ひたすらに斬れ
「……国から出たのはいいが…」
「………こんな早くモンスターと出会うとはな…」
俺たちはアルトリアから出て、少し歩いた場所で沢山のモンスターに囲まれていた。
「…やるしかないな」
「……桜郎様に近付けてはならぬぞ」
剣を抜いて、俺と蛇は構えた。俺たちを囲むモンスターは、ゴブリンとゴブリン、ゴブリンだ。
「………ゴブリンばっかだな…」
「……一匹一匹の力は小さなものだが…大勢集まると大きな力となる妖…そう聞いている」
そう、ゴブリンの厄介な部分は集団で行動する事だ。一匹見かけた時は百匹いると考えた方がいい。
「だが……」
俺は思い切り前方のゴブリンに向かって水平斬りを食らわせた。ゴブリンは一斉に倒れた、おそらく十匹は倒しただろう。
「……ここは平原だ…大剣など…大振りな剣の実力をフルに発揮できる…洞窟や屋内と違ってな」
「…壁が無い故に…か」
実際、洞窟や屋内では、手斧のような短く、振りの早いものが有利だ。だが、平原では多少振りが遅けれど大振りなものが有利だ。距離さえあれば攻撃を食らう心配は無い。
「…まとめて倒すぜ」
ゴブリンの攻撃が早かろうと、ゴブリンと俺のこの間の距離だと、俺が剣を振ればゴブリンの攻撃よりも先に、俺の攻撃がヒットする。大振りで遅かろうとな。
「キガッ!!」
「グギャア!!」
俺は剣でゴブリンの群れを薙ぎ払った。俺に斬られて、空中に飛ばされたゴブリンの結晶が雨のように降ってきた。
「……大きな霰だな」
「…………なんと荒々しい…」
ひたすらに…俺は斬った……この数を相手にするのは少々大変だな……
「グギャォ!」
俺の目の前にはまだまだ大量のゴブリンが迫っていた。まずいな…この数は……予想よりも………
“……この世には…流派やら…技などというものがあるな…?”
“ああ…”
“…俺が教えるのはそんなものではない……俺は流派を持たず…技と呼べる技も持たぬ”
“それでもいい……強くなれるのならな”
俺が師匠と呼べる人は、俺に流派やら技を教える事は無かった。ただ、いつも口癖のように言っていた言葉がある。
“…斬る事に……流派も技も不要………ただ…ひたすらに斬れ……そうする事が…お前の目指している到達点への近道だ”
「ウギェェ!!」
「全て斬るのみ!」
師匠の言葉を思い出し俺は斬った、ただ斬った、ただ目の前のゴブリンの群れを斬った、斬り続けた、全滅させるまで。
「…ミノル……?」
「……………」
俺の周りに結晶が大量に落ちている、どうやらもう、ゴブリンはいないらしい。
「……ッ…!」
結晶の山で俺が立ち尽くしている時、閃光が襲った。思わず目を閉じた、目を開けると空が奇妙な色になっていた。
「…なんだ……」
「悪神を倒そうとしてるんだって?……だからこちらから来てやったよ」
「あ…く……しん…!?」
俺の目の前にはフードを被っていて顔はよく見えないが、禍々しいオーラを帯びた男が立っていた。
「来たけど、桜郎以外はいらないな」
「…ッ!?」
「死んでいいよ」
悪神は近付いてきて、俺を蹴り飛ばした。良かった、剣でガードしたから致命傷は免れたが、何という威力だ。
「……弱い…のではなかったか…?」
俺は100m程吹き飛ばされ、木にぶつかった。
「それじゃあ…桜郎は貰って……」
「待てよ」
「……なんだよ」
悪神が俺の方を見た瞬間に俺は剣を振った。悪神はすかさず避ける。
「ッぜぇな……死んどけって!」
「ぐふッ!?」
「死んどけよ!」
さすがは神といった所か、軽いパンチで何十本か骨が破壊されたようだ。だが、腕は使える。
「……腕が使えるのなら…まだ……斬れる…!」
「…ッ!?……抜けない…」
悪神の拳が俺の腹に食い込んでいるが、俺は構わず剣で悪神を斬った。
「……そ…そんなの聞かない…よ……ッ!」
「あぁ…分かってるさ……」
「うグッ……ッ…」
神がそんな斬撃で死なない事など知っている。ならばどうするか、そんなの単純だ、死ぬまで斬ればいい。満身創痍になろうともな。
「お……お前…ッ……マジで人間かッ…!?」
「……ッ!!」
「ど…どうなってんだよ!……肺も…胃も…内臓がぐちゃぐちゃになってんだぞ…ッ!?」
ただ斬った、無心に。ただ斬り続けた、命の灯火が消えるまで。斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った斬った……斬った……




