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無喰



「………ふむ…」


視界がボヤけている、もうすぐ意識が無くなるだろう。そんな時、俺の目の前に人影が見えた。


「…身の丈以上の敵との死闘を超えて強くなる…か………考え方は悪く無い……だが…お前ではこのモンスターに挑むのは早すぎる」


人影は確かにそう言った。そして、腰の刀を抜いてモンスターと対峙した。


「………竜か…」


[焔龍]


危険度SS

ドラゴンの変異種で、火を操るドラゴン。通常のドラゴンと違い群れで行動しないものの鱗はより硬くなり、牙や爪も発達している。


焔龍は、ギルドの中でも数少ない実力者だけが討伐可能と言われているモンスター。俺なんかが倒せるわけがなかったのだ。


「……あ……ぶない…」

「…心配無用」


その影は、焔龍が迫ってきても動かない。怖くないのか!?


「………セイッ!!」


焔龍がその影を喰らおうとした時、俺が聞いた焔龍の咆哮よりも大きな音が辺りに響いた。


「グガッ…ガ…」


よく見ると、その音は影が地面を踏み込み、焔龍の首を切断した音だった。そして、焔龍の首と体は淡い霧のようになって消えた。


「……一太刀で斬れたか」


さっきまでボヤけていた視界が、今はハッキリと見えている。それで分かったが、その人影は老人だった、年齢が70歳程の。


「…お前」

「……………」

「……これを飲め」


俺はその老人に瓶に入っている黄金で、輝く液体を飲まされた。すると、身体の傷口が無くなっていった。こんな瞬時に傷を塞ぐ物があるとは、俺はその液体が気になって尋ねた。


「これは……」

「……ヘリオボトルだ…この液体は飲んだ者の傷を瞬時に塞ぐ………そしてその液体は太陽に照らしておけば満たされる…優れものだ」


そう言うと老人は背を向けて歩いていこうとした。


「待ってくれ!」

「…………」


俺はその老人を引き留めていた。すると老人は立ち止まり、俺の方に振り向いた。


「……俺に強くなる方法を教えてくれ…」

「………………強くなる方法だと…?」


老人は俺を目を見た。目をそらさず、真っ直ぐと。


「………懐かしい眼差しだ…」

「……?」

「……………力を欲する奴はいつもそんな眼差しをする…」


そう呟くと、老人は再び背を向けた。そしてその後、俺に言った。


「終わりなき道を歩む覚悟を持つならば……お前を今よりかは強くしてやれるかもしれん」

「……覚悟か…そんなものを持つだけでいいのか?」


そうして、俺はその老人についていった。その老人こそが、樹一郎さんだった。そして、俺は樹一郎さんの住む小屋の外にいた。


「……俺の流派は一般に知られているような…複雑なものではない………ただ…斬って勝つという一点だけを突き詰める…単純なものだ……」


そして、俺の目の前で剣技を披露した。それは俺が今まで見た事のある剣技とは違い、何処か異質だった。剣を地面に突き刺さして、樹一郎さんは言った。


「俺の流派は様々な流派の集合体……故に流派の奥義となんかの技も無い」

「………」


樹一郎さんの流派は構えが無い、いや、流派そのものが無いように感じた。構えが無く、流儀を持たない。だが、その時の俺は気付いていなかった。


技と呼べる技が無いと言っていたが、樹一郎さんの剣技は他の流派が伝える剣技に似ていた、十分に技と呼べるものだ。だから俺は気になり、尋ねた。


「技と呼べる技が無いって言っていたが、アンタの披露した剣技は技じゃないのか?」

「……技だった…だが…技では無くなったものだ」


樹一郎さんの披露したあの剣技は、他の流派の技のようだった。それを樹一郎さんが自己流で少し変えたものだった。完成されている技を変えた事で、それは完全では無くなる。すなわち技では無くなるとも言った。


「…強くなるには他の流派の技も扱えなければならないからな……俺が取り込んだ時点で技では無くなるが」


他の流派を取り込む樹一郎さんは「自身の流派に名を付けるとすれば[無喰流]だ」と言った。無喰流の無は構えが無く、流儀の無い樹一郎さんの太刀筋。無喰流の喰は、他の剣技全てを取り込み、我が物とする獣の太刀筋。


特定の流派に囚われない無の太刀筋と、流派を取り込む喰の太刀筋が合わさる事で頂点に近付く事ができると言った。


そしてそれ故に特定の流派を持たぬと、技を持たぬと、型を持たぬと。そして流派を取り込み進化し続ける、様々な流派の集合体のようなものだと。それ故に永遠に未完成だとも。


「……他の流派を取り込み…他の剣豪を圧倒する事で……見出した術がある」


樹一郎さんの言う【()()】は、どんな武器が、流派が、技が襲いかかろうとも、必ず跳ね除ける術だそうだ。


「……技とは華麗に…そして独自の型で敵を斬るものだ……」

「…ふむ……」

「……それでは…【()()】を何故…術と呼んだか……」


剣を鞘に納め、樹一郎さんは言った。










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