瞬発力は大事!
「…なんだ…!?」
「……梅岡さん…騎士たちを守っていてください」
すると暗闇から大きなオークが出てきた。身長は3m程で、筋肉ムキムキだ。
[ジャイアントオーク]
危険度C
オークの上位種で、主に肉体が進化したオーク。圧倒的な力で敵をねじ伏せる。知能も人間と会話できる魔族程になっている。
「……なんだ…また騎士が来たと思えば……」
「………悪いですが…あなたを殺します」
「…聞き間違いではないな…?……誰が誰を殺すって?」
その瞬間にジャイアントオークが十郎に向かって殴りかかった。その時、拳と拳が当たったと思えば轟音が響いた。
「……あ…?」
ジャイアントオークが自分の腕を見ると、腕がありえない方向に曲がっていた。
「…脆い腕ですね…」
そして十郎は飛び上がって、左足のかかとをジャイアントオークの頭上に落とし、そのまま右足で頬を蹴り飛ばした。
「…ぐッ…ガッ…!?」
ジャイアントオークの牙は蹴りと同時に折れた。そして十郎が着地するのと同時に白目をむいて倒れて消えた。
「……やったか…」
「はい」
…
「…本当に……倒すとは…」
俺たちは隊長の元へ無線で連絡して、隊長と騎士達を呼んだ、隊長たちは驚いている。
「…それじゃあ…僕達はこれで…」
「……なぁ!」
俺たちがその場を去ろうとすると、隊長に呼び止められた。そして十郎の方を見ると名前を尋ねた。
「…名前は……」
「……桜十郎です…」
「サクラ…ジューロー…」
「はい」
「…今回はお前のおかげで平和が保たれた……国に来たら報酬が貰えるぞ…?」
「いえ…急いでいるので…遠慮しておきます」
そして十郎はその場を去っていった、俺も後を追って歩いていった。
「…すごい子供がいたもんだな…」
…
「…それで……あと何キロくらい?」
「アルトリアまで残り6km程ですね」
俺たちは山を越えて、再び平原を歩いていた。しかし、何故ジャイアントオークの腕は曲がったんだ?…俺は十郎にその事を尋ねた。
「…お前の腕の何十倍も太いジャイアントオークの腕をどうやってあんな風に折ったんだ?」
「……速度…あと力の方向…ですかね…?」
十郎曰く、速度と力の方向に気を付ければ女子供でもプロボクサーのようなパンチが打てるらしい…
「…ったく……相変わらず凄いな…」
「いえいえ」
「そういえば…お前確か効率的に瞬発力を鍛える方法を考えていたよな」
十郎の瞬発力は異常だった。その瞬発力を使って腕相撲、アームレスリングも世界一に輝き、ベンチプレスも600kg持ち上げられるようになった。
しかも、筋肉を鍛えずしてベンチプレスで600kgを持ち上げたんだよな……その後、十郎は自分の技術を分析して、誰でも【桜十郎】の技術を使えるようになる方法を公表した。
そしてその方法を使った陸上選手の100m走のタイムが5秒も縮まっていたな。
「けど…それって要するに自分の技術を他の人に教えているって事だよな…何でそんな弱点晒すような事するんだよ」
「…スポーツで結果を残したい人々の為です」
「……へぇ…カッコいい事するな…」
そんな会話をしながら歩いているとスマコに世界の情報からのメッセージが届いた。[世界の情報]というのはその名の通り、世界で起きている事をメッセージ形式で伝えてくれる機能だ。
[アルトリアで騎士選抜試験が主催!]
アルトリアで一年に6回行われる騎士の募集が始まりました。アルトリアの試験は厳しいと言われているので、受ける方は頑張ってください。そして、合格者の中でも特に優秀だった者は聖騎士に昇格されます!
「…騎士募集か…」
騎士になりたいとも思わない俺たちには無縁の話しだな。しかし…
「……急ぎますよ…梅岡さん」
「え?…なんだよいきなり…」
「……その試験の受付は今から10時間後に終了らしいので」
十郎は走っていった、試験受けるのかよ!…………100m走では7秒、1000kmマラソンでは13分でゴールしたという記録を持つ十郎は俺の目の前にはもういなかった。
「…速いなぁ!!」
俺も思い切り走っていった。俺は50m走は6秒代なので、当然追いつけないがな。しかし、二、三分程走っていると、目の前で十郎が立ち止まっていた。
「……ま…待っていてくれたのか…」
「はい」
「…すまねぇな」
十郎は俺に合わせて走ってくれた……そういえば俺が持久走でどれだけ遅くても一緒に走ってくれて…転んだら起こしてくれるような奴だった…
「…どうしたのですか?…笑みを浮かべてますけど……」
「…なんでもねぇよ」
俺たちは残り5kmのアルトリアを目指して走っていった。