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絶望に中指突き立てろ



『……蛇…無事でいてくれ…』


桜郎は床の大穴を覗いていた。


『…私も……一人で進まなければ…』


前方を見ると暗闇が広がり、周囲から物音が聞こえる。桜郎は進まなければならないとは思っていたが、足が動かなかった。


『……ふふ…やはり私は…一人では何もできぬな……』


目の前に広がる暗黒に怖気ていたのだ。そんな時に、桜郎はその場で目を瞑り、カッと見開いた。


『…弱虫のままでは駄目だ!……私も…己の足で進むのだ…!』


覚悟を決めた桜郎は怖気ながらも、前へ進んでいった。


『…!』


すると、目の前からビチャビチャという音が聞こえた。それは段々と近付いてきている。


『……あの妖だ…隠れねば……私では倒せぬ…』


辺りを見回すと、桜郎の横に倒れているロッカーがあった。


『…この中へ……』


桜郎は急いで倒れているロッカーの中へ隠れた。そして、隙間から覗くと、それはモリンシだった。モリンシの足が見え、桜郎は息を殺した。


「フシュル……フシュ…」

『…このまま通り過ぎてくれ……』


その願いとは裏腹に、モリンシはロッカーの目の前で立ち止まった。


「…ブジュ……」

『……!』


そして、モリンシはロッカーの隙間から中を覗いた。だが、そこには誰もいなかった。


「……ブ…ブ……ブェブ…」

『………危なかった…』


桜郎はロッカーの奥へ隠れていたのだ、モリンシが暗闇へ消えたのを確認して、桜郎はゆっくりとロッカーから出た。


『…よし……先へ進もう…』


ペンダントの光で照らされた廊下を、桜郎は歩いた。すると、足元へ何かが当たった。


「……うっ…!」


足元にあったのは、死体だった。そして、死体の男は何か光るものを握りしめていた。


『…これは……鍵…?』


桜郎が鍵を取った瞬間、その男は起き上がった。


「い…生きていたのか…?」

「……あー…」


起き上がった男に桜郎が近付くと突然、男は半透明な液体を撒き散らした。


「ゴボェ…ゴボッ!」

「…なッ!?」


そして、男はさっき見たモリンシのような姿となった。


「ゴビェェェェ!!」

「……ッ!!」


桜郎は叫ぶ男の横を通り抜け、走って逃げた。背後からはビチャビチャと音がする。


『…早く……速く…夙く逃げねば……捕まれば…御仕舞(おしま)いだ…!』


廊下にある障害物を避けて、桜郎はひたすらに逃げた。モリンシの足音が遠くなると、廊下にある一室に入った。


『……これを…』


どうやらその入った部屋は物置のようだった。桜郎は近くにあったを押して、扉を塞いだ。


『…入ったのは良いが…どうしたものか………ッ!……あれだ!』


その部屋には1つだけ窓があったが、桜郎の身長では届かない程、高すぎる位置にあった。


『……高いな…』


桜郎は何かないかと辺りを見ていた、その時に扉の前でモリンシの足音が聞こえた。


『…!』


水の音と共に、扉と机の隙間からモリンシが這い出てきた。


「ゴジュルルルル」

「……そんな…」


覚悟を決めた、自身がこの場で死ぬ覚悟を。そんな覚悟をした時だった、走馬灯のようにある記憶が脳裏をよぎった。



……



「…諦めねば…活路は見えるだろう」

「……その言葉は…」

「ある男が言っていた事だ」


桜郎はスカーレットと塔で話していた記憶を思い出していた。


「その男とは……」

「剣鬼…と呼ばれた男だ」

「ふむ…剣鬼…」


そして、スカーレットは続けて話していた。


「……とてつもく…強い人だ……私よりな」

「ほう……スカーレット殿よりも…」

「ああ」

「………そんな剣鬼の言葉…か」


“怖じけるな、死ぬ直前だったら自分を殺そうとしてる奴に、神に挑む時は神に、笑顔で中指突き立てろ。そのくらいの覚悟が無いと勝てない、だが、逆に言えばそんな覚悟があれば確実に勝てる”


“相手をブッ倒す、自分の腹に穴が開く覚悟をしろ、そんな覚悟を持てば無敵だ。勝利、偶然、奇跡が向こうからやって来るだろうさ”



……



「……剣鬼の残した言葉……何故このような事を今思い出したのかは……分からぬがな…」


その時、辺りが揺れ出した。そして、その揺れのせいか、モリンシの頭上にピンポイントで天井が崩れ落ち、モリンシは下敷きとなった。


『……何という奇跡…それでは今のうちに…これで…』


桜郎は、置いてあったスチールラックを登り、窓へ手を伸ばした。窓の鍵は錆びており、動きそうにない。


『…ッ!』


スチールラックの一番上へ登り、桜郎は思い切り蹴った。古びていたからか、ガラスの割れる音と共に窓ガラスは粉々になった。


『……破片に気を付けながら降りよう…』


窓の下にはゴミ箱があった、桜郎はそのゴミ箱の()に向かって飛び降り、埋もれた。


「…この香りは当分……消えそうにないな…」













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