情食系
「……アンタら…来たのか…!?」
俺たちに声をかけてきたのは宿の主人だった、右手には剣を持っている。
「ああ、アンタの帰りが遅いもんで、見にきたんだ」
「ああ…すまんな……せっかくの客に迷惑かけて…」
「気にするな、俺はコイツが心配だっていうから来ただけだ」
そして、俺たちが話していると大量のモンスターが俺たちに襲いかかってきた。
「うおッ!」
「多いな…」
俺たちは剣を構えて、モンスターを斬った、主人もモンスターを斬っている。
「スゲェな」
「これでも、ギルド戦士だからな」
「へぇ……やっぱり?」
その時、主人の後ろに半透明な人型のモンスターが現れた、幽霊系モンスターか。
「ぬッ!」
「主人!…これを使え!」
「助かる!」
俺は主人に幽霊系モンスターに刺すと物理攻撃を食らわせられる[浄魔の杭]を投げた。主人はそれをキャッチして幽霊に突き刺し、斬った。
「………ヤッベ!」
「せいッ!」
「イギョェェェェ!!」
「…!」
幽霊は叫びながら消えていった。主人はそれを確認して、俺たちの方へ振り返ると礼を言った。
「……改めて礼を言わせてもらおう…助かった…」
「ああ、此方からも礼を言おう、其方から出てきてくれたおかげで探す手間が省けた」
「………あ…?」
蛇の一言で、困惑する主人に俺は尋ねた。
「…アンタ……本当に宿の主人か?」
「何を……見たら分かるだろう…?」
主人は何を言ってるんだと言わんばかりの顔で、俺に言った。
「ならよ……どうしてあの浄魔の杭を……キャッチできたんだ?」
「…………は…?」
「キャッチするには剣を一旦離す必要がある、だが、アンタは左手で受け取り、モンスターに刺すと、右手の剣でモンスターを斬った」
「………」
俺は無言で目を白黒させる主人に叫んだ。
「左腕は怪我をしていた筈だよな……見た感じ骨折だった……だから…アンタは飛んでくる物をキャッチできる筈がなかったんだ!」
さっき杭を投げた時に主人は左腕を怪我している事を思い出して、ヤベェと思ったが、主人はキャッチした。その時に不審に思ったんだ。
本物の主人の筈なら、一旦剣を捨て、杭をキャッチ。そして、幽霊に刺した後、剣を拾って斬る、そうしなければならない。
「………く…」
「…く……?」
「くククク区傀儡苦君」
突然、主人は小刻みに震えだした。そして、どこからともなく現れた黒いモヤが主人を包み、球体のようになった。
「なんだ……このモンスターは…」
「…黒き妖か……」
「……この妖が…黒霧…!?」
そして球体がフッと消えると、中から女の子が出てきた。
「……お前が黒霧か…」
「うっかりしていた……そういえばアイツは左腕を負傷していたな」
少女は左手を見ながら言った。どうやら、この黒霧は他者に化けるようだな。
「……お主だろう……妖を傀儡と化し……村を襲わせたのは……何故…この村を襲ったのだ…?」
桜郎が黒霧に尋ねた、すると黒霧は村全体を見た。そして、燃え盛る民家、逃げ惑う人々、暴れるモンスターを見ながら答えた。
「…良い風景だな………実に美味…」
「……なに…?」
「……食事だよ…我は絶望を食い物にしているからな」
どうやら、この黒霧は他者の感情を喰らう情食系モンスターらしい。
「だからモンスターを操って村を襲ったのか……」
「…ああ……それで…どうするのだ?」
「……“害を成すとしても、コミュニケーションの取れる程の知能を持つモンスターの命は奪わない”……これは俺のルールだ」
俺は鞘を剣に被せ、取れないように固定した。
「……何故…知能を持っていたら命は奪わないかって?……それは話の通じない獣と違って…説得できる可能性が少なからずあるからだよ」
「…………ミノル…」
「…それでどうするかって?……お前を殺さずに…殺してやるよ…黒霧…」
「ほう…」
黒霧は構えた、そして、俺は後ろにいる蛇と桜郎に言った。
「…離れてろ……」
「……分かった」
「それでは、私達は村の消火を手伝おう!」
「承知…」
蛇と桜郎は離れるように走っていった、だから村の広場には俺と黒霧だけだ。
「……お前はどんな声で哭いてくれるのかな?」
「…俺が哭く事は無い……悪いな…」
そして、黒霧と向かいあった。鞘の付いた剣は結構重い、素早い攻撃はできない。
「…こいよ」
「ふん…我に挑発とは……愚かな」
黒霧はその場で黒いモヤを残して消えた。




