田中の師匠
「……ミノル………ミノル…!!」
「ッ!?」
俺は自身を呼ぶ声を聞いて起き上がった。横には桜郎と蛇がいて、心配そうに俺を見ていた。
「俺は……」
「………お主は倒れたのだ…唐突にな」
「……良かった…その様子では大事なさそうだな…」
倒れたのか?……じゃあ…悪神は……
「そうだ…悪神は!?」
「悪神……?」
「俺たちの前へ…現れたはず…」
「何を言ってる…?」
俺は悪神と戦った事など、全て話した。
「…夢……ではないのか?」
「……夢………それじゃあ…倒れている時に見た…夢なのか…?」
そこで俺は、桜郎達にいつ倒れたか尋ねた。
「お主は一人でゴブリンを全滅させた後…突然倒れた…」
「……ゴブリンを倒した瞬間…」
それじゃあ、倒れたのはあの閃光が見えた時か、あの瞬間に俺は意識が無くなったようだ。
「…妖と戦っていた時に……お主が突然『斬る』と連呼しながら辺りを見境なく斬り始めたのだ」
「………すぐに離れたので桜郎様に怪我は無かったがな」
辺りを見ると、生えていた木々は真っ二つに斬られており、ゴブリンの魔素が大量に落ちていた。
「……騒がせてしまったようだ…すまん……」
「………謝罪は不要だ…その代わりに一つ尋ねても良いか?」
「…なんだ……?」
「……樹一郎殿とは…どういう関係だ?」
その単語を聞いて俺は少し驚いた。ここで何故、その言葉が出たのかが分からなかったからだ。
「……樹一郎…俺の師匠だ…」
「あの…樹一郎殿を……師に持つとは…」
「逆に聞くが…何故樹一郎さんが出てくるんだ?」
「………お主が豹変する直前にその名を呟いたからだ…」
“樹一郎さん…アンタはこう言ってたよな……ただ…斬れと…”
「…………」
……
もう夜に差し掛かっていたので、俺たちは野宿の準備をして、焚き木の前で話していた。
「野宿で大丈夫か?」
「うむ…問題無い……このように野で寝るのも悪くは無いな」
そして、俺は少し気になった事を桜郎に尋ねた。
「……樹一郎さんを…殿を付けて呼ぶって事は…知り合いなのか?」
「塔の近くに道場があるだろう?…あの道場の師範代が樹一郎殿の御友人でな……私や蛇もたまに話していたのだ」
「…なるほどな」
すると、今度は桜郎が俺に樹一郎さんの事を尋ねてきた。
「ミノル…お主は樹一郎殿といつ知り合ったのだ?」
「……まぁ…色々あってな」
……
「……弱い…弱い弱い…」
俺はスキルを持たずにこの異世界へやって来た。だから、一度も戦った事の無い俺は他の奴等と違って弱いモンスターしか倒す事が出来なかった。
だが、俺と同じ様にスキルを持たない奴がいた、そいつは俺の事を強いと言った。俺が倒しているのはスキル持ち共が引き受けてるような依頼ではなく一般人の依頼、これまた弱いモンスターの討伐だというのに。
「……やっぱり凄いよ…ミノルは…」
「凄くねぇよ…俺の依頼なんて簡単なものだし…」
「いや…だからだよ」
「ああ?」
そいつの最強の考え方は俺とは違った。そいつは自分よりも他人を優先し、小さな事でも人々に感謝されるような事ができる者こそが最強だと思ってるボランティア精神の持ち主だった。
「そうか……」
「…俺も……ミノルみたいに人々に感謝されるようになりたいなぁ…」
そいつはいつしか腕を上げ、強くなったが俺と同じように人々の為に依頼をするようになった。
しかし、魔族に壊されてしまったがな。しかも俺はその光景を魔族の国へ侵入して見てしまった。
「………」
俺は、ギルドの自室にこもった、唯一分かり合える人間を失った時の喪失感はとてつもないものだった。
アイツが魔族にさらわれた、俺のせいだ。アイツの人生を終わらせてしまった、俺のせいだ。そして精神を破壊された、俺のせいだ。アイツを喪失した、俺のせいだ。
「………弱い…弱い弱い…」
ムカついてたのだろうな、弱い自分に。俺は危険度SSのモンスターに単独で挑んだ。身体はボロボロで、傷口から血が溢れている。
「……駄目だ…」
身体なんて、死なんてどうでもよかった。その時に俺が考えていてのは、どうすればこのモンスターを倒せるかどうかだった。
『…速さが足りない……筋力も…乏しいな……技術も必要だ……えーと…アレを…こうして……いや違うな……こうか?…いや駄目だ……それじゃあ……』
そうこうしているうちに、俺はデカイ一撃を食らい、地面に倒れた。
『………クソ…』
目の前のモンスターは俺の近くへ歩いてくる、トドメを刺すつもりなのか、俺を喰うつもりなのかは分からない。まぁ、どちらにしろ待っているのは死だろう。
意識が朦朧とする、俺がこれから訪れる本当の死を覚悟したその時、あの人は現れた。




