轟火
「ッく……うッ……」
暗い廊下、そこで光に包まれて倒れている男があった。
『…ここは……』
男は起き上がると、周囲を確認した。
『……床が腐食していたからか崩れ…某と桜郎様は落ちた……』
蛇と桜郎は、崩れる床から下へ落ちていった。しかし、蛇は桜郎を掴んだ後、落ちていく最中にパイプを掴んで落下を防いだ。
そうして、桜郎をその階の廊下へ飛び移らせ、自身も行こうとした瞬間にパイプは折れて、桜郎のいる階より少し下の階層へ落下した。
『……あの妖がこの塔で彷徨っている…早く桜郎様を見つけ…田中と合流せねば…』
蛇は刀を抜き、急ぎ足で前へ進んだ。
『!』
そして、少し歩いた後に蛇はその場で跪いた。
『……妖か…近いな…』
蛇は耳を澄ませていた。蛇の耳は非常に良く、建物や洞窟のような場所であれば、反響する音を聞いて位置はどこか、生物か、を識別できる。
『…そこか』
蛇は前方へ向かって小柄を飛ばした。小柄は、風切る音と共に、暗闇の中へ消えた。
「ギッ!」
『……やはりな』
モリンシの声を聞いて蛇は地面を静かに、それでいて強く蹴り、その勢いで刀を前方に見えたモリンシの胸に突き刺した。
「ウゲェァァァアッ!!」
「ふッ!」
蛇はモリンシの胸に突き刺した刀を思い切り引き抜いた。半透明な液体が飛び散り、モリンシは溶けていった。
『……妖が多く潜み…どこが出口か分からない故…無闇に彷徨く事はできぬな……それ以前に桜郎様を見つけなればならぬ』
刀に付着したドロドロの液体を払い、蛇は再び耳を澄ませた。
『……桜郎様の足音は無いか…』
蛇が耳を澄ませて、桜郎を特定しようとするが、聞こえるのはビルの軋む音と、モリンシの足音だけだった。
『致し方ない…先へ進むとしよう……桜郎様ももしかすると出口へ着いているやもしれぬしな…』
そう考えた蛇は、指笛を吹いた。その音は人にしか聞こえず、自我の持たぬ獣には聞こえぬ笛だった。
『………この先に広い場所があるな…出口があるか探してみるか…』
音の反響でこの先に開けた場所があるという事が分かった蛇はその場所へ歩いていった。
……
『……ふむ』
その開けた場所はビルのロビーのようだった、入り口は外で見たように塞がれていた。
『ここに出た……という事は…某は一階へ落ちた…という事か』
蛇は出口がないかロビーを見ていた。そんな時、月明かりに照らされた死体が目の前にあった。
『…妖に命を奪われた者か……』
死体に手を合わせた後、蛇は死体の光るものが目に留まり、取ろうとしたその刹那……
「うばぁぁぁ!!」
「!?」
その死体だった男は起き上がって口や目から半透明な液体を吹き出した。
「……なんだ…!?」
「ウゴォォ!!」
そして、全身がその液体に包まれると、3m程のモリンシとなった。
「…感染……していたのか」
「ウバダァァォ!!」
[ハルマ・モリンシ・オバテ]
モリンシとは、ハルマの胞子やモリンシの分泌する粘液が体内に入る事で感染するが、その時、その胞子や粘液が体内で過剰に蓄積される事によって変異し、通常よりも強化されたモリンシ。
『…まぁいい……斬るか…』
「ゴォォァォァ!!」
オバテが雄叫びをあげている時に蛇は左手にしている包帯を取った。すると、奇妙な小手が露わとなった。
『……絡繰が施されている小手……エミリア殿から貰い受けたものだが…』
蛇は小手のしてある左手を広げた、その瞬間に掌に大気中の空気が集まった。
『そして…アレを想像する』
自身の方へ向かってくるオバテに、蛇は掌を向けた。
「ウガガガガ!?」
『…なるほど……存外に使えるものだ』
蛇の掌からは、炎が噴き出した。オバテは目の前の炎に怖気ている。それを見て蛇は炎を斬った。
「ウボァ!」
炎が斬撃状に飛び、その炎がオバテに着火した。オバテは悶え苦しみ、暴れた。
『……ん?…あの壁の奥から風の音……丁度いい…』
蛇は暴れるオバテの頭上に飛び、頭に向かって刀を突き刺した。
「グエッ!」
『……知能の無い妖は…少しくらい操る事ができる』
刀を突き刺したまま、蛇は刀を壁の方向へ傾けた、オバテは暴れながら壁に近付いていく。
「……ウゴォォ!!」
「さらば」
そして刀を引き抜き、着地すると炎を噴射した。オバテは燃え上がり、壁に向かって倒れた。壁はそのオバテの重みに耐えられず、轟音を立てて壊れた。オバテは壁を破壊し、しばらく原型を留めて燃えたあと、液状化した。
『………これで外へ行けるな……ん?』
外へ出ようとした蛇は足元に落ちている光るものに目が留まった。
『…これは……さっき取ろうとしたものか……』
蛇は液体の中から光るものを取り出した、それは鍵であった。
『……鍵…何処のものか…』
鍵を取った蛇は、壊れた壁から外へ歩いていった。




