海に浮かぶは王の船
「……悪神が阿呆で良かったな…」
「ああ……」
俺はジャンプして溝から脱出し港へ戻ってきて、これまでの経緯を説明していた。
「…それにしても…【おーばー】か……強力な術だな…」
「自分でもビックリだぜ…まさかこんな魔法を使えるようになるとは思わなかったからな」
その時に俺はふとある事を思い出し、船長に尋ねた。
「…一応…溝の事は解決したし………それに…あの魔術師が再起不能になったから溝も海水で満たされた…それにより小舟で向こうへ渡る事ができるようになったぞ」
魔術師を担いで溝を飛び出すと【空壁】が解除され、溝は海水で満たされた。これで老若男女問わず、向こう側へ渡れるようになったわけだ。
それにモンスター大量発生も、魔術師の仕業だったらしく、魔術師を倒したらモンスター達は何処かへ逃げていったしな。
「………船…出してくれるか…?」
「………アンタは…この港を救ってくれた…いわば恩人だ………船については…この港で最高の船を用意しよう」
「…感謝する」
「感謝するのはこちらの方だ」
船長は他の船員に何かを伝えて、一緒に船着場へ歩いていった。
「ミノル…これで悪神の元へ行けるのだな……」
「ああ…普通なら悪神の島へ一日で行ける筈が……三日もかかったがな…」
本来は、半日でアルトリアに到着、そして馬車で港へ移動し休息。そのまま次の日に悪神の島へ潜入するという感じだったが。
「……このまま何のトラブルもなく進めば…今日中に悪神を倒す事ができる」
「…私が何故いるかを忘れていないか?」
「………」
「……私と悪神が話し合えば…戦わずに済むかもしれぬから…であったよな?」
そういえば、桜郎は悪神を説得しようとして、同行したのか。正直忘れていた……
「……そうだったな…だが…… 」
……
“お主は……私の持つこの力を取り返し…この浮世に鉄槌を下そうとしているようだな…”
“ああ”
“だが…そんな事を…何故する必要があるのだ?………人間が醜いからか?…愚かだからか?”
“ああ”
“……たしかに…人間にも…醜い欲を持つ…愚かな者もいる…だが……全員がそうというわけではない!……お主は…ほんの僅かな愚者がいるというだけで…善人を含む無関係の人々諸共…屠るというか…!?”
“………ああ………確かに…そうか……僕は少し………早とちりしていたようだ……”
“…………”
“今…鉄槌を下すのは止めだ!………鉄槌を下すのは……もう少し様子を見てからでも遅くないからな…!”
……
「…そんな可能性は限りなく低いという事を……頭に入れておくんだ」
「……桜郎様…」
「…………うむ……分かっておる…」
桜郎は眉を寄せ、手を握った。その時の目は、何処か儚げで、その顔は何かを抑圧するような表情を浮かべていた。
「……な…なんだ…?」
「ミノル…?」
「…眉間にしわを寄せてると……大人になった時に厳つい顔になるぞ」
「………そうだな…」
俺は桜郎の額を指で刺して言った。すると桜郎は落ち着いた表情になり、そう呟いた。そして、その時に船員が扉を開けて言った。
「ミノル御一行様!…船の準備が整いました!」
「よし…それじゃあ…やる事やってさっさと帰るか…!」
「…うむ!」
「……ああ」
船員と共に外へ出ると、そこにはスチームパンク風で、工芸品のような船が海に雄々しく浮いていた。
「……うぉぉ…」
「…ふむ……からくり仕掛けの船か…」
「……レクス王がアルトリアの学者や高名な開発者を集めて作られた…この世界で一番美しく…雄々しく…勇ましい船……[アネモス]だ…!」
歩いてきた船長が俺たちに言った。どうやらこのアネモスは、アルトリアの英知や技術の結晶であり、完璧で究極の船らしい。
「…本来はレクス王のような権力者専用のものだが……アンタ達なら大丈夫だろう…なんといっても一つの港を救った英雄だからな」
「……え…じゃあ権力者達に怒られないか…?」
「大丈夫だ…そう言うと思って予めレクス王に連絡しておいた……アンタがあの魔術師を倒した事によって電波妨害魔法も無効化されたしな」
「そ…そうか…」
そうして、船長に案内され俺たちはアネモスに乗った。船の中は豪華な装飾が施され、高級そうなテレビがある、ホント凄いな、アルトリアの技術は。
「テレビまであんのか……」
「動く絵…」
「それはつい最近開発された新しい電化製品です……まぁ…高額なので…一部の貴族しか持っていませんがね…」
その時、奥にあるものに目が留まった。俺はその部分が気になったので船長に尋ねた。
「…あの奥の畳はなんだ?」
「あぁ…それは四人の王が無いと落ち着かないと言われたので……特注で職人が作りました」
「……あの人達か…それで何故…畳が必要なんだ?」
船長は畳を設置したその理由、それを苦笑いしながら答えた。




