大海に潜む牙
「……波の音が…心地よい音色を奏でている…」
海の波の音色を聴き、揺かごのようにゆったりと揺れる甲板で寝転び空を見る。俺はそんな船旅を楽しんでいた。
「…癒されるなぁ……」
「歩いてばかりだったからな…」
そんなバカンスも束の間、突然船が大きく揺れ始めた。蛇は桜郎の近くで周囲を警戒し、俺は横たわっていたビーチベッドから落とされた。
「なんだ…!?」
「…ッたく…俺がゆっくりしてる時はいつも邪魔が入りやがる……モンスターか!?…ぶっ倒してやる…」
船内から船員が飛び出してくると、何が起きているのかを俺たちに伝えた。
「……ド…ドラゴンシャークが現れて…船を威嚇している!!……放っておけば襲われてしまう!!」
「ドラゴンシャークだと…!?」
「竜鮫か…」
[ドラゴンシャーク]
危険度S
[竜鮫]とも呼ばれる凶暴なモンスター。海に生息する竜で、基本的には海中でしか活動できない。鮫のような牙を持ち、水中を高速で移動する。体も竜の鱗で覆われており、生半可な武器では歯が立たない。
「…他の竜と違って爪や尻尾などで攻撃しないものの……凶悪な牙を持っている…アネモスに噛みつかれたら終わりだ…!」
「それでは…!?」
「……モンスター撃退用の大砲があります!…それで撃退しましょう!」
船員が俺たちを大砲の元へ案内した、そこにはアネモスには似合わない無骨な大砲が設置されていた。
「…よし……これを使おう…蛇…使えるか?」
「ああ、大筒なら使った事はある」
その時、咆哮とともに俺たちの目の前にドラゴンシャークが飛び出した。
「グォォォォォォォ!!」
「う…うあああッ!!」
「蛇!」
「……ああ…!」
蛇が大砲でドラゴンシャークを撃った。するとドラゴンシャークは空中から海に落ちた。
「…蛇は援護を頼む」
「ミノル……お主は…」
「桜郎…下がっとけ……俺は海中でヤツと戦る」
前の桜郎だったらこんな事言うと俺を止めていただろう。だが……
「…死するでないぞ」
「ふんッ…分かってる」
桜郎は俺と蛇の目を見ると、急いで船内へ入っていった。
「……俺たちを信じるようになったようだな」
「…………ああ…」
「アネモスは止めておいてくれ……心配しなくとも近付けないからよ」
船員にそう言って俺は【オーバー】を発動し、海へ飛び込んだ。塩水だが、不思議と目は痛くないし、ハッキリと見える。
『…あそこか』
海中では、高速でドラゴンシャークが泳いでいた。そして、俺を見つけると口を開いて突っ込んできた。
『……やってやるぜ!』
俺は向かってくる横へ泳いでドラゴンシャークの噛み付きを避け、頭に刀を突き刺した。
「ヌ゛ァァァァォォォォォオ!!」
『……ヤバ…手から刀が離れる…』
ドラゴンシャークは海面へ凄まじいスピードで浮上しようとしている、俺を振り落とす気か。クソ、なんとか耐えなければ……!
「ギョェェエエエエ!!」
「…うおッ!!」
ドラゴンシャークとともに海から飛び出した俺は、急いで刀を抜いてドラゴンシャークを蹴り、海へ飛び込んだ。その時、海中でも聞こえる程の爆発音が辺りに響いた。
『もし…あのままドラゴンシャークにくっついてたら……蛇の撃った大砲に巻き込まれていたな…』
俺は海面へ飛び出した時、蛇が大砲を撃とうとしていたのを確認したのだ。俺はちょうど死角にいたので、蛇は気付かず撃ったのだろう。
『危ねぇ……だが…あの大砲を二度も喰らったんだ……死んだか…?』
海面へ上昇すると、そこには傷だらけのドラゴンシャークが浮かんでいた。魔素になっていないという事はまだ生きてるのか。しかし、もう動けない程の傷だろう。
「……トドメだ…」
「…ッ!?……ミノル!!」
蛇の叫び声が聞こえ、俺は蛇の方を見た。すると、蛇の目線はドラゴンシャークに向いていた。俺もドラゴンシャークの方へ向くと、ドラゴンシャークは俺を睨んでいた。
「……あ゛?」
その瞬間、ドラゴンシャークが飛び上がり、俺に噛み付こうとしてきた。
「ミノル!!」
「そんな元気があるとはな…!」
喰べられるその刹那、俺はドラゴンシャークの目の前で、刀を構えた。ドラゴンシャークは御構い無しに突っ込んでくる。
「ぐッ…くッ……」
「ぎぎがががごがごご!!」
ドラゴンシャークの牙と俺の刀がぶつかり合い、火花が飛ぶ。
「……ッぅおらぁ!!」
ドラゴンシャークの牙を刀で弾き、怯んだスキに海面から飛び上がってドラゴンシャークの頭上に思い切り刀を突き刺した。
「ギョェィァォァァ!!」
「……これで…終わりだ…!」
そのまま、刀で頭から背中にかけて俺は斬った。ドラゴンシャークはその場で暴れ、俺を振り落としたが、少しして消滅した。その後、消滅した所には魔素が浮かんできた。




