デビルハンター
「…何故【それ】を術と呼んだか……その理由は単純だ」
樹一郎さんは剣を鞘に納めて言った。
「今を生き残る為に使うものだからだ……勝つ為に使う剣の技ではない…勝って生き残る為に使う術だからだ」
「……………」
「散々斬るうちに気付いた……相手を斬り…流派や技を取り込み強くなるのではない…相手を斬り…生き残る事によって己の太刀筋はどうすれば生き残れるかを覚えていくのだ…【それ】がこの事を教えてくれた」
俺は樹一郎さんの力のある語りを聞いて、思わず息を飲んだ。
「戦いを生き残る為に使う術の名は【逆境返し】……かつて…この術を使い逆境を跳ね除けた際にそう名付けた」
「……【逆境返し】…」
「俺は強くなりたくば斬れと言ったな……確かにそうする事によって[無喰流]を会得し…お前の言う強き者に成れる……」
空を見上げながら樹一郎さんは言った。今までの樹一郎さんの強くなる秘訣を簡単にまとめると敵を斬り、敵の技を我が物とする。そうする事で[無喰流]を会得し強くなれるようだ。
「……だが…力だけを欲すると…人の業に飲み込まれるぞ……」
「…人の業……?」
「ああ、力を欲する余りに鬼と成り果てる事だ」
正直、その時は人の業を知らなかった。まぁ、今は王達に尋ねたから知ってるがな。
「まぁ……人の業に飲み込まれない程度に鍛錬すれば良いだけの事だが…」
その後、俺は樹一郎さんの言う通りモンスターを数年程斬り続けた。しかし、いつまで経っても【逆境返し】だけはできなかった。
「……ふむ…[無喰流]を手にしたか…」
「ああ…そうなのかもな……だが…【逆境返し】だけができないんだ」
「…………強くなるだけなら斬るだけで充分…だが…【逆境返し】はただ斬るだけでは駄目だ」
「じゃあ…どうしたら……」
「……『力を欲する為に斬る者には扱えぬ………【逆境返し】は生き残る為に扱う術だからな』…」
……
「……だが…未だにその言葉を理解できず…会得できない…ゴブリンとの戦いではほんの少し理解できそうだったがな…」
「…………」
「今は…それを会得する為に斬り続ける日々だ…」
そう、俺は[無喰流]を手にしたが【逆境返し】だけは会得できていなかった。
「…………気休めかもしれぬが……必ず会得できる…お主ならな…」
「……ふん…ありがとうよ」
俺は話していると眠くなったのか欠伸が出たが、俺は立ち上がってテントの横に立った。
「……桜郎…寝たくなったらこのテントに入れよ」
「お主はどうするのだ?」
「外でモンスターが来ないが見とく」
そう言うと桜郎は不安そうに俺の方を見た。
「…大丈夫なのか?……目が閉じかけているぞ?……少し…寝たほうが……」
「……そうだな…それでは少し寝る事にしよう」
桜郎があまりにも俺を心配するので、俺は蛇に「見張っていてほしい」と言って仮眠する事にした。
「……ふぅ…」
しかし俺は、大きな音が聞こえて目が覚めた。起き上がると、そこは近代的な街だった。だが、人は誰一人歩いていない。
「…………!?」
俺は服装が変わっていた、それにビルのガラス張りの反射で見えたが、顔も変わっていた。そんな時、目の前から何かがこちらへ向かってきた。
「なんだ……?」
それは無数の、これまた得体の知れないバケモノだった。しかもそれぞれが武器を持ち、俺を見ている、仲良くできそうな雰囲気ではないな。対して俺は何も持っていない。
「……!」
すると、俺の目の前に何処かで見た事のある刀が出現した、そしてそのまま浮いている。
「……ひとまずこれを使おう」
俺は刀を手に取り構えた。バケモノは俺の近くまで来ると襲いかかってきた。
「…ハァッ!!」
襲いかかってきた三匹のバケモノを、目にも留まらぬ速さで斬り伏せた。バケモノは少し静止していた後、倒れた。
「……俺の身体ではないみたいだ…」
何故か俺は、神業のような剣技を使った。一体どうなってるんだ?
「…それにしても数が多いな……」
俺は刀を構えて回転斬りをおみまいしてやろうとした。結果、回転斬りはできた。だが、俺の回転斬りはまるで斬撃の嵐のような旋風を巻き起こし、バケモノを切り刻んでいった。
「………ふぅ…全くどうなってんだ…マジで…」
周りには斬られたバケモノが無数に倒れていた。なんか、俺の回転斬りの熟練度というなんというか、それが格段に向上しているような。
「……身体能力や技術が向上している…?」
考える隙など与えず、バケモノは迫ってきている。
「まぁ、コイツらを倒してからでも遅くはないか…!」
俺は刀を振って血を払い、バケモノに向かっていった。
「……今から悪魔だろうとモンスターだろうと俺が斬ってやるよ…」
そして、バケモノに向かって刀を振り上げて俺は叫んだ。
「……お前ら…!……鳴き叫ぶ準備はできたか…!?」




