オーバー・ザ・ヒューマン
「……何か策があるのだろうな…!?」
「当たり前だのクラッカーよ!」
そう言って俺は桜郎をおんぶした。桜郎は困惑しているが、すぐにハッとして俺に尋ねた。
「お…おい……まさか…」
「ああ…ここから向こうの岸へ飛ぶ!……そしてあの岸へ掴まる!」
「ちょ…ちょっと待て!」
桜郎は戸惑っている。しかし、その間にも後ろからグランサラマンダーが迫ってきている。
「……俺はここからジャンプして向こう岸に行く以外の作戦は考えていない…!」
「何故そうも脳筋な作戦を…!?」
「…いざという時には某が桜郎様をお守り致すので……」
「うぅ…」
グランサラマンダーが迫ってきていたので俺と蛇は助走をつけて思い切りジャンプした。そして、向こう岸の地面を掴んだ。
「………片腕では…キツイな…」
「……お…お主を信じておるぞ…」
桜郎は震えながら耳元で囁いた。その言葉を聞いた俺は、思い切り力を入れてよじ登った。
「……ふぅ…」
「はぁ…はぁ……」
「桜郎様…お怪我は……」
「………大事…無い…」
俺たちはなんとか、向こう岸へ行く事ができた。そして、前を見ると大きな港が見えた。
「…作戦成功…だな…」
「ああ…そのようだな…」
「……寿命は縮まったがな…」
……
「……ここが…港か…!」
俺たちの目の前には大きな港が広がっていた。しかし人々は皆、不安そうな表情を浮かべている。
「おい!…レギスが船を出してくれると言っていたが」
俺は目の前で話している、悪神行きの船の関係者らしき人物にそう叫んだ、すると如何にもな船長がこちらに気付いて歩いてきた。
「アンタら…どうやってここへ……」
「ああ、飛び越えてきた」
「飛び越えてきた……いやはや…怪物のような御仁だな…」
俺は船を出してくれると聞いていたので、その事を尋ねた。
「……船か…」
「なんだ?…出せないのか?」
「ああ…実は……アンタらの通った溝があるだろう…?」
船長が言うには、あの溝には危険なモンスターが潜んでいるらしい。今は眠っているが、船なんかを出港させれば、その音で目覚めて港を襲う危険性があるからだそうだ。
「神獣か?」
「いや、神獣ではないが、神獣にも引けを取らない凶暴なモンスターだ」
「それじゃあ俺が倒すわ」
「話を聞いていたか?」
信じられないと言ったような表情で船長は俺を見た。
「いくらアンタがバケモノみたいに強くても…アイツは無理だ……なんとかして王に連絡しないと…」
「王達は神獣討伐で忙しいんだ…俺が行くしかないだろ」
「この港で死人を出したくはない」
俺はなんとかして説得した。そして、長い説得の後、船長は渋々合意した。
「……危なくなったら…すぐに逃げるんだ」
「分かってる」
そして、俺は刀を持って外へ出た。外に出ると桜郎が俺に言った。
「……ミノル…」
「ああ?」
「………死ぬなよ…………まぁ…お主は死なぬだろうがな…!」
「よく分かってるじゃねぇか」
俺は桜郎と蛇を港に待機させて、溝へ向かった。
……
『……岸に掴まった時に感じた気配は…モンスターだったのだな…』
俺は溝の奥を見ていた。これから俺は、かなりの強敵に挑む、しかし、何故かリラックスしていた。それには理由があるがな。
『…この感覚……あの夢の時と同じだ…これなら…あの時みたいになれるのでは…?』
前見た夢の時の俺は身体能力が異常に上昇していた。それこそ、危険度SSSのモンスターに引けを取らない程に。
『……なんてな…夢の時みたいに無双できるわけがないか…』
鞘から刀を抜いて下へ降りようとした、その時。俺の身体が黒い霧に包まれた。
「な…なんだ!?」
思わずその場に跪いた、そして少しして霧が無くなると、俺の身体はあの時のように軽くなっていた。
「……まさか…」
手鏡を倉庫から取り出し顔を見ると、夢の時と同じように、顔が俺ではなくなっていた。服装も黒いコートになっている。
『…一体これは……』
俺はスマコを起動してステータスを確認した、すると魔法の項目に何かが追加されていた。
【オーバー】
自身の身体能力を大幅に上昇する、二段階あり。少なくとも危険度S以上のモンスターに匹敵する身体能力になる。しかし、発動中は解除するまでスマコの使用、他の魔法の発動、睡眠、食事、等ができなくなる。
なるほどな、身体能力の上昇と引き換えに、禁止される事が結構あるという事か。
『……これは良い魔法だな…魔法ってのを使った事がないから知らんが…他の魔法もこんな感じなのか…?』
そして、この【オーバー】は俺が念じる事により解除と発動ができる、これはイカすぜ。
「よし!……早速かましてやるぜ…!!」
俺は溝に向かってジャンプして、下へ飛び降りていった。




