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旅路に吹き荒れるは追い風



「……座る時はソファでも椅子でも無く…畳の上で胡座をかくのが落ち着く…との事で…」

「なんだよそれ……王っぽくないな…」


王の貫禄はあるのだがな、話していたら分かるが、どうしても男子高校生としか思えないんだよな。


「…まぁ……ちゃんとしたソファなどもあるので……嫌ならそちらに座れば…」

「いや…俺も胡座の方が落ち着くからな」

「ミノル…お前もか…」


俺は畳の上で胡座をかいた、そして、蛇と桜郎に言った。


「それじゃあ…出発とするか?」

「うむ…そうだな…」

「……何事も素早く行う事が大切だ」

「それでは…今から出港の準備を…」


そう言って船長は部屋から出て行った。すると蛇と桜郎も畳に座った。


「……畳は塔にもあるが………この座り心地…久しく感じるな……まだ二日目だが…」

「…………修学旅行で数日しか家を離れないのに…いざ帰ってくると…数年ぶりのような気がするソレだな…」


俺は修学旅行の時、三泊四日で家に帰ってきたが、何故かとてつもなく懐かしい感じがした。例えるならば、数年ぶりの親友との再会、昔使っていた物を押入れから見つける、子供の頃に乗っていた錆だらけの三輪車を見る、昔遊んだ公園を散策する、そんな感じだ。


「なんだか…数日の間の出来事なのに……長く感じるよな…」

「……ああ…」

「そうだな…」


そんな話をしながら、俺たちは天井を見ていた。天井はガラス張りで、半分夕焼けな青空が見える。


「…この船は寝泊まりできるらしいから……島に着くまでのんびりしたいようか」

「うむ」


ここから島までは大体、6時間程だ。そして今が6時だから、着くのは夜の12時だな。


「……着く頃の時間帯も夜だ…潜入にはもってこいだな…」

「…ついに悪神と……対面するのか…」

「緊張しているのですか?」


これから赤点のあるテストをするような表情を浮かべた桜郎に、蛇が尋ねた。


「……神との対面だ…緊張する………だが…それでは駄目だ…私はその神と話すのだからな…」

「…………」

「………桜郎様…ミノルをご覧ください」


突然、蛇が俺の方を向いて言った。桜郎と俺は困惑した。


「…ミノルは……悪神殺しを依頼されました…即ち神殺しです……しかし…今までの旅で震えていましたか?」

「……そういえば…震えておらぬな…」

「説得できれば良いですが…説得できなかった場合……ミノルは命を賭して神と…その従者と戦わねばならなくなります……もしかしたら…死ぬかもしれない」


真剣に話を聞く桜郎に、蛇は少し脅かすように言った。


「……それでも怖じけず…震えない……何故か………それはおそらく…『負けたらどうしようか』……などの不安を持っておらぬからでしょう…だろう?」

「………まぁな…」


【オーバー】があれば、少なくとも死ぬ筈は無いし、そもそもの話、負けるビジョンが浮かばないから負けたらなんて不安など俺には無い。


「……緊張するのは…もしも説得できなければ…と思う不安を持つからです……そこで尋ねますが…桜郎様は何故…必ず説得しなければならないとお考えで?」

「それは……説得できず…悪神とその従者に襲われたら…」

「襲われたら…何ですか?」

「死するから…であろう…?」


桜郎はそう答えた。すると蛇は、桜郎の肩に手を乗せて言った。


「桜郎様…某とミノルは……そう思われる程…非力でしょうか…?」

「………え…?」

「ミノルは……神に負ける(殺される)道理など無い程の腕を持っております…某も…その自身がありまする……だから桜郎様は…何も心配しなくてよいのです…」


いつもは無機質で機械のような声の蛇だが、桜郎を安心させようとする今は、暖かく優しい声だった。


「…………そう…だな……どうやら私は…お主達を心から信じていなかったようだ……」

「………………」


桜郎は落ち着いたのか表情を和らげ、俺たちに言った。


「……もし…神と戦わねばならぬ時は……頼んだ…!」

「御意…!」

「ああ…!」


偶然にも、俺と蛇の掛け声が被った。前の蛇と俺であれば、お互い目をそらしていただろうが、この時はお互いに目をそらさなかった。そんな時、俺はふと思った事を言った。


「……それじゃあ…絶対に帰ってくる事を誓って………これでもやるか?」

「…うむ!」

「ああ…!」


俺は手を伸ばした、それの意図を理解したのか、蛇と桜郎は俺の手の甲の上に手を乗せた。


「絶対帰ってこよう……三人で…!」

「「「おお!!」」」


一致団結したのか、俺たちは掛け声はほぼ同時だった。そしてその掛け声と同時に、船長が入ってきた。


「準備が整った!…今から島へ行ける!」

「……この旅の締めくくりだ…気を引き締めていこう!」

「ああ!」

「…そうだな」


そうして、俺たちの乗るアネモスは出港した。外では、船を押すように追い風が吹いていた。















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