった。その時、俺の背後から声が聞こえた。
「………お前…弱いな…」
「…ッ!?」
背後を向くとそこには、淡い水色の瞳をした小学生くらいの子供が立っていた。
「誰だよお前…」
「俺が誰かはどうでもいい…」
そう言って子供は突然、召喚した剣で斬りかかってきた。俺は咄嗟に防いだが、なんて速さだ。子供が振っているとは思えん……
「何だよ…いきなりッ!!」
「反応速度は…まぁ…良いだろ…」
俺は負けじと、鞘に刀を収納した状態で子供に面打ちしようとした。だが、簡単に避けられた。
「……どうした…その程度の力では悪神の側近を倒せないぞ…?」
「…ッ……なら…その側近を倒せる程度の力を出してやるよ!!」
子供から離れて、俺は【オーバー】を発動した、しかし子供は表情をピクリとも動かさない。
「………【オーバー】…か…」
俺は発動して、地面を踏み込み高速で面打ちした後、薙ぎ払いに繋げた。
「なんだとッ!?」
「…ふんッ……」
しかし子供は、さっきよりも数倍速い面打ちをも避け、飛び上がって薙ぎ払いを回避した。
「まだまだ…!」
「体力はあるようだ」
俺は刀を前方へ振り回した、適当に振り回しているように見えるが実は、本当に適当に振り回している。だが、これがなかなか厄介だ。それは適当に振り回しているから攻撃が不規則、捌き辛いからだからだ。
「……ふむ…」
「…ハァ……」
これはさすがに疲れるな、俺は息を切らした。しかし、子供は全然息を切らさない。子供の体力では、これを捌くと息を切らず筈だが。
「…なんだ?……もう疲れたのか?」
「何故…俺の攻撃を受け止めていながら息を切らさないんだ……」
「……お前が息を切らすのが早いのだけだ…」
クソ、バケモノか、マジで何者なんだこの子供。しかし、相手は子供だ、俺は「子供になんか負けてらんねぇ」と思って構えた。
「…疲労が溜まると良く無いぞ」
「……そうかも…なッ!!」
俺は子供に向かって縦横、十字に交差するように攻撃した。だが、子供は斜めに飛び上がって俺の真後ろに着地した。
「…ッ!!」
「駄目だ…この程度では……」
「何だと?……なら…俺の[無喰流]を見せてやるぜ!!」
一旦後退りして、俺は[無喰流]で取り込んだ回転斬りと乱れ打ちを繋げて作った、連続回転斬りを繰り出した。
「……[無喰流]…型を持たず……様々な技や流派を取り込み進化して誕生した流派か…」
「食らえッ!!」
俺は、連続回転斬りを捌いていく子供に向かって突きをした。連続回転斬りで体力を削られた状態でこの突きを避けるのは至難の技だぜ!
「……ッ!?…なッ……!?」
「遅いな…」
だが、突きは避けられ、子供はカウンターをしてきた。マズイ…これは避けられない……!
「………!!」
子供がカウンターでしてきた水平斬りは、俺の身体に触れる直前に止まっていた。
「…何故……」
「動きは良い…だが……お前の攻撃は読みやすい」
「なに…?」
「幾ら速かろうと…威力があろうと……読まれて避けられたら意味が無い……まず…攻撃する際は相手を惑わすようにしろ…所謂…フェイントだな………そして疲労が溜まっているようだな…少し休んだ方が良い…」
突然、子供は俺にアドバイスをしてきた。マジでなんなんだ?
「…………いきなり斬りかかってきて……その後にアドバイスしてきて……お前は一体なんなんだよ!?」
「……それは…尋ねない方が良い質問だな」
「………あ…?」
そう言うと子供は、空を見上げた。俺も空を見上げたが、何も無い。そして子供の方へ向き直ると、子供の姿は無かった。
「……たしかに…俺は少し疲れているのかもな…」
俺の目の前には、悪神の潜む島の影が見えていた、あの島に上陸すれば、おそらく修羅場が待ち受けている、だからそれまで休んでおいた方が良さそうだな。




